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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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結婚観とエルフェリーン



 皆が寝静まりクロはひとりで明日の朝食の用意と屋台で出すお稲荷さんの準備を進めていた。


「朝食はおにぎりと簡単なお味噌汁に玉子焼きでいいとして、蕎麦とお稲荷さんに天ぷらを付けたお膳を用意か……お稲荷さんも中身を変えて普通のと、ゴマに甘酢生姜をみじん切りにした物を和えたものを用意するか」


 竈に火を起こし大量の米を炊き、その横ではお稲荷さんを作るために油揚げを煮込む。半分にカットした油揚げを下茹でして余分な油を抜き開き易くし、砂糖と酒に醤油を入れた鍋に入れ煮込んでいる。


「そろそろだな」


 米の炊きあがりを確認ししゃもじで混ぜて寝かせていると足音が聞こえ視線を向けると薄っすらと輝く光が見え、その光が近づくにつれ光が鮮明になりオトナモードのエルフェリーンが微笑みを向けキッチンカウンターに現れる。


「大人モードとは珍しいですね。喉でも乾きましたか?」


「うん、少しだけね。それとクロとちゃんと話そうと思ってね」


 エルフェリーンの言葉にすぐに温かい飲み物を用意しようと動こうとしたが、「ちゃんと話そう」という言葉にその手が止まるクロ。


「………………そうですよね。ちゃんと話さないとですよね」


 エルフェリーンに向き直り小さく口にする。リビングが静かな事もあってか、その小さな声はエルフェリーンにもちゃんと聞こえ「うん……」と返事をして微笑みを浮かべる。


「すぐに用意するので少しだけ待って下さい」


「うん、ここで待っているよ」


 煮ていた油揚げを窯から下ろしお湯を火にかけ温め、温めのお茶を入れたクロは二人分のカップを持ちキッチンカウンターへとまわりエルフェリーンの前に置きその横に座る。


 エルフェリーンはその間も普段は見せない大人オードで光の粒子が舞い、クロは隣に座りその光の粒子が微細な精霊たちだと改めて認識し、美しく輝く黄金の瞳を見つめる。


「そんなに見つめられると照れるぜ~この姿が本来の僕の姿ではあるけど、今ではいつもの小さい姿の方が暮らしていて居心地が良いからね~」


 頬を赤く染め微笑むエルフェリーン。クロも微笑みを浮かべ適温のお茶を入れた湯呑に触れその温かさを感じながら心を落ち着かせていた。


「初めて会った時も大人モードの姿で凄い人がいると思いました。死者のダンジョンから王都のダンジョンへ転移して、命がけでダンジョンから出たところで冒険者に絡まれて……そこを救っていただきました。あの時は光に覆われた師匠の姿に驚き、見惚れて、こんなにも美人で強い人がいるのかと正直驚きました……」


「あはははは、僕は強くて美しいからね~でも、初めて会った時にクロがそう思っていたとは知らなかったよ。あの時のクロは震えていたから怖がられていたのかと思ったぜ~」


「そうですね。少しだけ怖かったかもしれません……でも、それ以上に黄金に輝く姿とか、心配そうに俺に向けた瞳とか、問答無用でポーションをぶっかけられた事とか、いつの間にか少女の姿に変わり笑顔を向けてくれた事とか……

 不思議がいっぱいな人だなって、尊敬できる人だなって、一緒にいて楽しい人だなって……」


「うんうん、そうだね。初めて見たクロはボロボロだったからね~中級ポーションを問答無用で頭からかけたね。あはははは、その時のクロは凄く驚いていたね」


「そりゃ、助けてくれた人から急によくわからない液体をかけられ驚いていたら痛みが引いて……あの時に師匠に拾ってもらわなかったら死んでいたかもしれませんね」


「そうかな? クロは優秀だからね~クロならどうにかしてたと思うぜ~」


「いえ、俺は師匠が思っているよりも遥かに弱い存在です。戦い方もそうですし、心だって……亜神とかになっても実感はありませんし、勇気だって……」


「うん? そうかな? 僕が知る限りクロは勇敢だぜ~普段からみんなを支えて、巨大なイナゴを前にあれだけ頑張ったんだぜ~ランクスとも決闘をして勝って見せたし、連炎とも戦っただろ。古龍種を前にチームワークで拘束したのだって聞いて驚いたよ。それなのに勇気がないとは言わせないぜ~」


「あれは……そうですね。初めて師匠と出会った時よりかは勇気がついたかもしれません……でも、やっぱり俺は……勇敢ではないですね。好きな人に告白もできず、今の関係が壊れることに臆病で……」


「うん……僕も長い時間を生きてきたけど理解できるよ。今の関係はとても心地が良いからね~でも、でも、クロが亜神になったと気が付いた時は嬉しかった。嬉しかったよ。僕は長い時を生き、誰もが僕より前に寿命を終えてしまうからね。今のクロはエルフ並に生きると確信しているし、命が尽きたとしても神として天界に招かれる……僕が寂しいかったら天界に行けばクロに会えるからね」


 そう口にしながらお茶を手にしていたクロの手に優しく触れるエルフェリーン。クロは一瞬驚くがエルフェリーンの冷たい手に気が付きお茶で温めた手で握り返す。


「クロの手は温かいや……」


「お茶で温めてましたから……」


「うん、うん、そうだね。でも、でも、温かいよ。クロはいつも温かいよ……」


「師匠、俺は師匠の横に立ち、これからも師匠と一緒にいたいと思うのですが」


「うん、僕の為に、みんなの為に一緒にいて欲しい。でも、クロは亜神になったからね。僕以外にも奥さんをちゃんと作らないとダメだぜ~」


 告白した心算だったがその言葉に目が点になるクロ。


「師匠以外ですか?」


 思わず口から洩れた言葉にエルフェリーンは笑いながら口を開く。


「だって、亜神だぜ~国王だって三人の妻がいたんだ。クロは神さまになったんだから国王ぐらい越えなきゃダメだぜ~」


「いえ、それじゃ誠実さとか、浮気とか、倫理に反するのですが……」


「その考えの方が間違っていると思うぜ~クロは神さまになって人の枠を超えたからね。クロを慕う女性は多いからね~もちろん全てを受け入れろ何て思わないけど、僕と同じぐらいクロを生涯必要とする人はいるからね。ほら、コソコソしている音が聞こえるだろ」


 エルフェリーンの言葉に今まで聞こえていなかった雑音が耳に入り、月明かりの入るリビングに視線を走らせるクロ。


「ちょっ!? こっちを見ていますけどバレてませんかね」


「うふふ、良い雰囲気でしたが、今一瞬クロさまと目が合いましたねぇ」


「メリリ、声が大きい。少し控えて」


「うむ、やはり覗きなどすべきではなかったのじゃ……」


「ん……クロ師匠に怒られる……」


 暗闇から聞こえる小さな声に見られていたのかと顔を赤くするクロ。エルフェリーンはそんなクロと外野たちに片を揺らす。


「あはははは、みんな仲良しで僕は嬉しいぜ~クロの告白が上手く行くか心配して見に来てくれたんだよ」


「いや、そこは見に来ないのがマナーでしょうに……はぁ……師匠も知っていたのなら」


「ねぇ、クロはずっと僕のことを師匠と呼ぶけど、僕はクロには名前で呼んでほしいな。クロから名前で呼ばれたことはもう随分と昔に感じるよ」


 クロの言葉を遮りエルフェリーンが口にする。


「そ、そうですね……師匠の弟子になると決めてからはずっと師匠と……」


「そうだぜ~好きな人には名前で呼んでほしいぜ~」


 若干ニヤニヤとした表情をクロへと向けるエルフェリーンだったが、クロが「エルフェリーン……さま……」と勇気を振り絞り口にするとその顔は赤く変わりバシバシとクロの肩を叩きながら照れ、クロも耳まで赤く染まる。


「クロから名前で呼んで貰えて嬉しいけど恥ずかしいや」


「自分もです……師匠、じゃなかった。エルフェリーン……照れますね」


 暗いなか逃げるように退散する足音を耳に入れながら二人で笑い合うのだった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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