屋台の準備
「うふふ、やはりおにぎりというものは良いものですねぇ。具を変えるだけで味わいも変わり食べやすく、いくらでも食べられます」
「確かにサイズ感も丁度良いですね。玉子焼きも甘くて美味しいですし、ウインナーと呼ばれるお肉もパキッとした食感が癖になります」
「うんうん、おにぎりも玉子焼きも美味しいね。私はお味噌汁が好きかな。この豆腐と呼ばれる柔らかく四角いのツルンと喉を通って面白いよ」
最後に起きてきたメリリとメヌエットにエルカジールが朝食を取り山のように用意した玉子焼きや小鉢は終了し、お味噌汁やおにぎりは追加で作るほどであった。特に竜王たちがお味噌汁を気に入りおかわりを続けフランやクランも手伝った程である。
「ラミアが寒さに弱いのは知っていたけどエルカジールも遅く起きてきたね~」
「昨日は少し飲み過ぎたからね。うん、この小鉢も美味しいね」
「うふふ、ほうれん草の胡麻和えですねぇ。私も大好きです」
「クロさまの料理はどれも工夫されていて美味しいですね。おにぎりもそうですがスープや小鉢の料理にも隠れた工夫が多そうです」
モリモリとおにぎりを口にするメリリ、小鉢の葉野菜が気に入ったのかほうれん草の胡麻和えや小松菜のおひたしをおかわりするメヌエット。エルカジールはお味噌汁を口にしてホッコリとした表情を浮かべている。
「それにしてもエルフェリーンは何を書いているのかな?」
隣の炬燵でルビーやアイリーンと共に紙を前に線を引き話し合っているエルフェリーンが気になったのか声を掛けるエルカジール。
「これは午後に使う屋台の設計図だぜ~クロの屋台とアイリーンの屋台にフランとクランの屋台だね。七味たちのはもう外にあるからそれを使うけど、使う人が使いやすい形の方がいいだろ」
「師匠、自分のは前に祭で使った物を使うので大丈夫ですよ」
お茶を届けに来たクロからの言葉に一瞬眉間にしわが寄るエルフェリーン。クロも名前ではなく師匠と呼んだことに気が付くが皆の前で名前を呼ぶのは恥ずかしかったのか視線を逸らす。
「そうかい? それならそれでいいけど……」
「はい、蕎麦は温めるだけですし、天ぷらはその場で揚げたてを用意しますが前のでも十分に使えますから」
「クロ先輩、私はペンキが欲しいのですが用意できますか?」
「ペンキ? ああ、色さえ言ってくれれば刷毛も用意するぞ」
「やった! 文化祭みたいにお好み焼きの看板を作れますね~」
「看板用の板はあるのか?」
「そこは大丈夫です。残った建材が多くありますのでそれで板を作って看板にします」
アイリーンは看板のデザインを紙に書き始めており代わりにルビーが応え、フランとクランはエルフェリーンに鉄板と竈のサイズを指定している。
「鉄板や鍋も新しいのが欲しいなら用意するぞ」
「師匠、それなら鉄板は早めに欲しいです。何度か熱して油を馴染ませたい」
「ん……鉄板は育てるのが大事……」
フランとクランの申し出にすぐに魔力創造して鉄板を用意すると竜王たちの視線が集まりああだこうだと意見が飛び交い、メリリが最後のおにぎりを口に入れ満足そうに微笑む。
「ぷはぁ~この緑茶も美味しいね。香りが良いのはもちろんだけど仄かな苦みと甘さが癖になるよ」
「うふふ、食後は紅茶ではなく緑茶ですねぇ。口の中がサッパリとして甘いものが欲しくなります」
「流石に食べ過ぎだと思います……」
おにぎりを目の前で十個は食べているメリリにメヌエットが呆れながら口にし、クロは聞こえないフリをしながら空いた皿を片付け、メヌエットも立ち上がりそれを手伝いながらクロへ話し掛ける。
「クロさま、どの様理も大変美味しかったです。妹がここで楽しく生活ができていることがわかりました。ただ、少々食べ過ぎているようなのでクロさまも気を付けてあげて下さい」
「そ、そうですね。気を付けてはいるのですが……」
「それとひとつお願いがありまして」
「お願いですか?」
「はい、昨晩使用させていただいた湯たんぽなる最高の発明品を買い取れないかと……」
「湯たんぽですか? ええ、別に構いませんが」
「本当ですか! アレは素晴らしいものですね! 冬は足が冷えることが多いのですが温かく眠れました。この地を訪れた時は寒さに絶望しそうになりましたが、あのように温かく眠れたのは湯たんぽのお陰です!」
「うふふ、姉さんも湯たんぽの魅力に気が付きましたか。アレは良いものです! 我らラミア族がこの地で生活するには絶対に必要です! うふふ、それに部屋が暖かい工夫は他にもあってリビングで使っている暖炉の熱を屋敷中に巡らせているので二階の床が温かいのです。これは床暖房というクロさまのアイディアらしいですよ」
「す、素晴らしいですね。確かにいま思えば床がひんやりと感じませんでした……それにこのスリッパという履物も履きやすく脱ぎやすくて便利ですね」
「スリッパはその形状から脱げやすくもありますが、室内を綺麗に保つのはもちろんのこと革靴などとは違って足が蒸れないのです! 冒険者時代には常に革靴を履き蒸れた足の臭いに仲間内で笑い合ったりもしましたが、乙女としては恥であります! 常に甘く爽やかな香りを放たなければ乙女とはいえません!」
拳を握り締め叫ぶように力説するメリリに竜王たちも頷き、なかでも高ランク冒険者であるロザリアは何度も首を縦に振る。
「冒険者の多くはブーツを利用するのじゃが、天候が悪ければすぐに中に水が入り蒸れるのじゃ。酷い場合はそのまま感染症などにかかるのじゃがスリッパを使うようになってからはそれがないのじゃ。今ではブールを履く方が面倒になっておるのじゃ」
その言葉に多くの女性たちが頷き、キュロットが口を開く。
「冒険者は清潔さよりも強さを第一に考えるものね。気に入ったブーツのグリップ力と足の悪臭を天秤に何度も掛けたわ」
「私も師匠と旅をしていた頃はそうだったわね。湯あみをしてもまた臭いブーツに足を突っ込むと思うと憂鬱になったわ……」
カリフェルも同じ悩みを抱えていたのかしみじみと昔を思い出しながら口にする。
「ああ、そういえば殆どの人はブーツですよね~私みたいにスニーカーを履く人は珍しいのかな?」
「うむ、アイリーンが履いている靴は珍しいと思っておったが、クロも同じような靴を履いておったのじゃな」
「えっと、いつもはこんな感じの靴を履いていますね」
魔力創造でクロがいつも履いているスニーカーとアイリーンが履いている靴を創造するとロザリアとカリフェルにエルカジールが手に取り外観や中を確かめる。
「か、軽いのじゃ……」
「素材も特別なものを使っていそうねぇ」
「横に穴が開いているから通気性も良さそうだね。底は革というよりも樹脂を固めたような手触りだね」
「グリップ力もあってお勧めですよ~クロ先輩、こんな看板でどうですか?」
先ほどから集中して書いていたお好み焼きの看板の下書きを見せるアイリーン。
「どうして日本語でお好み焼きと書いたんだ?」
クロが疑問に思うように紙にはお好み焼きと日本語で書かれ下にはコテも描かれており、この世界の人が見たら読めるものはほぼいないだろう。
「そ、それは雰囲気ですかね?」
「何で書いた本人が首を捻っているんだよ……」
呆れながらもその看板を採用するのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。