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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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屋台の始まりと微笑む二人



「連炎よ、たまにはこういう作業も楽しいものだな」


「はい、物作りは初めてですが案外楽しいものですね」


「昔は巣を自分で流木を集めて作ったな……」


「私もです。枝を集めて葉を敷き、山頂から見下ろしておりました」


 竜王たちも興味があるのか屋台作りを手伝いあっという間に完成し、鉄板を乗せて使い心地を確かめ熱を入れて油を塗るアイリーンとフラン。


「高さも丁度良いですね~これなら最高のお好み焼きができますよ~」


「こっちもだ。焼きそばを作りは腕を多く動かすからな。高さが違うと焼きむらができて美味しくないからさ」


「ん……私もこれならバッチリ……カラアゲ頑張る……」


 どの屋台も使いやすく料理を作る二名は納得しながら鉄板を温めて油を敷き焦げ付かないように鉄板を育てる。鉄板などは最初に良く洗い十分に熱を入れてから油を塗りそれを繰り返す必要がありこれをシーズニングと呼ぶ。この作業を怠ると焦げ付きやすい鉄板になったりすぐにサビたりと注意が必要である。


「クロはどうかな? いわれたように料理が置けるよう改造したけど」


「高さも使いやすいですし、椅子の高さもこれなら食べ易くて大丈夫ですね。ありがとうございます」


 アイテムボックスに収納していた収穫祭で使用していた屋台にカウンターを付けその場で食べられるように改造し、高さのあった椅子もエルフェリーンが手作りしたのである。


「うんうん、僕に任せてくれれば大丈夫だぜ~僕はこう見えても物作りは得意だからね~ノコギリの使い方も知らないどっかのハイエルフとは違うからね~」


「うぐぐ、私は物を作る側ではなく買う側だからだよ! そもそも、得意不得意は個人差があるからね! 前に僕のカジノで大負けして亜竜種の鱗や貴重な金属を売りさばいて値崩れしたのを忘れたのかい? あの時は亜竜種とはいえ鱗が金貨一枚よりも安く売られたんだよ!」


「ぐぬぬ、あの時は運が悪かっただけだよ! ふふん、でもでも、今の僕は機嫌がいいからね~エルカジールの嫌味だって飲み込んじゃうぜ~」


 そう口にして屋台の傍にある椅子によじ登るように座り微笑みを浮かべるエルフェリーン。エルカジールはそれ以上言い返さないエルフェリーンを不審に思うが七味たちのキッチンから香る甘く香ばしい匂いに視線を移す。


「ギギギギギ」


(味噌で漬けた魚と肉の串焼きを用意した。他にも大葉やチーズを入れた揚げ物も用意している)


 視線を向けられた七味たちは片手を上げて声を上げ、一味からの念話が皆に届き期待を膨らませる竜王たち。キャロットは既に屋台に足を向けながらお腹を鳴らしている。


「それでは俺も始めるかな。天ぷらの具材は用意できているし、蕎麦も温めるだけで、お稲荷さんの用意もあるから、麵つゆとお湯が湧けばすぐに開店だな」


「私も焼き始めますね~フワフワのお好み焼きを是非食べて下さいね~」


「ん……油の用意……」


「私らも始めるか!」


 アイリーンはお好み焼きを担当し、フランは焼きそば、クランはカラアゲ、クロは天ぷら蕎麦と小さなお稲荷さんを担当し調理が開始された。

 外ということもあってかそれなりに寒いのだが強力な結界が張ってあり風などはなく、日が差し込み温かさを感じる。が、ラミアであるメリリとメヌエットには寒いのか厚着で中にカイロを仕込み参加している。


「個人で屋台をするとは驚きでしたが楽しそうな雰囲気ですね」


「うふふ、クロさまを含め『草原の若葉』は世間の常識に当て嵌めてはダメです。常に画期的で驚きのある生活をしているのです。もしかして、姉さんはこの生活をする私が羨ましく感じていますか? うふふふふふふ」


 口元に手を当て微笑むメリリ。メヌエットは素直にコクリと頭を上下させる。


「クロさま、手伝えることがあれば、えっ!? あっ、はい、屋台の料理をすべて奉納……はっ! 必ず!」


 クロへ手伝いを申し出た聖女タトーラに光が差し込み天界からの注文を受け、神託という形でメッセージが送られ、その場で急ぎ膝を付き手を合わせ、最初は女神さま方に奉納だなとお湯が沸くのを待つクロ。


「山芋たっぷりの生地ですからね~フワフワに焼けますから待ってて下さいね~」


「ああ、あれだけ自慢していたからな。是非食べさせてくれ」


「あの芋は力が漲るから好きだが摩り下ろして他の具材と混ぜて焼くのか。楽しみだな」


 アイリーンは自身が作るお好みきを食べてもらおうと気合を入れて焼き、それを楽しみに見つめる連炎と炎帝。山芋はこの世界にも自生しており本日は自然薯を贅沢に使いお好み焼きの生地にしている。


「ん……そろそろ頃合い……」


「油で揚げる料理は初めて見るが不思議なものですね」


「まわりがカリカリになり中の肉はジューシーに仕上がるのが良いですね。旨味を閉じ込めているのでしょうか」


 夜光と雷華がクランの作るカラアゲを見つめ意見を交わし合い、他にも揚げ物好きがわらわらと集まり、クランはムフゥと鼻息を荒げ得意気にカラアゲを網を敷いたバットに乗せる。


「こっちはもう完成するから集まって!」


 そう叫ぶフランはコテを使って混ぜソースを入れると一気に香りが立ちカラアゲの前にいた女性たちが動き出す。


「今日は海鮮系の焼きそばなのね!」


「イカを入れているとは絶対に美味しいな。イカは弾力と甘みがあって最高だな」


「うむ、エビや貝も入っておるのじゃ」


 ビスチェに水流とロザリアが完成した海鮮焼きそばを受け取り口に運び表情を溶かし、他の者たちも続々と完成する屋台料理を受け取り口に運び、女神たちに奉納する料理を求め聖女タトーラが走り出す。


「女神様用のが茹で上がったが……」


 タイミング悪く走り去った聖女タトーラを見つめていたクロだが、それを椅子に座り料理をする姿を眺めていたエルフェリーンの前に置く。


「どうぞ、熱いので注意して下さい」


「うん、いただくよ。あはは、一番にクロの料理が食べられるのは嬉しいぜ~」


 トレーにはお椀サイズの温かい蕎麦とエビとチクワの天ぷらが乗り、小皿には小さなお稲荷さんが二つ乗っている。

 えび天を真っ先に口にするエルフェリーンは食べ応えのある食感と甘みのある味、出汁の効いたそばつゆの味に満足したのか自然と微笑みを浮かべ、クロも熱々の天ぷら蕎麦をハフハフと食べる姿に微笑みを浮かべる。


「ぷはぁ~美味しいよ! すごく美味しよ! やっぱりクロの作る料理は美味しいね! このエビはサクサクでプリプリでつゆの味を吸って美味しいよ!」


「それは良かったです。師匠に、エルフェリーンに気に入ってもらえたのなら皆にも自信を持って提供できますね」


「くふふ、エルフェリーン……やっぱり名前で呼ばれるのは嬉しいぜ~」


 エルフェリーンの名を言い直したクロは顔を赤く染め、言われたエルフェリーンも耳まで赤くしながらも優しい笑みを浮かべる。それを間近で見ていたキュロットは惚気っぷりに顔を引き攣らせており、海鮮焼きそばを大口で口にするビスチェへ視線を向け大きなため息を吐く。


「これからも食事については全て任せるぜ~」


「はい、エルフェリーンに満足してもらえるよう頑張りますね」


「うん……あはははは、何だか変な感じがするね~でも、嬉しいよ!」


「そうですね。変な感じがしますが自分も嬉しいです……」


 頬を染め笑い合う二人に皆の視線が向かい首を傾げ、和やかな雰囲気が一生続けばと思うクロなのであった。






 これにて一応の終焉となります。まだ構想はあるのですが、こぼれ話として続き? を書くかもしれません。

 約二年もお読みいただきありがとうございます。

 

 アイリーンが主役の物語とか書いたら、もっと盛り上がったかでしょうか?

 

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