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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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キョルシーとヴァルと状態異常



 翌日になり、まだ暗い中で朝食の準備をするクロはオムレツを作る作業に追われていた。多くの卵を割り生クリームを入れ塩コショウをして混ぜ、熱したフライパンにバターを入れて撹拌して成形する。これを人数分作り、カリカリに焼いたベーコンとレタスにトマトのカットしたものを添えアイテムボックスに入れているのである。


 そんな作業を続けていると階段を降りる足音が聞こえ、クロのまわりから風が吹き抜ける。


「今のはヴァルが移動した気配かな?」


 普段から空気に溶けるように姿を消しているヴァルが移動したのだろうと思い作業を続けていると二階から「天使さんなのですか?」と幼い少女の声が聞こえ、シャロンと一緒に寝ているキョルシーが一人で起きたのかとオムレツの手を止めてランプの手に取る。


「天使さんはクロのお友達なのです?」


「はい、クロさまに仕える騎士として活動しております」


 ややかみ合わない会話が聞こえ、クロはランプの明かりを増やしキッチンまわりを明るくし、キョルシーに温かい飲み物を用意しながら待っているとヴァルに抱っこされ階段を下りてきたキョルシーと目が合いパッと笑顔を咲かせる。


「クロも起きているのです!」


 ひとりで心細かったのかテンションを上げて叫ぶキョルシーに、クロは人差し指を自身の口に当てる。すると、キョルシーは慌てて両手を口に当て、ヴァルに運ばれながらキッチンに向かい近くのソファーに降ろされ二人で腰を下ろす。


「眠れませんでしたか?」


 そう口にしながらホットココアをサイドテーブルに置くクロ。キョルシーはホットココアの香りに微笑みを浮かべ、サイドテーブルに置かれたランプが映し出すホットココアから上がる湯気を見つめる。


「甘い香りがします。昨日はお昼寝をいっぱいしたので夜はあまり眠れなかったです。飲んでも良いでいいですか?」


「熱いので冷ましながら飲んで下さいね」


「主さま、私も頂いて宜しいのでしょうか?」


 ソファーに置かれたホットココアは二つあり、立ち去り作業に戻ろうと思っていたクロへと声を掛けるヴァル。


「ああ、飲んで良いというよりも二人で飲んだ方が美味しいだろ」


 そう言いながら立ち去るクロはオムレツ作りを再開し、二人はココアを両手で持ち口にする。


「甘くて温かいですね」


「主さまは熱いと申されておりましたが火傷するほど熱くはないです。甘さも控えめでココアという奥深い香りと味わい……美味しいです」


 噛み締めるようにココアを味わうヴァルの姿に幼いながらもクロへの忠誠心がるのだと理解するキョルシー。サキュバニア帝国の皇女ということもあってか人を見抜く力があるのだろう。


「天使さんはお空を飛べますか? 私はまだ上手く飛べません」


「自分は生まれながらに空が飛べます。コツを教えられたら良かったのですが、申し訳ありません」


「それは凄いのです。私はやっと魔化できるようになったばかりで、毎日翼をパタパタさせる練習をしているのです。姉さまたちは私ぐらいの時に飛び回って大変だったとメイド長が教えてくれました。私も飛び回りたいのです」


「では、練習するしかありません。私は主さまの近くにいることが多いので安全に練習できるようサポートはできます。主さまの許可さえあればサポート致しましょう」


 その言葉にパッと顔を上げるキョルシー。ヴァルもキョルシーが喜んでいる事に気が付き微笑みを浮かべる。あまり感情を表に出さないヴァルだがまだ幼いキョルシーの表裏のない表情につられたのだろう。


「足音なのです」


「この気配と魔力の波長はシャロンさまです」


 階段を降りる音を耳に入れ視線を向けるキョルシー。現れる前に正体を当てるヴァル。


「シャロンもココアなら飲むかな」


 二人の会話を聞きながらオムレツを量産していたクロは手を止めて再度ホットココアを用意し、階段から降りてきたシャロンがベッドから抜け出したキョルシーを見つけ胸を撫で下ろしているとホットココアが届けられお礼を口にするシャロン。


「朝からキョルシーがすみません……」


「いや、大人しくしていたし、ヴァルの話し相手になってくれたぞ。キョルシーさまは素直で良い子だよな」


「はい、それに向上心が高く飛ぶ練習を約束しました。主さまの許可さえあればいつでもお相手致します」


「約束しました。天使さんは優しいですね」


 微笑みを浮かべる二人にシャロンも微笑みを浮かべ、普段は姿を見せなく硬い印象のあるヴァルが予想よりもキョルシーに懐いたことに少なからず驚くクロ。シャロンもヴァルとキョルシーが仲良くなった事に驚きながらも、天使という種族なら任せても安心だろうと「良かったねキョルシー」と口にする。


「はい、今日はいっぱいパタパタします!」


「パタパタは良いけど朝は静かにしないとね」


 シャロンに軽く注意され両手で口を押えるキョルシー。その姿に肩を揺らすクロとヴァルなのであった。







 朝日が昇り起きて来るビスチェとキュロットにドランとロザリアと聖女タトーラに用意していた朝食を提供するクロ。フランとクランも早く起きて朝食の準備を手伝い暖炉で厚切のパンを焼いている。


「パンのおかわりなのだ!」


「キュウキュウ~」


「は~い、今焼けるからな~」


 フランが答えクランが焼きたての厚切のパンを運ぶと、一斉に手を出し香ばしく焼かれた食パンにバターや蜂蜜にジャムを塗って口に入れる。


「朝からキラービーの蜂蜜かけ放題とか、やっぱりここは天国ね!」


「天国なのは認めるけど、蜂蜜をそんなに使うと太るわよ。あむあむ……」


「うむ、このイチゴのジャムも美味いのじゃ」


「ワシはこのトロトロとした玉子焼きが美味いのう。バターの香りとコクに食欲が刺激されるのう」


「キュウキュウ~」


「白亜さまはスープが美味しいといっているのだ! 薄いお肉もカリカリして美味しいのだ! でも薄いのだ!」


「ベーコンは薄くしないとしょっぱいからな。そろそろ竜王さまたちを起こしにいかないとだな」


 満足そうな表情を浮かべ朝食を口にする様子を見ていたクロは窓の外に見える普段は倉庫として使っている旧居へ視線を向ける。

 昨晩は急遽、旧居に浄化魔法を掛け魔力創造でダブルベッドを人数分用意し宿泊できるよう整え、そこに五名の竜王を寝かせたのである。竜王と名乗りながらも無理難題を押し付けることはなく、最悪は元の姿に戻って外で寝ると言い出した炎帝を引き留めたほどであった。


「クロが起こしに行くのかしら?」


 ジト目を向けるビスチェに顔を引き攣らせるクロ。数千年以上生きているとはいえ竜王は皆美女揃いな事もあり、男であるクロが寝起きの女性たちの下に向かうことに難色を見せるのは仕方のない事だろう。


「連炎さんが起きて来るのを待った方が無難だよな……ん? アイリーンもまだ起きてこないが……二日酔いか?」


「ギギギギギ」


 視線を二階へと向けるクロに七味たちが手を上げ一斉に降下する。


(アイリーンの部屋からはアルコールの臭いが酷い。エルフェリーンとルビーにグワラとキュアーゼに連炎の部屋からも同様)


 一味からの念話に「こりゃ二日酔い確定だな」と口にするクロ。


「でしたら自分が状態異常を回復させて参ります」


 そう口にして手を翳すヴァル。光の粒子ヴァルを中心に広がり屋敷全体を包み込むと寝不足だったクロの隈が消え、お腹いっぱい食べたキャロットが手を上げ「おかわりなのだ!」と叫ぶ。


「厚切のトースト9枚目は流石に食べ過ぎだろう……」


「今の光でお腹が減ったのだ!」


 キャロットの言葉にヴァルへ視線を向けるクロ。


「食べ過ぎも状態異常の一部ですので……」


 申し訳なさそうな表情で説明するヴァルをよそに、厚切トーストにたっぷりとバターを塗るキャロットなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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