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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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特効薬を求める者たち エルフ編



 多くの塩と醤油に特効薬やポーションを入れた箱を乗せると、手を振り感謝の声を上げるゴブリンたち。

 羊に似た魔物が台車を引き、ゆっくりと進み始めるとゴブリン達は去って行く。


「はじめてのお客さんと商売して見てどうだった?」


「えっ!? えっと、私はルビーの原石に見とれてしまって……気が付いたら今になっていました……すみません……」


「ずっと物欲しそうにルビーの原石を見つめているから、ゴブリンたちもルビーに渡したわね」


「はい……ですが、この原石は普通のルビーではないですよ! 魔力を含んだルビーです。いわば、魔鉱石! エンチャントに使える原石です! 師匠にエンチャントを教わったら私がこれを加工します! いいですか?」


 ビスチェに対して上目使いでお願いするルビーに「いいんじゃないかしら?」と疑問形で返すと、飛び跳ねて喜び大きめな独り言を口にする。


「ルビーと相性の良い火炎系のエンチャントにしようか、それとも敢えて無属性で切れ味強化や自然修復といったマニアックなものに……ふふふふ、楽しくなってきましたよ~」


 テンションを上げるルビーに多少なり不安が過るクロとビスチェ。アイリーンは抱っこした白亜が寝息を立て始め屋敷の中へと足を進めた。


「この後はどうする? 菜園いじりか?」

 

「そうね。菜園の草むしりかな~クロはどうするのよ」


「俺か、俺は外で鍋を煮込みながら客が来たら対応できる様にしておくよ。すね肉をホロホロになるまで似た味噌煮込みとか作ろうかな、それともカレーか、ビーフシチューでもいいな」


「それは楽しみね! 夕食は任せるわ!」


「いつも任されているがな……ビーフシチューにするか」


 クロは屋敷へと戻り来るだろうエルフとオーガの為の特効薬にポーションなどを木箱に詰めると、外にでて焚火台をアイテムボックスから取り出し生活魔法と呼ばれる種火を魔法で作ると枯れ草に落とし息を吹きかけ火を起こし、細い枝を乗せて薪に火を移して行く。


「これで火は起こせたな。後は肉を切って焼いて煮て……よし! やるか」


 焚火台を前にアイリーンが狩り捌いた猪系の魔物の肉のすね肉を取り出すと、ナイフでひと口大にカットしフライパンで焼き、こんがりと焦げ目の付いたすね肉を水の入れた大きな鍋に入れると、安い赤ワインと生姜に長ネギの葉を臭み消しに入れ煮込む。


 玉ねぎと人参にキノコをカットしていると遠くに人影が見え立ち上がるクロ。


「ありゃエルフか? ビスチェを呼んだ方がいいかな」


 エルフは基本的には森に住みた種族との交流があまりない。ここに来るエルフはエルフェリーンという伝説的な錬金術師が店を開いているから足を運ぶのであって、人族の錬金工房に現れる事は稀だろう。


「おーい、ビスチェ! エルフがって、寝てるのかよ……」


 菜園の草むしりを終えたビスチェは、以前クロが魔力創造で生み出したパラソル付きのテーブルに足を乗せリラックスした姿勢を取りながら船を漕いでいる。


「そういや昨日は夜遅くまで師匠と特効薬の錬成してたっけ……俺が行くか……」


 ビスチェを諦め錬金工房の敷地入り口まで足を進めると、二人のエルフがカタツムリの魔物から荷物を降ろす姿が見え声を掛ける。


「特効薬ですよね。すぐに出しましょうか? それとも少し休んでいきますか?」


「ん? ビスチェは?」


 頭を傾げながらも腰裏に装備するナイフに手を掛けるエルフ。もう一人は作業の手を止めクロを凝視しながら警戒する。


「俺はクロ。エルフェリーンさまの弟子だよ。他にもアイリーンとルビーが最近ここの弟子になった。ビスチェは菜園近くで寝てるぞ。疲れただろうからお茶ぐらい出すが」


 クロの言葉に二人は顔を見合わせ何やら小声で話すと頷き合う。


「ん……少し休ませてほしい。私たちは疲れていないが、この子が暑さで少し疲れている」


 乗用車ほどの大きさのあるカタツムリには初夏の暑さが厳しいらしく、角がだらりと下がり元気がなさそうに見えた。


「じゃあ、中へどうぞ。ああ、その辺の畑の草は薬草だからな。食べさせないでくれよ」


「わかっている。エルフは薬学に明るい」


 二人と大きな一匹を連れ木の下に向かい席を進めると魔力創造でオレンジジュースを創造し二人に提供し、カタツムリには市販のキャベツを三個ほど目の前に置くと頭を上下させ、お礼を言っているのかどうかは解らないが食べ始める。


「やっぱり甘味を生み出すクロだ」


「ビスチェが自慢するクロだ」


 ペットボトルのオレンジジュースを口にする二人はビスチェから何かしらクロの話を聞いているのだろう。


「ビスチェが俺の事を自慢したのか? 悪口を言っている姿しか想像できん……」


「凄く褒めてた。蜂蜜を生み出せるし、未知なる甘味を生み出せる」


「少しだけ金貨もある。私も食べた事がない甘味を所望」


 二人のキラキラした視線を受けたクロは鍋の様子を確認しながらも、魔力創造で二つ入りのコンビニケーキを創造すると歓声が上がる。


「凄い! 本当に魔力の物質化」


「これが甘味?」


「いま開けるよ。こうやってテープを剥がして蓋を開け、まわりのテープを剥がして食べてくれ。フォークはこれな」


 アイテムボックスから出したフォークを渡すと顔を近づけて匂いを確認する二人は、出会い頭の警戒心は無くなったのか夢中で角度を変えて見つめている。


「甘いものだから食べてくれよ。こっちは鍋に野菜を入れて煮込むか」


 すね肉を茹でていた鍋に水を足し野菜を入れ蓋をすると、後ろから声にならない叫びが聞こえ振り向くとだらしない顔をする二人のエルフ。


「これしゅごい……甘くてフワフワで赤い果実が中にも入ってりゅ……」


「口の中で溶ける白いところが凄い……土台になっているところも空気を食べているみたい……」


「気に入って貰えたのなら良かったよ。後は弱火でコトコトと煮て」


 薪を均し焚火台から上がる火を弱火に変えていると、後ろから上着の裾をクイクイと引っ張られ振り向くクロ。振り向いた先にはエルフのドアップがあり椅子から落ちそうになるが、何とか堪え立ち上がる。


「ち、近いな」


「美味しかった……」


「頼みがある……」


「頼み? 特効薬だろ、いま出すよ」


「それもあるけど、いま食べた甘味を持ち帰って皆に分けたい」


「頼む! 金貨は五枚まで出せる。それで買える分だけ買いたい」


 一人は拝み、もう一人は手に金貨五枚乗せて頭を下げる姿に、クロは後頭部を掻きながら困り顔を浮かべる。


「えっと、悪いが無理だな。いま出した甘味はイチゴショートというもので、温度管理が出来ないとすぐに溶ける。この陽気だと帰る前に腐ると思うぞ」


 クロの言葉に崩れ去る二人のエルフ。その瞳は濁り絶望の淵に座り込み力なく項垂れ始める。


「うぅぅぅぅ、何と残酷な……」


「あの甘味を持ち帰れれば皆が喜ぶのに……」


 軽い罪悪感を覚えるクロだが、先ほどゴブリンたちに塩や醤油を大量に持たせた事もあり魔力が少なく、これ以上の大量な魔力創造は魔力枯渇を招きかねないと推測できたこともあり、困った顔をするクロ。


「飴と蜂蜜ぐらいなら出せますが」


 二人は顔を上げ濁った瞳を向け、クロはアイテムボックスから飴と蜂蜜の瓶を取り出すと試しに蜂蜜を開封して渡す。


「蜂蜜も高価なものですが……」


「先ほどのものに比べたら……」


 スプーンを渡すと二人は瓶に入れ口に運ぶと濁った瞳はキラキラと輝きを取り戻し、次々にスプーンを入れてはペロペロと蜂蜜を舐めはじめる。


「これはこれで最高です……」


「ん……天国かもしれない……」


 蜂蜜に夢中になる二人にこれでいいのかと思いながらも鍋へと視線を戻し、コトコトと湯気を上げる鍋の中身を確認する。


「何だかゴブリンたちよりも気を使うな……疲れた……」


 小さく呟きながらエルフ二人へと視線を戻すと、今度は巨大カタツムリのドアップがあり角をピンと張ると、お礼なのか頬にヌルリトした感触が……


「おお、人間がアインシュタインに頬擦りをしている!?」


「あの気難しいアインシュタインがクロに懐いている……やはり只者じゃない……」


 ヌルリとする頬に叫びを上げそうになるが、冷静になる様に頭の中で言い聞かせ心を落ち着けると、数歩下がりアイテムボックスから出した桶に水瓶で水を入れて顔を洗うクロ。


「ぷはっ、頼むから脅かさないでくれ……心臓が飛び出るかと思ったぞ……」


 頭を横に振りながらご機嫌な巨大なナメクジにキャベツを新たに魔力創造し与えると、思っているよりも素早く動きキャベツを食べ始める姿に、椅子を少し離れた場所へ運ぶと飴を開封し二人に見せる。


「これが飴な。色々な味が入っているし、多くのエルフに配るのならこっちの方が配り易いだろ。暑いと多少は溶けるが腐る事はないと思う」


 飴のパッケージには五種類の果実が描かれており、二人は蜂蜜のスプーンを咥えたままクロが持つ飴の袋を真剣に見つめる。


「こうやって開けると中は個包装されているからギザギザに力を入れれば、ほら簡単に開けられる。固いから噛まずに舐めて溶かすんだぞ」


 ひとつを開けると口に含み広がる甘みと懐かしいミカンの味に安心感を覚え、これをよく買っていた事を思い出すクロ。


「絵が凄い……」


「この入れ物も不思議……」


 二人は見つめ終わると葡萄と白桃味を選び開封すると口に入れ、数秒後には蕩けた表情で幸せそうな顔をしながら両頬を押さえる。


「もごもご、クロ、これにする……」


「果実より甘く固いがゆっくりと溶け、ずっと甘さを感じられる素晴らしいものだ……」


≪私はレモン味~≫


「クロさんが子供にモテモテになる飴ですね。私もひとついいですか?」


「ああ、二人も来たのか。白亜はお昼寝か?」


≪ぐっすり寝てる。寝顔も可愛いけど、お客さんが見えた≫


「もごもご、甘いですね。これをお酒に入れて浸け込んだらどうでしょうか?」


 キラキラした瞳を向けて来るルビーにクロは苦笑いを浮かべ、アイリーンはお酒にはそれほど興味がないのか飴を舐めながらエルフの二人を見つめる。


「こっちがアイリーンで、ドワーフがルビーな。ルビーは師匠の弟子で、アイリーンは……アイリーンは弟子か?」


≪私は捕食者!≫ ≪いや、狩人かな?≫


 自信満々に魔力で生成した文字を浮かべるが、しっくりこなかったのか頭を傾げると新たな文字を浮かせる。


「もごもご……文字が空間に……」


「もごもご……今日は驚く事が多くて疲れる……」


 二人のエルフは宙に浮く文字を見つめながらも、口に入れた飴を堪能するのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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