疲れたエルフェリーンと元気の出る料理
木材をクロのアイテムボックスに搬入し屋敷へと戻ると、大人バージョンのエルフェリーンが広い庭の隅で真っ黒な岩に光り輝くバスターソードを振るい切断していた。
「凄い魔力を感じるわ……濃厚で凝縮された魔力は黄金に輝く……」
ビスチェの言葉通りに黄金に光り輝くバスターソードを縦に振り下ろすと光が溢れ、数秒遅れて黒い硬化岩の一面が剥がれ落ち、その断面は同じく黄金の色を放ち始める。
それを繰り返し底以外は黄金に輝く真四角な硬化岩が姿を現すとエルフェリーンは一息吐く様で、姿を少女へと戻しバスターソードを乱暴にその場に倒すと地面に腰を降ろす。
「師匠! 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄るクロにエルフェリーンが振り向き笑顔で手を振った事に、クロは走るスピードを緩めた。
「大丈夫ですよね?」
「あははは、クロは心配し過ぎだよ~少し本気でやらないと綺麗にカットできないからね」
辿り着いたクロがしゃがみ視線を合わせて問うと、笑いながら応えるエルフェリーンに胸を撫で下ろす。
「前にもミスリルのナイフを使ってゴーレムを切り裂いただろ。それと同じ事を魔剣でしただけなんだけどね、この魔剣は特別で魔力を馬鹿みたいに吸い取るから……少し疲れるんだよ。まあ、バカみたいな切れ味だけどね……」
≪断面が金の鏡見たいですよ≫
「それだけ師匠の魔力が凄かったってことよ。その魔剣も売れば国が買える代物よ」
魔力が抜けたバスターソードはクロの身長よりも大きく、幅の広さもクロがすっぽりと隠れられるほどである。柄の近くには三種類の光を放つ魔石が埋め込まれ、ミスリルを使った刀身にはルーン文字が刻みこまれている。
「はぁ~クロたちの顔を見たら少し元気が出てきたよ! よし! もう少しだけ頑張ろおっ? おおお、クロ、クロ、降ろしてよ~」
立ち上がろうとしたエルフェリーンを抱き上げたクロは、降ろしてという言葉に首を振り抱っこしたまま屋敷へと足を進める。
「そんなに疲れるのなら明日だって構いません! 師匠が倒れたら困る人が多いですからね! 家なんてゆっくり作ればいいんです!」
「あはははは、そっか……それならゆっくりでいいや。ねぇ、クロが作った美味しい料理が食べたいよ! 疲れが吹き飛ぶような料理を作ってくれないかな?」
「任せて下さい! 師匠の元気が出るような……そうだな、ニンニクを使った料理……ペペロンチーノか、アヒージョか、あとはウナギとか山芋を使った料理かな~疲れを取るなら梅干しとかは酸っぱいから……」
ブツブツと呟きながら足を進めるクロを抱っこされながら見つめるエルフェリーンは頬笑みながら運ばれて行き、それを後ろから追いかけるビスチェとアイリーン。
「何だか腹が立つわね!」
私も抱っこしてもらいたいですねぇ~クロさんにとってエルフェリーンさまは特別な人なのかもしれませんねぇ~私が疲れて立てない時も抱っこしてくれるでしょうか……
腕を組みながら口を尖らせるビスチェと、色々と思案しながら追いかけるアイリーンが屋敷に到着すると、エルフェリーンはソファーで涅槃像のポーズを決めながらクッキーを齧り、クロはキッチンでフライパンを振るっていた。
「何だか良い香りがもうするわ」
「師匠を抱いて帰って来たと思ったら急いでキッチンに立って料理を始めましたよ。何かあったのですか?」
≪師匠が立てないほど疲れたからクロ先輩が腕を振るうそうです≫
アイリーンが文字を浮かせるとそれを読み上げるルビー。涅槃像は寝返りを打ち背もたれへと顔を伏せる。
ふふふ、嬉しいな~クロが僕を心配して料理を作ってくれているよ~あはは、顔が熱いや……師匠らしいことをしている心算はないけど、クロがこんなにも慕ってくれていると思うと顔がにやけちゃうよ~
クンクン……いい香りもしてきたし、今日はどんな料理かなぁ~前に食べた角煮やもつ煮は美味しかったなぁ~ニンニクを使うといっていたけど煮込み料理かな? ペペ何とかとウナギと山芋といっていたけど……楽しみだなぁ~ふわわ。
クッキーを咀嚼し大きな欠伸をしながらソファーに横になるエルフェリーンは次第に睡魔に襲われ寝息を立てると、それに気が付いたビスチェが膝掛けをお腹にかけアイリーンがクロにメッセージを飛ばす。
≪エルフェリーンさまは寝ちゃったよ~ペペロンチーノは私がいただきま~す≫
鷹の爪とニンニクをオリーブオイルで炒めたところにパスタを投入し、メッセージに気が付いたクロは塩コショウをして味見をしながら頷くも肩を落とす。
「美味くできたのにな~起きたらまた作ればいいか。ほら、みんなで食べてくれ。俺はまだまだ料理を続けるからさ」
皿に盛りつけられた山盛りのペペロンチーノを受け取ったアイリーンは乙女たちに魔力で生成した糸のメッセージを飛ばすとテーブルが賑わい鼻をスンスンさせる白亜。
「白亜には辛いかもな。ほら、こっちに来い」
手招きするクロに目をキラキラさせる白亜はキッチンに常備している椅子によじ登る。
「ほら、たらこスパだ。魚卵にかつお出汁とマヨで味付けしたパスタだからな。麺が長いからよく噛んで食べろよ」
魔力創造でコンビニパスタを創造し開封するとキッチンのテーブルに置き白亜は嬉しそうな叫びを上げ、ペペロンチーノに夢中だった乙女たちの目が光る。
「あむあむ……魚卵のパスタ?」
「あれも美味しいのですか? あむあむ」
≪たらこスパですね。あれは最高に美味しいです。少し癖がありますが私は大好きでしたよ≫
食べながら喋る二人と違いアイリーンは魔力で文字を生成し浮かせることで食事のマナー違反にはならないだろう。
「他のも作るから、たらこスパを横取りしようとか思うなよ~」
立ちかけた三名は腰を降ろしペペロンタイムに突入する。
その間にクロは予め切って置いた山芋に海苔を巻き油で揚げ、揚がった磯辺風の山芋にとろみをつけたかつお出汁を小鉢に入れ、揚げだし豆腐のようにテーブルに並べと乙女たちからは歓声が上がる。白亜用には火傷しない様に麺つゆをかけ傍に置くと、小鉢に顔を突っ込み嬉しそうにシャリシャリとした食感を楽しみながら尻尾をフリフリとしならせた。
「何これ、美味しいわ!」
「シャキシャキでネバネバしますね。醤油を使っていて美味しいです」
≪揚げ出し豆腐よりも美味しいです!≫
ハフハフと熱々を食べる乙女たちにクロは最後の料理に取り掛かる。料理といっても魔力創造で創造したうな重を小ぶりの椀に入れゴマと海苔の千切りを乗せ、昆布とかつおの出汁を用意した土瓶に入れてテーブルに置く。
「これは?」
「なんちゃって、ひつまぶしだな。そのまま半分食べたら、残り半分はここに入れた出汁を入れてお茶漬けにして食べてくれ」
「そのまま全部食べたらダメなのかしら?」
「ダメじゃないが、そういう料理なんだよ。印象ががらっと変わって面白いぞ」
≪まさか異世界でひつまぶしが食べられるとは……クロ先輩様々です≫
クロを拝むアイリーンは顔を上げると椀を取り口に運ぶ。
「うまっ!? これ、うまっ!?」
「甘辛い肉が柔らかくて脂が乗り美味しいです! クロさんの説明がなかったら一気に食べきっちゃうところでしたよ」
ルビーの言葉に首をギギギと向けるビスチェ。あまりの美味しさに我を忘れて一気に完食したのだ。
「白亜にもあるからな~」
「キュウキュウ~」
嬉しそうに戻って来るクロに尻尾を振る白亜。
それを見送るビスチェの表情はとても悲しそうであった。
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