祭壇作りと女神たち
ゴリゴリとヒカリゴケを潰す日が三日も続くと回収してきた革製の袋は空になり、クロとルビーはハイタッチを決めると互いに笑い合う。
「やっと終わりだな」
「昨日はゴリゴリする夢を見ました……これで明日からは普通の夢が見られそうです」
「夢か……ああ、夢に女神さまが出て酒を奉納しろと言ってたな……あっ!? もしかしてあれは夢の中での神託だったのか? 週に一回は奉納しろと言っていたし……」
「そ、それって拙いのではないですか? 神さまとの約束を破るとか天罰が下りますよ!」
昨晩見た夢を思い出し、うろ覚えな記憶を遡って指折り日付を数える。
「ああ、やっぱり昨日で一週間だったのか……エルフェリーンさまに頼んで王都に行くか、祭壇を作るかだな……う~ん……祭壇とか教会で見たけど、物凄いゴージャスな感じだったしなあ……」
「祭壇ですか? 教会のものは凄いですが鍛冶屋で祭っていたものは、このぐらいのもので酒を毎日供えていましたよ」
両手で大きさを説明するルビーに、そのぐらいなら自分でも作れるかもと思うクロ。
「ノートパソコンぐらいの大きさで綺麗な布を掛けて、その上に献上する物を置けば大丈夫かな……女神シールドの前に祭壇を置けば行けるかな……よし、ルビーも手伝ってくれ!」
「カッコイイものを作りましょう!」
潰したヒカリゴケをビスチェに届けると祭壇を作りたい事を伝えるクロ。
「女神さまの事を忘れるなんて不敬よ! 何やってるのよ! 材料は物置にある者を適当に使いなさい! 素早く見栄えの良い物を作るのよ!」
「ははは、そんなにプレッシャーを与えてはダメだよ~それに神なんて何千年も生きているから一日や二日遅れても大丈夫だよ~」
ビスチェと正反対の事をいうエルフェリーンにクロは困惑しながらも、お礼を言って物置へと向かう。
物置の扉を開けると誇りが舞い何か生物がいるのか、時折カサカサと聞こえ悪寒が走るクロとルビー。
「早く探して急いで離れよう」
「賛成です! 蛇でも住んでいると思うと怖いです」
二人の意思は統一され素早く使えそうな木材を選ぶと、一目散に物置から離れゴリゴリしていた場所へ戻ると、白亜はまだ寝ており二人は笑い合いながらも地面にこれから作る祭壇のイメージを描く。
「こんな感じかな? 屋根とかは要らないだろうから台を組み立てて」
「神に捧げるのに、そんな簡素で……」
「大丈夫だろ。上には白い布を置けば」
「それなら木材を切りましょう。足の長さは低くすれば補強も要りませんね」
木材の長さを合わせ鋸でカットすると板に釘を打ちつけ足を固定する。
「よし! あとはこのアイリーンがくれた糸で作った布を張り付けて完成!」
作業時間十五分ほどで完成した祭壇に満足げに頷くクロ。ルビーは納得していないような表情を浮かべるが、女神シールドを発動しその前に祭壇を置くと神秘的な光を発する女神シールドのお陰か神聖な雰囲気に包まれ、簡素な祭壇もそれなりに見えるから不思議である。
「えっと、確か、ウイスキーにビールとスクリュードライバーにジントニックにウメサワ―に……」
天界でお願いされた貢物を思い出しながら並べるクロ。日頃から魔力が余ると適当な物を魔力創造してから寝る習慣があり、アイテムボックスから取り出すと祭壇へと置いて行く。
「うぇっ!? 置いた傍から消えると驚きますね!」
「何だか物凄く待たせていたのかもしれないな。酒以外にもおつまみとかも供えるか」
その場でカラアゲにアタリメとサバ味噌の缶詰を魔力創造し、ポテチやひと口サイズの和菓子を供えるとこちらもすぐに消え失せる。
「先ほどから見た事のない物を供えていますが、あれも魔力創造で作ったものなのですか?」
「ああ、飲み会の時にもポテチとかは出しただろ。感に入れてあったのは軽い感じの酒だな。サバの味噌煮とかのもあるし、これはツナ缶。俺の故郷じゃ何でも缶に封じ込めて年単位で保存するのが当たり前だったな。ほら、これとか焼き鳥が入ってるぞ」
スーパーやコンビニで目にする焼き鳥の缶詰を魔力創造で作り封を開けるクロ。
「何だか良い匂いがしますね……食べてもいいですか?」
「ああ、楊枝を出すから待ってな」
アイテムボックスから楊枝を取り出しルビーに渡すと躊躇なく楊枝に刺して口にするルビー。
「美味しいです! 冷たいですが味が甘くて醤油でしたっけ? あの味がして美味しいです! 温めたらもっと美味しくなる気がします!」
「七味とか入れて少し辛くしても美味しいな。そのタレを炊き立てのご飯にかけるのも美味いぞ。卵黄を乗せて卵かけご飯にすると抜群に美味い」
「キュ~」
焼き鳥の缶詰の匂いに誘われたか、それとも食べている姿が目に入ったのか、いつの間にか白亜がルビーの前で「私も欲しい」と甘えた鳴き声を上げる。
「白亜ちゃんも食べますか?」
「キュ~キュ~」
「では、どうぞ。あ~んして下さいね」
大きく口を開ける白亜に焼き鳥を入れると、口を閉じモグモグとさせながら尻尾を振る。
「これは気に入ったな」
「そうみたいですね~あむあむ、美味しいです。これはお酒にも合いますね!」
「それなら日本酒だな。ビールでも合うだろうけど日本酒を進めたい。日本酒は俺の故郷で昔から作っている酒で、神さまにも日本酒を奉納する……ああ、奉納した方がいいかな?」
「それはすべきだと思いますよ」
「キュ~キュ~」
新たに口を開けルビーに迫る白亜にあ~んしてやるルビー。
クロは魔力創造を使い地元で作っている日本酒を創造すると祭壇に置き手を合わせるのだが、焼き鳥の缶詰に喜んだ白亜が目を閉じモグモグとした所で飛ぶ練習をしていた疲れからか体をよろけさせ祭壇に手と付き、慌てて近くに合った日本酒を掴むとその姿が消える。
「白亜ちゃん!?」
「ん? どうした?」
「消えました! 白亜ちゃんがお酒と一緒に消えました! あむあむ」
慌てるルビーにクロは白亜まで奉納されたのか~と思いながら手を合わせ、女神シールドに「白亜は間違いですから返して下さい」と声に出して祈るのだった。
「シャァァァァァァァアッ! クロから酒来たーーーーーーー! 宴会よ! 一週間も待ち焦がれた異世界の酒で宴会よ!」
「ふわわ~続々と酒が増えますぅ~」
「梅酒はあるか? 梅酒はあるのか?」
三人の女神が炬燵に集まり出現してくる酒やおつまみに歓喜していた。クロという異世界人が魔力創造で作り出した酒が週に一度という事もあり、夢にまで出て催促した女神ベステルはウイスキーのボトルを掲げて叫び、叡智の神ウィキールは好みのウメサワ―を見つけると素早く確保する。愛の女神フウリンはジントニックを確保すると一緒に送られてきたポテチを開封し一枚を口に入れ表情を緩めた。
「パリパリ美味しいです~」
「これは少し硬いが、食感が前よりもいいな」
「固くなるまで揚げているのね。あむあむ……ん? おおおおお~日本酒も送られて来たわよ~~~~~~~~ありゃ? これは白亜? 新手のおつまみ?」
日本酒の瓶にしがみ付いていた白亜は女神ベステルと視線を合わせ、目が点になり固まるのだった。
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