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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第一章 王家の試練
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朝食と徹夜明けのテンション



 翌朝というよりもまだ太陽が顔を出す前に起きたクロは竈に火を入れ朝食の準備を進めていた。

 日本にいた頃の遅く寝て昼に起きる様な生活サイクルではなく、この世界の太陽と共に起き夕日と共に休むという習慣になっており、日本の暮らしよりも健康的な生活を送っていた。

 本日は王家の試練である白百合の花を取りに行く予定が入っており、早朝から森を抜けるため朝食の準備もそれに伴い早くなっている。ついでにお弁当なども用意したいと思った事もあり、太陽よりも早く起きて準備を始めたのだ。


 まだひんやりとする空気の中で竈の火が灯り湯を沸かし手際よく料理をしているとメイドの一人が起きて来たのか、やや寝ぼけ眼でクロを見ると頭を下げて顔を上げる。


「早いな、まだ寝てても大丈夫だぞ」


 クロが話し掛けると半目だった目がパチリと開きまわりを見渡し、あたふたしながらも再度頭を下げるメイド。


「おはようございます」


 どうやら完全に覚醒したようである。


「ああ、おはよう。顔を洗うならお湯を沸かすがどうする?」


「井戸水で構いません。それにしてもお早いのですね」


「今日は遠征だからな。早く出るには早く食べないとな。それにお弁当も人数分作りたいし、第二王子さまにも美味しい物を食べて欲しいからな」


「ありがとうございます。ダリル殿下は御兄弟の中でも優しさに溢れ王になるべくして生まれてきた御方です。どうかダリル殿下の為に宜しくお願い致します」


 三度目の深々とした礼にクロは、もっと気楽にして欲しいと思いながらも包丁を動かす。


「そういえば、何か食べられないものとかはあるかな? 宗教的とかアレルギー的にとか」


「アレルギーは解りませんがないと思います。ただ、あまり苦いものは……」


「ああ、それはビスチェも同じだから大丈夫だよ」


「では、一度失礼してから手伝わせて下さい」


「了解、タオルはバスルームにあるから適当に使ってくれ」


 メイドと別れ料理に戻りスープを完成させると先ほどのメイドが戻って来たのか足音が響く。


「お待たせしました。手伝いを致しますので指示をお願い致します」


 先ほどよりもキリットしたメイドにこれから作る料理の説明をすると何度も頷きながら頭に入れ動き出す。


 クロはサラダのドレッシングを作りながら米が炊き上がるのを待ち、メイドは木製のバスケットに紙を敷き紅茶を入れポットへと入れて行く。


「よし、蒸らしも終わったし握って行くか」


 しゃもじで炊き上がった米を解し「あちち」といいながらおにぎりを握って行く。具は鮭に似た魚と山菜を甘辛く煮たものと、この辺りで有り触れた猪の魔物と生姜を使ったしぐれ煮である。


「それがおにぎりというものなのですね」


「俺がいた国のソウルフードだな。主食であり一番簡単な料理かな」


「ツブツブしたものに具を入れ固まりにするのですね」


「握る前に塩を手にしますので具が偏っていても味がします。簡単に手で食べられて移動中でも食事ができますね」


 クロの言葉にそれなら遠征に向いていると納得するメイド。


「中身を変えれば色々なバリエーションを楽しめるのもおにぎりの醍醐味ですね」


「考えられて作られているのですね……」


「サンドイッチの米バージョンだな」


「お手伝いさせて下さい。これは意外と力加減が難しいですね……ああ、指輪の形がおにぎりに……」


 メイドの指には紫の水晶が輝く指輪があり、おにぎりを握る度に小さな溝が付き眉を潜める。


「食べる前に海苔を巻くので目立ちませんよ。あと、できたらもっと力を抜いてふんわりと握った方が美味しいですよ」


「畏まりました。うう、中々難しいですね……」


 二人でおにぎりを握りっていると女騎士やもう一人のメイドも起きてきたのか足音が近づきリビングへと姿を見せる。


「ここはいいから騎士さんたちにお茶を振る舞って下さい。ビスチェと第二王子さまが起きてきたら朝食にしましょう」


「畏まりました」


 頬笑みながらリビングに向かうメイドを見送りおにぎりを完成させるクロは、森に自生していた竹の皮でおにぎりを包むとアイテムボックスに収納し、新たな料理の取りかかる。焼いておいたパンを薄く切りハムとチーズを挟み大きな網に置き焼いて行く。薪で火力を調節しながら弱火の状態を保ち焼き色がつくと裏返し焼き色と付けて行く。


「スープもこれでいいかな」


 具沢山のシチューを火から降ろしテーブルの端に運ぶと女騎士やメイドから朝の挨拶を受け挨拶を返すクロ。


「もうすぐ朝食にしますので、起こしてきてもらっても大丈夫ですか?」


「畏まりました。私が向かいますね」


「ビスチェさまは私が起こして参ります」


 メイドの二人が動き女騎士たちはテーブルに置かれたシチューを盛るのを手伝い、クロは焼けたホットサンドをテーブルに置きサラダとドレッシングを並べると、朝から凛とした第二王子を向かい入れる。


「昨晩は快適に眠れたが素晴らしいベッドだな」


「それは良かったです。ビスチェがベッドに拘りを持っていて特別仕様を各部屋に設置したとかで」


「他にも安眠効果のあるハーブを飾っていたもの。快適に眠れるようにしてあげたわ!」


 腰に手を当てドヤ顔をするビスチェに、どうして王子様相手にそこまで強気でいられるのか不思議に思うクロ。


「それはありがたい。いや、ありがとう」


「いいわよ。確りと持て成さなければ師匠の評判が落ちるものね!」


「それなら温かいうちに食べて下さい。チーズが蕩けていた方が美味しいですから」


 クロの言葉に一斉にテーブルに付き食事が始まる。


「やった! シチューにホットサンドだわ! 今日は良い事あるかも~あむあむ」


 ビスチェが一番に手を出しホットサンドを口に運ぶ。他の者たちは両手を合わせ神に祈りを捧げているのだが、ビスチェはお構いなしに咀嚼を繰り返しスープの味に笑顔を浮かべた。


「この様なパンははじめて見るな」


「柔らかいパンなのは解りますがサンドイッチとは違うのだな」


「サクサクして中のチーズとハムの塩気が堪りません」


「白いスープもコクがあり美味しいです」


 概ね好評な様で胸を撫で下ろすクロはリビングを抜け出し、エルフェリーンがいるだろう錬金室へ向かう。

 ノックをすると中から声が聞こえドアを開くと禍々しい闇が視界に入り慌ててドアを閉めるクロ。

一度落ち着き深呼吸を繰り返してからドアを開けると錬金室の天井には闇が渦巻き、その下で魔石に向け魔力を通し続けるエルフェリーンの姿がある。真剣に向き合っている訳ではない様で、クロへと振り向きこっちこっちと手招きを繰り返す。


「朝食が出来たから呼びに来たのですが……」


「それよりも見てくれよ! この闇の魔石! ここまで闇を封じ込めた魔石はそうないぜ~これを使えば神さまだって呪えそうだぜ~」


 恐ろしい事をいうエルフェリーンに数歩下がるクロ。


「それとこの指輪を王子様にプレゼントだ。呪い返しの指輪を作ってみたよ」


 親指でその指輪を弾くと器用にキャッチするクロ。


「これから王族にプレゼントするものを雑に扱わないで下さいよ!」


「ははは、クロは心配性だなぁ~傷付いても効果はあるから気にしない気にしない」


「それよりも朝食です。温かいうちに食べて下さいね。ああ、この闇属性の魔石は聖属性の空間に入れておきますからね」


「なっ!? そんな事したら闇属性が聖属性に……なるかな? これは新しい実験だね! あの可笑しな空間なら何か別の反応が起きるかもしれないよ! 試そうか!」


 何やらノッテきたエルフェリーンに心配だから封印の意味を込め収納し様としたクロだったがノリノリの態度に早まったかと思うが、禍々しい魔石を手に近づくエルフェリーンの持った魔石を聖属性のシールド空間に収納するクロ。


「二日は様子を見て経過観察だね!」


 収納すると部屋の天井に渦巻いていた闇が四散し明るくなると、エルフェリーンの目の下にはくっきりと隈があり昨晩は一切寝ないで錬成していたのが窺えた。


「栄養取ってから睡眠取って、師匠はお留守番ですね」


「ええっ!? 楽しそうだからついて行くよ! クロがおんぶしてくれよ~」


 そう言いながらクロの背中に飛びつくエルフェリーンは師匠というよりも、幼さの残る容姿と行動に子供の様だと思うクロであった。





 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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