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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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抜けそうな床と精霊信仰



「うわ~クロの部屋だ~」


「喜んでいるところ悪いがベッドと机と椅子しかないからな。クローゼットにも上着が一枚入れてあるだけだし、ああ、下着も少しあるが他はアイテムボックスの中だからほぼ何もない部屋だな」


 お風呂から上がったラライがクロの寝泊りしている部屋に行きたいと騒ぎだし、アイリーンとルビーを連れ四人で二階へ上がりやってきたクロの部屋。がらりとした部屋に入りラライがキョロキョロと見渡しながら叫ぶ。

 アイリーンはベッドの下を覗き込みと小さな舌うちをし、ルビーは机に放り出してある魔道回路の本とクロが設計している書きかけの紙に興味があるのかじっくりと観察している。


「そろそろ蔦も切らないとだな。面倒くさがるとすぐに開かなくなるし……」


 外開きの窓を開けると小雨が降っており、この調子なら今日中に雨は上がると予測するクロ。


「うわ~ここからだと魔の森も遠くまで見えるね!」


「ああ、あそこが果樹園で、その先にキラービーの巣があるから近づくなよ」


「うん、キラービーとか村の男たちでも近づかないよ」


≪私は最近友達になりました。えっへん≫


「アイリーンさんも凄いですよね……私以外はみんな強くて……」


「ルビーお姉ちゃんは凄くないの?」


 魔道回路の本を捲りながらぽつりと漏らした言葉に反応するラライ。


「私は鍛冶屋でも見習いでしたし、ここに来ても見習いゴリゴリ係ですよ。凄い事なんて何もないですね」


「そうか? ルビーは宝石に関する知識が凄いし、手先は器用だし、何より気が利くだろ。俺が料理を始めるとすぐに手伝ってくれるしさ。ルビーは全体が見えている気がするな」


≪それは私も感じていました。私がお風呂から出るといつもタオルを置いてくれていますよね? ありがとうございます≫


「私にはそれぐらいしかできないので……」


 頬を軽く染めながらその頬を人差し指で掻くルビー。


「ふ~ん、ルビーさんも凄い人なんだね! やっぱり『草原の若葉』は凄い人たちばかりだね!」


「もちろんだよ! 僕を含めここは特別だからね! チームワーク重視で弱点を補い合いながら暮らしているのさ」


 ホカホカになったエルフェリーンが部屋に現れるとやや狭く感じる室内だが、皆笑い合い和やかな空気が流れる。


「そうそう、ラライとナナイにお願いがあるんだ。今度この家を建て直すから木材の調達をお願いできないかな? 丈夫で間引いても問題のない木に目印のロープを撒いてくれれば勝手に切りだして行くからさ」


「ここを建て直すのですか?」


「ああ、アイリーンとルビーもここで生活し始めて手狭になったからね。ルビーなんてリビングのソファーで寝ているからさ早く自分の部屋と、」


「あの! 今のままでも十分な待遇です! 私の為に家を立てるとかやめて下さい!」


 ルビーが声を上げ見習いの自分の為に家を建て直すのは心苦しかったのだろう。


≪私も今のままでも大丈夫ですよ。屋根裏は私のテリトリーです≫


「お前は屋根裏で寝ていたのかよ……」


「そういう事だから建て直すからね。鍛冶場も建てなおさないと竜脈からずれたみたいで調子も悪いし」


「建て直しましょう! 私にできる事はすべてしますので、鍛冶場は広くして頂けると嬉しいです!」


 百八十度意見を変えたルビーに皆が笑い和やかな雰囲気に包まれるクロの部屋だが、みしみしと音を立てる床に気が付いたエルフェリーンが口元で人差し指を立てる。


「みんな静かに! 床が軋んでいるよ。ラライから静かに歩いて部屋を出てくれ。アイリーンは天井の梁にしがみ付いて、他は動かずにいるように!」


 ラライが部屋の外へ向かいアイリーンが天井の梁へと糸を飛ばしゆっくりと上に登ると軋んだ音は止んだが、床には細い亀裂が走っている板が目に入り早急に建て直す必要がある。


「この板はいつ抜けてもおかしくないね。クロは注意するんだよ」


「いやいや、そこは直すだろ! 建て直すまでだってまだ結構な日数掛かるだろうし、直すだろ!」


「ええ~それは面倒くさいよ~クロのシールドでも床一面に張るといいよ」


 エルフェリーンの提案にクロがシールドを床一面に張ると廊下からこちらに頭を出していたラライが歓声を上げ、ルビーも素早く半透明なシールドを張るクロに拍手を向ける。


≪もし床が抜けたら私のネバネバ糸でくっつけますからね~≫


「そこは張り替えるのを手伝ってくれ……はぁ……」


 危険なクロの部屋から退出した一行は一階へと戻るとナナイは、ビスチェから必要な特効薬などを受け取りエルフェリーンから借りているマジックバックへと入れていた。


「おかぁーさーん、今度家を立てるから丈夫な木を集めて欲しいってさ」


「それは腕が鳴るね! 特別に丈夫な木を集めないとだね」


「トレントのお爺ちゃんにも話して丈夫そうな木を紹介して貰おうよ」


「あら、それなら千寿草が生えているかもしれないから、それも見ておいてね。それにしても立て替えるのかしら? それとも増築?」


「立て替える事にするよ。クロの部屋の床が抜けそうになったぜ~」


 ラライがナナイに抱きつき報告し、続々と階段から姿を現しエルフェリーンが建て直す事を伝えると、ビスチェは顎に手を当て何やら考えはじめる。


「そうね! もっと可愛らしい家にしたいわ! 風が抜ける様にしたいし、光ももっと入る様にして精霊たちが喜ぶような家にしたいわね」


 その言葉に精霊たちが反応したのかビスチェのまわりがキラキラと光り始め、ラライとナナイは両手を合わせて拝みだす。


「精霊様が喜んでいる。ありがたや、ありがたや」


「精霊さま、健やかな生活を見守って下さい」


 二人の姿にアイリーンとルビーまでが手を合わせ、ビスチェは苦笑いを浮かべる。


 精霊信仰が強い事もあり精霊はありがたがられる存在で、こうして拝まれる事は少なくなく、エルフというだけで街中では拝まれたりする事もあるのだ。


「私は皆さんともっと仲良くなりたいです」


≪新しい家にも広い天井裏がありますように≫


「私もルビーとはもっと仲良くしたいわよ。今夜は緊急女子会でも開きましょうか! ラライとナナイも誘ってお酒はダメね。美味しい甘味を食べましょう」


 少女のラライに気を使い甘味を選んだビスチェに、ラライは「わ~い」と言いながら抱きつき二人の宿泊が決定し、ナナイはエルフェリーンへと向き頭を下げる。


「いいよ、いいよ。僕は二人が泊まってくれるのは嬉しいし、今夜はご馳走を用意しないとだね!」


「何から何までお世話になりありがとうございます」


「ははは、それは僕じゃなくクロにいうといいよ。クロが夕食を用意してくれるからね。緊急女子会に出すお菓子もクロが魔力創造で作ってくれるからさ」


「俺もナナイさんには色々と良くしてもらってるからな。今日は奮発して美味いものを用意させてもらうよ」


「わ~い、クロの料理だ~」


「キュウキュウ」


 クロの背中に抱きつくラライと、そのラライの背中に抱きつく白亜。


「うんうん、楽しいお泊りにしないとね。二人が泊る場所を用意しなきゃだね」


「手伝います!」


 エルフェリーンが動きだしルビーが後を追いかけリビングを片付け始め、ビスチェとアイリーンも掃除を始める。クロはラライと白亜を背中に付けながら何を作るか思案するのだった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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