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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第四章 増えた仲間と建て直す家
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特効薬を求める者たち ゴブリン編



「それじゃ僕は王都に行って特効薬を届けてくるね。王女様に頼まれるだろうお菓子と調味料を届けて来るから明日には帰って来るよ~僕がいなくて寂しくても泣くんじゃないぜ~」


「師匠は気を付けて下さいね。たまに段差のない所で転んだり、物忘れが激しかったりしますから。薬師ギルドに薬を届けるのが一番の目的ですからね」


「あははは、そうだね。注意はするよ」


 笑いながら手を振り歪んだ空間へと足を進めるエルフェリーンに弟子たちが見送り王都へと転移する。


「忙しかったけどこれで流行り熱対策ができたわね。ここにもゴブリンやオーガにエルフたちが特効薬を求めて来るだろうから、これからはその販売ね」


「亜人種たちも同じ通貨を使うのですか?」


「亜人種の殆どは物々交換ね。獣人たちは通貨を使うけどゴブリンやオーガにエルフは通貨よりも日持ちするキノコや種に薬草や油なんかと交換するわ。鉱石とかも含まれるから相場が難しいのよね~」


 ターベスト王国ではターベスト金貨が使われているが、今でも帝国金貨や他国の金貨も使われている。金貨に関してはサイズと重さが統一されその価値は変わらないが、銀貨と銅貨に関しては混ぜ物を入れ価値が若干上下する事もあり注意が必要だと師匠であるエルフェリーンから何度も忠告されているビスチェとクロ。


「前は拳大のサファイアの原石を持ってきて、塩と交換して欲しいとか言われて驚いた事があったな」


「ゴブリン達の住む地域は岩塩が掘れたらしいけど、最近ではあまり見つからないらしいのよ。少し行けば海があるから海水から塩が取れたらいいのにね~」


「いやいや、海水から塩は作れるだろ」


「はぁ~何言ってるのよ! 海水から塩だけ取るとか無理に決まっているでしょ。それに薪がどれほど必要になるか解っていってるの? これだからクロはクロなのよ」


 手のひらを上に肩を竦めるビスチェに、クロは魔力創造で市販されている塩を創造しそのパッケージを見せる。


「ほら、この塩とか海水から作った塩だぞ。確か、砂の上に海水を撒いて蒸発させたものを集めて釜で煮るんだっけ? 結晶が大きくなったらニガリを取り除いて更に炊けば完成じゃないかな」


≪日本は島国ですし昔から海水から塩を作っていますね≫


「海水から作った塩は苦くて美味しくないと聞いたのに……クロの料理が苦かった事はないし……本当に海水から塩が作れるのね……」


 アイリーンの魔糸で浮く文字にクロの言い分を信じたビスチェは、顎に手を当て何やら考えているのか固まり、クロは塩の袋をアイテムボックスに入れると足にくっ付いている白亜を抱き上げる。


「キュウキュウ」


「そうだな。早く師匠が帰って来るといいな」


「それにしてもクロさんの魔力創造でしたっけ、凄いですよね。塩を簡単に作る事ができる能力とか凄すぎますよ」


≪塩だけじゃなく砂糖も蜂蜜も作り出せるのは凄いチート≫


「チートいうなよ。俺からしたらアイリーンの糸やルビーの力とかの方が凄いと思うけどな。それにナイフを研ぐ技術も恐れ入ったよ。見様見真似でやってた自分のナイフが輝きを取り戻すとは思わなかったよ」


 キッチンで使っているナイフを見たルビーにはその雑な手入れが許せなかったのか、「ここのナイフを研ぎ直してもいいですか!」と、やや強い口調でクロに詰め寄ったのは先日の事で、黒く酸化し始めていたナイフはシルバーの輝きを取り戻し切れ味も通販番組のような切れ味に変わり一番喜んだのはクロであった。


「あれは鍛冶をする者からしたら許せなくて……」


「師匠はキッチン関係の物は俺に任せっきりだからな、本当に助かったよ」


≪伝説のナイフかと思えるほどの切れ味だった≫


 最近ではアイリーンも人型なった事もあり、クロの料理を手伝いピカピカになったナイフの切れ味に驚いたひとりである。


「研ぎは叔父さんから教わっていましたし、そっちの才能はあると褒められた事があります」


 照れているのか鼻の頭を掻きながら叔父に褒められた事を話すルビー。


「キュウキュウ」


「ん? どうした?」


 白亜が急に鳴き声を上げ白い尻尾を向ける方向へ視線を向けると、そこには手を振る子供ほどの身長の緑の肌をした三人と荷を引く羊のような魔物が見える。


「早速、ゴブリンたちが来たみたいだな」


「私、はじめて見ました」


≪なら、はじめての店員もやってみよう!≫


「そりゃいいな。ルビーに任せるよ」


「は、はい! 頑張ります!」


「ちょっと待って、ゴブリンたちに海水から塩が作れるかもしれない事を話すから私も」


 二人は外の柵で待つゴブリンたちを迎えに動き、クロは特効薬とポーションに栄養剤などを集め箱に入れ、アイリーンはクロから受け取った白亜を抱いて触り心地のよい頭を撫でる。


「おう、いつものと特効薬に塩を頼む。干したキノコに炒った種とルビーの原石を持ってきた」


「岩塩層が完全に掘り尽くしたのかもしれん」


「まだ決まりじゃないが、近いうちに引っ越す事も視野に入れている」


 三人のゴブリンたちと向かい合うルビーは、赤い光を放つルビーの原石が入り混じった鉱石を見つめ目を輝かせる。


「ん? 新人か?」


「この子はルビーね。さあ中に入って」


 ゴブリンを招き入れたビスチェは屋敷の前の木の下にあるテーブルへと向かい椅子に座らせると、クロが木箱を持って現れテーブルに置くとペットボトルのオレンジジュースをアイテムボックスから人数分取り出しゴブリンに勧める。


「助かる。ここまで二日間歩きっぱなしだったからな」


「それにしても不思議な入れ物だよな。ガラスとは違って柔らかいのに透明で」


「ぷはぁ~味も美味い! いつもありがとな」


「これはプラスティックという物で、ああ、不思議な入れ物だよ。それよりも塩はどれぐらい必要なんだ?」


「できる事なら多く持ち帰りたいが」


「岩塩が枯渇した……」


「来年までには結論を出すだろうが、村ごと引っ越す事になりそうだ」


 ゴブリンたちが難しい顔をしながら口にする言葉に、クロも同じ様な顔になる。


「岩塩の事なんだけどね、クロが海水から塩を作る方法があるっていうのよ」


「苦い塩か?」


 顔を横に振るビスチェは口を開く。


「苦くない塩よ。前に渡した塩があったでしょ、あれも海水から作った塩なんだって」


「あの真っ白な塩がか!?」


「そりゃ凄いな」


「どれだけの供物があれば教えてくれる!!」


 驚きの声を上げるゴブリンたち。なかでもリーダーのゴブリンは椅子から立ち上がりテーブルに手を付くと声を荒げた。


「別にタダでいいぞ。薪がどれぐらい必要とか、天候に左右されるとか、同じような塩ができるか解らないけどな」


「むむむ、タダではいかん! が、成功するかも解らないのか……」


「やってみて成功したら塩を持ってこよう! 成功した塩を食べてもらいたいし!」


「それならニガリが欲しいな。ニガリを使って豆腐とか作ってみたいな」


「ニガリとは何なのだ?」


「海水を煮詰めて塩を作るのだが、その時に煮詰めた海水だな。海水を煮詰めると塩が結晶化して残った水がニガリ。塩化マグネシウムだったかな? それを使うと、こんな食い物が作れるんだよ」


 その場で豆腐を魔力創造してテーブルに置くと、開封し皿に乗せスプーンを添える。


「俺の国の料理で豆腐という料理だ。豆を潰してニガリで固めたものでそのまま食べたら味はあまりないが、醤油をかけたり鍋の具材にしたりする食材だな」


 アイテムボックスから醤油の瓶を取り出すとテーブルに置き、クロがそのまま口に入れるとゴブリンたちも手を出し口に入れる。


「少し甘いな……」


「冷たくて不思議な味……ああ、豆の味だ……」


「ショウユといったか、これをかけて……むふっ美味っ! 塩よりもこのショウユが美味いな!」


「ショウユも交換してもらった方が良くないか?」


「ああ、奥深い味わいで村長たちに食べさせてやりてーな」


「醤油も豆から作られているからな。って、豆腐を食えよ! 醤油をそのまま飲むな!」


 クロの声が錬金工房の庭先に木霊するのだった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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