木材調達と禁句
翌日、雨も上がりエルフェリーンはひとり硬化岩を取りに向かい、クロとビスチェにアイリーンは人魚の元へと伝染病の特効薬を届けた足取りでオーガの村を目指す。
少しだけ遠回りしたこともあり太陽が真上になった所で村に到着しラライに抱きつかれるクロ。背中の白亜が「キュウキュウ」と再会を喜びオーがたちの歓迎を受けた。
「特効薬を届けに来たが、病状がある者や咳が出る者はいるか?」
クロたちを囲むオーガたちへ話を聞くが、オーガたちもまわりを見渡し顔色が悪い者や咳が出る者はいないようでホッとするクロとビスチェ。
「伝染病を運ぶのは鳥らしいからな。この時期だけは野鳥を捕って食べるなよ。その為の畜産業なんだからな」
「おお、こぼれた餌もちゃんと拾って野鳥が集まらない様にしているからな」
「それだけで、あの伝染病に罹らないのなら安いもんだ」
「手洗いうがいもな」
集まってきたオーガたちが特効薬を受け取りお礼や衛生関係の話をしていると、ナナイが現れオーがたちを散らすとクロたちは町の中へ足を進める。
「今年はまだ誰も発熱や咳をしていないよ。クロがいうように手洗いうがいの効果かもしれないね」
歩きながらナナイから村の現状を聞きインフルエンザに似たウイルス性の病気なのと確信するクロ。
「鳥から感染するという事もあってか、鳥が集まりそうな木々には近寄らないようにしているよ。ああ、腹を下す者も減ったと耳にしたな」
「それは手洗いの効果が出ているのかもしれないわね」
「体に悪い毒素が手から口に侵入してお腹を下す事もあるからな。手洗いうがいが予防策としては一番! 他の病気に掛かるリスクも減る事は良い事だろ」
「違いないね。ほら、ラライもくっ付いてないでお茶を入れて来な」
「は~い」
「今度は普通に入れてくれよ~」
走り出したラライにクロだけ特別と言いながら濃く苦いお茶を出された事を思い出した事もあり、大きな声で前もって注意をすると手を上げ「任せて!」と振り向き手を振るラライ。
≪どっちの任せてか気になる! ワクワク≫
「もっと濃いお茶がでたりね~」
二人で笑い合うビスチェとアイリーンに苦い顔をするクロ。母親のナナイは頬笑みながら走る娘を視線で追いかける。
「そうそう、丈夫そうな木の選別は終わっているし伐採も済ませてあるよ。濡れない様に積み上げてあるからね。ほら、あそこさ」
ナナイが指差す場所には小山のように積み重なり、木の皮を段々に積み雨が降っても濡れない工夫がされていた。格子状に組まれて風通しもよく、完璧とは言わないまでも乾燥し始めているだろう。
「仕事が早いな。アイリーンは伐採に興味があったみたいだが助かるよ」
≪私の糸に結び目を付けてチェーンソーとして使いたかった……≫
がっくりと肩を落とすアイリーンに申し訳なさそうな顔をするナナイ。
「それは木の加工の際に見せてくれよ。床だけは平らな方が歩きやすいからさ」
「私は壁も平らな方がいいのだけれど……」
≪任せて! 頑張る!≫
顔を上げるアイリーンにホッとするナナイ。
ほどなくして村長の家に到着し、靴を脱いで上がる一行をラライが嬉しそうに「いらっしゃーい!」と出迎える。
「少し休んだら木材を受け取りに行くからお構いなくな」
「ダメー、ゆっくりお茶を飲んでからじゃないとダメ―」
悪戯っ子のような表情でそれだけ言うと、キッチンへと下がり木製のトレーにお茶とカップを持ち戻って来るラライ。ナナイはそれを心配そうに見つめ、クロはいつでも逃げられる姿勢を取りながらも腰を降ろし、ビスチェとアイリーンは少し離れた位置に腰を降ろす。
「ふぅ~はい、お茶をどうぞ~お茶受けは、私が漬けたお漬物です!」
緑茶が配られ木製の皿の上にはカブのような真っ白な根菜の塩漬けが切り分けられ爪楊枝が刺さっていた。
「へぇ~ラライが漬けたのか! 偉いな!」
「うん、塩と何とかっていうハーブを使って漬けたの! 昨日漬けたばかりだから味はいまいちだと思うけど、クロなら食べてくれるよね?」
「クロなら食べてくれるわ!」
≪クロ先輩を舐めないで下さい!≫
「おいこら、二人も食べろよ。ラライのおもてなしはみんなで受けような。白亜もだぞ」
リュックを降ろすと白亜はラライの元へと走り、ラライは走り寄って来た白亜を抱き上げる。
「どれ、あむあむ……おお、あっさりしてるし美味いぞ。浅漬けって感じかな。独特な匂いに癖があるけど普通に美味いな……お茶とも合うし、本当に美味いぞ」
「あら、本当に美味しいわね……」
≪独特の風味が……何処かで嗅いだ事がある匂い……≫
三名がラライお手製の漬物を口に入れ感想を述べていると苦笑いするナナイが口を開く。
「それに入れたハーブはな、その、胃薬として使われているハーブなんだよ。だから体には悪くないから安心してくれ」
ナナイの言葉に苦笑いが伝染して行き、ラライも一枚口に入れると顔を歪める。
「何これ、まず~い! クロが出してくれるお菓子の方が絶対美味しいよ~」
黙って頷く女性たち。そこには母であるナナイも含まれており、クロは緑茶に合わせてひと口サイズに梱包された芋羊羹を魔力創造で作り出し配る。
「何これ、初めて見るよ!」
「私も初めて見るわ! ギザギザから開ければいいのよね?」
≪これは芋羊羹ですね! 安物ですが、これ美味しいですよね~≫
「いつもすまないな。クロが気に入ったのなら樽ごと持って行ってくれ」
ナナイからのキラーパスに悩みながら芋羊羹を開封し口に運ぶクロ。女性たちも自身で開封して口に運び、抱っこしていた白亜はラライの腕から逃げ出しクロの前で大きく口を開く。
「白亜も食べるよな~まずはラライの漬けたって、おい、それは俺の芋羊羹……」
クロの食べかけの芋羊羹に噛り付き尻尾を揺らす白亜。クロは手にした漬けものを口に放り込み咀嚼しお茶で流し込む。
「キュウキュウ」
芋羊羹が気に入ったのかおかわりの鳴き声を上げる白亜と女性たち。
「これはお芋の味がするわね! このお茶とも合うしもう一本、いや、二本欲しいわ!」
≪私もおかわりお願いします! 抹茶味も美味しいですよ≫
「クロクロ~おかわり~」
「甘過ぎないところがいいな……そのなんだ……私にも頼む……」
「キュ~キュ~」
魔力創造で芋羊羹と抹茶羊羹にシンプル羊羹を創造し配り、開封すると尻尾を振りながら大きく口を開けアピールする白亜の口に入れる。
「おいし~白亜も美味しそうに食べてる~」
「そうだな。最近少しだけふっくらしてきたから心配したが、自由に飛べるようになってからは翼を動かして痩せてきたからな。白亜は太らなくてよかったよ」
「ハミル王女とかプニプニにしたものね~」
≪確かに健康的になったよね……≫
ビスチェとアイリーンの食べる手が止まり責める視線を送られているのかと、二人に視線を向けるクロだったがある事に気が付く。
「なあ、ビスチェとアイリーンは少し太っタンドリィーチキンが食べたくなったな……」
ビスチェからは殺気というものを煮詰めて固めた様な視線を受け、アイリーンからはシンプルに≪死≫という文字がクロの目の前に浮かぶ。
「いいかいクロ。乙女はいくら歳を重ね様が乙女なんだよ。それだけ言えばわかるかい?」
「は、はい、ビスチェにアイリーン……悪かった!」
靴を脱ぎ座布団を敷いた床だった事もありクロは丁寧な土下座をすると、二人の表情は和らぐが、ビスチェはスッと立ち上がりナチュラルにクロの頭に足を置く。
「ナナイさんがいうように乙女に太ったは禁句だからね」
「はいぃぃいっぃぃい」
「それと、今晩はタンドリーチキンを所望するわ」
「はいぃぃぃぃぃぃぃいぃぃっ」
≪ナンも欲しいです≫
床に額の跡が残るまで頭を下げるクロであった。
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