白夜の魔法とソリ
食休みを終えたキャロットと白亜は外へと走り、それを追う白夜とグワラにドラン。残りは麻雀をするのか炬燵の上を片付け炬燵のテーブルを裏返す。
夕食は寿司や天ぷらといった料理に決まっているので準備することがほぼなく、ダブロンを食らったメリリが「うふふ……」と静かな闘志を燃やし復讐に燃える姿に、巻き込まれないよう自分も外へ出ようとコートを手に取り白亜たちの向かった巨大雪だるまへと向かう。
結界に守られている屋敷周辺は風もなく温かく感じるが結界の外へ一歩出ると冷たい風が吹き思わず身をすくめる。そんな寒さのなかでも元気なキャロットと白亜は白夜が両手を上げ魔力を高める姿にキャッキャと喜ぶ。
「見てなさい。私が得意とする氷の魔法よ」
魔方陣が浮かび上がると巨大な氷がいくつも現れ積み重なり雪だるまと同等の大きさまで成長するとその手を止める。
「凄いのだ! かき氷食べ放題なのだ!」
「キュウキュウ~」
「これ程の氷を一瞬で造り出すとは……」
「流石は白夜さまです……」
白亜が飛び跳ねて喜び気を良くした白夜は氷の山へ跳び上がり手を翳す。すると、氷の山の表面が削れ輝くような美しさへと変わり、更に曲線を描くよう削られ氷の滑り台が姿を現す。
「おお、巨大な滑り台になったな」
「キュウキュウ!」
「これは絶対に楽しい奴なのだ!」
白亜とキャロットは自身の翼で飛び上がり頂上で手招きをする白夜の下へと向かい、クロもシールドを階段状にして上へと向かいながら魔力創造を使い一人用の小さなソリを創造する。
「あら、それに乗って滑れば冷たくなさそうね」
「キュウキュウ~」
「ええ、クロは気が利くわね」
「私も欲しいのだ!」
魔力創造で人数分のソリを創造して渡すとキャロットが一番に滑り氷の山をグルグルとまわりながら滑り落ちる。
「たーのーしーいーのーだーあぁぁぁぁぁ」
大きな声で叫び滑るキャロットの声にオモチたちがわらわらと集まりお座りの姿勢を取り下で待つグワラやドランに撫でられ、下へと到着したキャロットは勢いそのままに十メートルほど滑り笑顔で頂上へと飛び上がる。
「キュウキュウ」
「気を付けて滑るのよ」
ソリに乗った白亜は白夜に優しく押されスタートし楽しそうな鳴き声を上げ加速する。
「キューキューキューキュゥゥゥゥゥゥゥ」
絶叫を上げながら滑る姿に白夜は微笑み、クロも同じように見つめながら絶叫を上げながら下へと到着した白亜に手を振る。
「キャロットと白亜がすごく喜んでいますね」
「ええ、これは昔から子供たちに作っているわ。あの赤いのに乗ると速さも出て楽しいのね。私も滑ろうかしら」
そう言いながらソリに乗り出発する白夜。一気に加速し絶叫こそしないが人化して体感するスピードには恐怖があったのか、下へと到着すると暫く放心状態でフリーズしている。
「クロも滑るのだ!」
「キュウキュウ~」
「いやいや、アレを見ちゃうと滑る気には……」
「なら一緒に滑るのだ!」
「キュウキュウ~」
白亜が抱き付きキャロットに背を押され慌ててソリを用意しようとするが乗ることができず、そのまま滑り出し後ろからキャロットが飛びつき一気に加速する一行。残されたソリが寂しそうに見送る。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「はーやーいーのーだぁぁぁぁぁぁぁ」
「キューキューキューキュゥゥゥゥゥゥゥ」
二人と一匹の叫びにオモチたちが驚き吠え始め、フリーズしていた白夜も我に返り巨大滑り台へと振り向く。
「あら、仲良しなのね~」
絶叫を上げながら一気に滑り降りる姿を仲良しとまとめた白夜は微笑みながら目の前で停止するクロたちに手を貸し立ち上がらせる。
「ありがとうございます……」
「キュウキュウ~」
「一緒に滑ると楽しいのだ! もう一度なのだ!」
「えっ!?」
再度後ろからクロに抱き付き翼を羽ばたかせるキャロット。白夜との手が離れ空へと上がり白亜はそれを追い掛ける。
「おい、こら。俺はもう滑らんぞ!」
「大丈夫なのだ! 一緒ならもっと楽しいのだ!」
「キュウキュウ~」
頂上へと運ばれたクロはそのままソリの上に着地させられ、その胸に飛び込む白亜。キャロットは羽交い絞めにしている事もあり足で蹴ってスタートを切り、今度はちゃんとソリを使って滑るのだが、一人用のソリは小さく引きすられる形でキャロットが後ろにいることもあってか、あまり速度は出ずズルズルとゆっくり滑り台を終える。
「わふっ!」
滑って来たクロたちのまわりでへっへするオモチたち。どうやらオモチたちも滑り台を使用したいのか鳴き声を上げ、クロは上りやすいようシールドを階段状に設置すると尻尾を振りながら上へと登り滑り出すオモチたち。転がっていたソリを咥え登った事もありソリの上でお座りの姿勢で滑り降りて来る姿には愛嬌があり白夜とクロは肩を揺らして笑い、キャロットと白亜も負けてられないと再度空へと舞い上がる。
「リトルフェンリルたちの姿が面白いわね」
「小さいソリなのに器用に乗りますね」
「あれなら爪で傷付けることもないのう」
「オモチたちも喜んでいますね。私も滑ってみようかしら……」
グワラは七大竜王がやって来てからは常に緊張していたが、一緒に酒を飲み言葉を交わして今のように一緒に笑い、多少なりその緊張が解れいつもの表情を出すようになっていた。
「うむ、グワラも滑ってくるといい。我はここで見守っておるからのう」
「少し冷えますし火を焚きましょうか」
グワラを見送りクロはアイテムボックスから七輪を取り出し魔剣で火を起こすとドランと白夜が静かに膝を曲げて手を当てる。ドラゴニュートと古龍とはいえ雪の下では寒いのだろう。
「人化していると冷えるわね」
「ワシも魔化しておれば寒さなど気にならんが、この姿では寒さが腰に来るわい」
そんな二人にキャンプ用の折り畳みができる椅子を提供するクロ。七輪にヤカンを置き温かい飲み物を用意する。
「ひゃわわわわわぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ」
七輪の前を猛スピードで通過するグワラの絶叫にドップラー効果も重なり肩を震わせる三人。
「人化していなければあのぐらいのスピードは怖くないけど、人の姿だと感覚が違うのか恐ろしかったわ」
「キャロットと白亜は楽しんでいましたが、自分もあれは怖いですね。アイリーンやビスチェとかは気に入りそうですね」
屋敷で麻雀をしているだろう仲間たちの誰が気に入るか考えながら口にするクロ。
「メリリ嬢なども戦う際に見せるスピードは相当じゃしのう。ロザリアもきっと気に入るじゃろう」
「そうですね。あの二人は特に素早い戦闘をしますから、噂をすればメリリさんが来ましたね……」
「うむ、負けた様じゃのう……」
「凄い厚着だけど誰だかわかるのね……」
まるで雪だるまのように厚着をしたメリリは肩を落としトボトボとこちらへ足を進め、あきらかに負のオーラを纏い、ゆらりゆらりと時折左右に体を揺らす。
「メリリさんが来たのなら少し甘めなココアがいいかな」
「キュウキュウ~~~~~~」
「ココアは大好きなのだ~~~~~~」
二人でソリに乗り目の前を通過するキャロットと白亜。クロは木製のカップに人数分のココアを用意するのであった。
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