天界に奉納された白亜
「ほらほら、怖がらないでポテチを食べましょう。おいで~ほら、おいで~」
「こっちには干したイカもあるのだぞ~ほら、おいで~おいで~」
「そんなのほっておいて飲むわよ! ウイスキーと日本酒でカンパーイ!」
送られてきた酒を開封した女神ベステルは日本酒の瓶に口に付けそのままラッパ飲みである。それを呆れた視線で見つめるウィキールとフウリン。二人は視線をベッドの下で震える白亜へと戻し出てくるように説得を続ける。
「ほらほらパリパリですよ~」
「噛むほどに味が出てくるイカだぞ~」
白亜は突然の転移で驚き、一度は天界に来た事があるのだが驚きの方が大きく、震えながら餌付けしようと試みる二人の女神に恐怖していた。
ベッドの下へ顔を入れポテチとスルメをフリフリする二人は次第に何をしているのだろうという思いが積み重なり、「クロは何故白亜を送って来たのだ?」と口にするウィキール。
「キュウ!」
クロという単語を口にするウィキールに反応する白亜に、フウリンはここが好機だと悟り口を開く。
「ほらほら~これはクロさんから送られたお菓子ですよ~パリパリですよ~」
「キュウ~」
クロという単語に反応があり尻尾を軽く振りフウリンの瞳を見つめる白亜は、ゆっくりと二歩ほど全身すると固く揚げられたポテチの匂いをスンスンと確かめる。
「美味しいですよ~塩味ですよ~」
「こちらの干したイカも美味いのだがな……」
フウリンの持つポテチの匂いを確かめた白亜は口で受けそのまま噛み砕くと尻尾を振り回し、歯ごたえのある固さと芋の味を堪能するとフウリンは敵ではないと判断したのか、ゆっくりと手招きする手に近づく。
「ほらほら~外に出て一緒に食べましょう。ほらほら~」
頬笑みながら手招きする手に恐る恐る頭で触れると優しく撫でるフウリン。その横で同じ様に手を出しスルメを振っていたウィキールの手が止まり、自身の席へ戻ると日本酒を開けてカップへと注ぎ口にする。
「ぷはぁ~これは強いが甘くスッキリとした味わいだな。あむむむ!? イカとの相性が抜群だぞ!」
「スルメは火で炙ると柔らかくなって香ばしさと香りが引き立ち、更に美味しくなるわよ。あむあむ、炙らなくても日本酒とは合うわね」
ラッパ飲みしていた日本酒の750m瓶を飲み干しスルメを口にする女神ベステルは新たな日本酒を開け、右手の人差指に火を灯し左手で新たなスルメを取ると炙りはじめる。
「キュウキュウ」
フウリンに抱かれながら炬燵の席へと付く白亜はキョロキョロと辺りを見渡し、以前来た事を思い出したのか先ほどよりもリラックスした気持ちと態度でスルメを炙る女神ベステルを見上げる。
「白亜は奉納されたみたいだけど、うちの子になる?」
「キュ!?」
慌てて首を横に振り拒否すると尻尾がポテチの袋にあたり散乱すると目を吊り上げるフウリン。だが、そこはクロと生活を共にして掃除という事を学んだ白亜は急いで落ちたポテチを拾いはじめる。時折落ちたポテチを口にするが、怒りを覚えていたフウリンは目を丸くして驚き、ウィキールは躾けがなっていると頷く。
「これはクロの教育のお陰かしら? それとも食い意地が張っているだけかしら?」
女神ベステルの疑問に答えるものはいないが、ノックする音が響きドアが空くと全身甲冑を着て腰に日本刀を腰に携えた神が入出すると、一同の視線を集める。
「失礼しますわ! 神器についてお話が……ん? 白竜の子……あっ!? 飲み会ですか? 飲み会ですよね! 私は日本のお酒が飲みたいですわ! ええ、飲みたいです! 米から作った日本の魂と言える日本酒が飲みたいですわ!」
女神ベステルの横に素早く移動すると甲冑姿で正座する。
「日本の魂は日本刀だと言っていたわよね?」
「甲冑姿なのに器用に正座するな……」
「これだから日本かぶれの外国人は……」
三女神空の言葉をものともしない行動力で日本酒に手を掛けると封を開け口へと運ぶ。が、フルフェイスの甲冑には口元を覆うガードがありカチリという音が響く。
「ぷっ飲み会に参加するならその暑苦しい……いや、冷たい鎧は脱ぎなさい。見ているこっちまで寒く感じるわ」
「飲み会の席に相応しい格好ではないな」
「そうですね~ほらほら、ひとりで脱げないのなら手伝いますから」
「そ、そうですわね……」
フルフェイスを外すと立てロールが姿を現し、金の瞳に整った顔立ちの女神が顔を現わす。
「ふぅ、鎧を脱ぐと緊張感が欠けますわね……」
「キュウキュウ」
ポテチを拾っていた白亜は落ちたポテチを一枚掲げ、立てロール神に声を掛ける。
「ん? 私にくれるのですの?」
「キュウ!」
両手で背を伸ばしポテチを進める白亜に表情を綻ばせ指で受け取りお礼をいうと口に含みカリカリとした食感と味を楽しむ女神。
「床に落とした事は内緒にしないとね。それで、フランベルジュは神器といっていたけど何かあったのかしら?」
「床に落とした……」
「キュウキュウ」
「落としても食べられるか、それは間違いないが……衛生観念はドラゴンと神では違うのだな……」
「お掃除ができる白亜ちゃんは偉いですよ~ほらほら、こっちのスティックチョコもどうぞ~」
「キュウ~~~」
落としたポテチを口に入れショックを受けるフランベルジュ。白亜としては新たにやってきた者へ挨拶代わりの美味しい一枚だったのだが、その気持ちは伝わってはおらず少し悲しい顔をしながら日本酒の瓶を開封しカップへと注ぐと口に入れ香りを楽しみ喉を潤す。
「ぷはぁ~美味しいです……落ちたポテチも美味しかったです……」
「美味しいのなら美味しいという顔をしなさいよ~ほらほら、イカを炙ると美味しいわよ」
「この缶詰めもいけるぞ。鳥を焼いた物の様だな……うまい……」
「私も頂きますぅ~白亜ちゃんを、そろそろあちらへ返さないとですね~」
「キュウ!!」
頭を撫でられながら頭を縦に振る白亜。女神ベステルが手を差し出すと横へと払い姿が消え、次の瞬間には白亜はクロの頭上に現れ、慌ててそこへしがみ付く。
「上から来たか……白亜……頼むからコメカミに爪を立てるのはやめてくれ……」
「あわわわわ、血が! 血が出ていますよ!」
「キュゥゥゥ」
慌ててクロの頭から飛び降りる翼を羽ばたかせる白亜は、申し訳なさそうに頭を下げながらもホバリングし悲しそうな鳴き声を上げる。
「えっ!? 白亜ちゃん飛べてますよ! 飛べてますよ!」
「キュッ!? キュウキュウキュウ!」
宙に浮きながら尻尾をピンと伸ばし前進する白亜は落ちる事はなく飛び上がり屋敷を一周するとクロの胸へふわりと下り、優しく抱かれ見上げたクロは満面の笑みを向けた。
「やったな白亜! 空が跳べたじゃないか!」
「キュウ!」
胸の中でドヤ顔をする白亜を抱きしめ喜ぶクロは「ビスチェたちにも見せてやろうぜ!」と叫び、屋敷へと向かい上がる悲鳴。
嬉しさのあまり出血を忘れビスチェとアイリーンにエルフェリーンを驚かせたのは、クロの嬉しさからしたら些細なことだったのかもしれない。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。