宿泊するエルフ姉妹
「で、何でこの二人が夕食に参加しているのかしら?」
やや不機嫌に話すビスチェにクロは苦笑いを浮かべ、当事者の二人は顔を傾ける。アイリーンとルビーは夕食に出されたビーフシチューを口にして表情を蕩けさせ、鍋の中のすね肉もトロトロに蕩けていた。
「クロは天才かもしれない……」
「クロは特別に私たちの村に入る許可を取ってもいい……」
ビーフシチューの味と昼間のケーキの影響からかエルフの二人に村に入る許可申請を頂いたクロは更に苦笑いを続け、ビスチェは魔力創造でクロが創造したロールパンをクシャリと握り潰す。
「何でフランとクランが許可を出すのかは知らないけれど、クロはゴリゴリ係なの。いい、ゴリゴリ係はとっても重要な錬金の基礎なの。その錬金の基礎がまだ疎かなクロがどうして私の故郷へ行くのかしら?」
握り締めたパンだったものをビーフシチューにつけ口に入れるビスチェは、その味に表情を溶かしそうになるがフランとクランの笑顔を見て眉間に深い皺を作る。
「クロは凄い……ケーキはみんなに食べさせたい……」
「できるならビーフシチューも食べさせたい……」
「確かにこのビーフシチューは美味しいですね。魔物の脛は弓の弦や楽器に使うものだと思っていましたが、こんなにも美味しく食べられるのですね」
≪次はタンシチューを希望≫
エルフ二人の言葉にルビーとアイリーンが感想をいうと、クロはアイテムボックスからビスチェの好きな白ワインを取り出し封を開ける。
「俺はエルフの村に行く気はないし、ビスチェも里帰りは気まずいんだろ?」
封を開けた白ワインを目の前に置かれたビスチェはそれを手に取ると、開いているグラスに注ぎ口にしてクロへ視線を向ける。
「私はまだ許してないからね。お父さんが悪いし……それに今の生活が気に入っているわ。師匠がいて、アイリーンがいて、ルビーが増えて、クロもいて……白亜もね」
「キュウキュウ」
クロの足元でビーフシチューを食べていた白亜も名が呼ばれた事に安心感を覚えたのか嬉しそうな鳴き声を上げる。
「いつもこんなにも美味しい料理を食べているの?」
「ビスチェだけズルイ……」
フランとクランの視線を真正面から受けるビスチェは、白ワインを口にしてからすね肉の柔らかさを堪能する。
「う~ん、美味しいわね。トロトロなすね肉はエルフの村では食べられないかもね~あちち、この白ワインも美味しいのよ~」
白ワインの瓶を手元に寄せてから鼻高々に自慢するビスチェに、クロはアイテムボックスから新たな白ワインを出すと封を開け二人の前に置く。
「二人も成人しているのなら飲むか? 正直エルフの年齢は見た目じゃ解らんが、成人しているのなら飲んでもいいぞ。アイリーンとルビーはどうする?」
「ん……私は成人」
「私も成人です。白いワインは珍しいですね」
≪今日はやめておく。明日は朝から罠を見回る予定≫
「私は頂きます! あの、ウイスキーとかダメですか?」
フランとクランは互いに白ワインを注ぎ合い、ルビーはウイスキーを所望する。
「ほいよ。あまり飲み過ぎるなよ」
「何をいっているのですか。ドワーフに飲み過ぎという言葉は適用されませんよ」
ウイスキーの瓶を受け取るとルビーは開封しグラスに入れ香りを楽しむと、一息に口に入れ飲み干す。
「ぷはぁ~幸せです~」
見た目は少女ほどに見えるルビーも成人を迎えており、ドワーフらしい少し低い身長が違和感を産む。エルフェリーンがカパカパ酒を飲み干す姿を見ていたクロからしたらその違和感は既に払拭されているが、出会ったばかりのフランとクランからしたら驚くような事だったらしく目を丸める。
「どっちのお酒も美味しそうです……」
「私たちがお酒に有り付けるのは祭りの時ぐらい……それも赤いワインか蜂蜜酒……透明なワインも珍しいですし、ウイスキーなど聞いた事がありません……」
二人はグラスに入れた白ワインを見つめながらもルビーの飲むウイスキーに興味があるのか、飲まずにビスチェとルビーに視線を向け行ったり来たりとどちらを飲むか考え始める。
「まずは白ワインから飲むといいわ。ウイスキーはワインよりも強いからすぐに酔いが回って味なんか解らなくなるわよ。ああ、それと、買える時に白ワインをお母さんに届けてほしいの」
ビスチェの言葉に頷いた二人は白ワインを入れたグラスを傾け口に含むと飲み込み、その姿を見つめるビスチェは二人のリアクションを確認するとグラスに残った白ワインを飲み干す。
「美味しいです! 赤いワインは口の中がキシキシするのに、このワインはキシキシしません!」
「すっきりとしたのど越しも素晴らしいですし、何よりも香りが癖になりそうです!」
「そうでしょう、そうでしょう、白ワインは私が知るお酒の中では一番ね! ウメサワ―も美味しかったけど白ワインが一番よ! もしも売りに出すとすれば赤ワインの十倍! いえ、五十倍は付けたいわね!」
「確かに……この味なら……」
「赤ワインの五十倍……恐ろ白ワイン……」
フランが納得し、クランが変な事を言いだしているが、ビスチェは鼻を高くしたままビーフシチューと白ワインを交互に楽しむ。
「白ワインに合うおつまみはやっぱりチーズかな」
魔力創造でコンビニで売っていた燻製サーモンに、同じくコンビニで売っていたモッツァラレチーズを乗せ黒コショウとオリーブオイルをかけ皿に乗せると、フランとクランの瞳は信じられないという表情で固まる。
「ほい、スモークサーモンとチーズのおつまみな。一緒に食べると美味しいぞ」
≪クロ先輩の女子力がウナギ登りですとっ!?≫
「勝手に女子力を押し付けるなよ……ほら、アイリーンも食べてみ、美味いから」
「私は頂くわ! このスモークサーモンとプニプニチーズは美味しいわよ」
二人が口に入れ、ルビーとフランにクランは眉間にしわを寄せながら咀嚼し飲み込んだ二人を見つめる。
「生の魚を食べた……」
「お腹を食い破られる……」
「わ、私も生の魚とか、怖くて無理です……」
青い顔をする二人にビスチェが手をひらひらと振りながら白ワインで口内を流して口を開く。
「これはクロの能力で生み出したものだから安全よ。それよりも、この食べ方が美味しいからって真似してお腹を食い破られないでね」
「クロすごい……」
「クロが一家に一人いれば飲み放題食べ放題」
「クロ先輩が便利なのは知っていましたが……それよりも食べる勇気が……」
「大丈夫よ。私が食べるし残らないわ」
≪私も食べますよ~≫
二人が美味しそうに食べる姿にフランとクランが互いに見つめ合い無言で頷くと、フォークを伸ばしサーモンとチーズを自身の皿に乗せる。
「匂いは煙?」
「ああ、スモークサーモンだからな。煙で燻した魚なんだよ」
「あむ……おお、美味しい……生の魚は初めて食べたが、こんなにも美味しいのか……」
「あむ……ふぉぉぉぉ、不思議な食感! チーズも柔らかくて私の知っているチーズとは違う!」
「どうよ!」
椅子に座りながらも胸を反らせドヤ顔をするビスチェに二人は感心したのか拍手をし、その音に白亜が驚き頭をクロの脛にぶつけ苦悶の表情を浮かべる。
「脛が……」
「キュルゥゥゥ」
椅子から下りて脛を摩り、申し訳なさそうな表情をする白亜は蚊の鳴くような声で謝りの鳴き声を上げる。
「ん……美味い……」
「ああ、これと同じ物が作れたら……」
「それはやめておきなさいって言ったでしょ。クロにしか作れない料理なんだからね!」
ドヤ顔が止まらないビスチェであった。
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