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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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メリリへの報告とクロへの評価



 エルフェリーンはメリリを呼び部屋の隅のソファーへと移動し、クロやアイリーンはその様子を窺いつつも消えて行く果実のスピードに驚き、七味たちは慌ててキッチンへと戻り新たな果実の皮を剥きフルーツ盛り合わせを用意する。


「あの、フルーツ盛り合わせよりも大切なお話なのでしょうか?」


 メリリの言葉に好きなメロンの味が脳裏に浮かび一瞬迷うも、姉のメヌエットがメリリに会いたがっているとう現状を報告する。


「それは……」


 眉間に深い皺が俯き迷う素振りを見せるメリリだったが、すぐに顔を上げて口を開く。


「私的にはもう縁が切れていると考えているのですが……」


「そうかもしれないけど、メヌエットは罪悪感に押し潰されそうになっていたぜ~今はサキュバニア帝国のお城でメルフェルンと待っているからね。ここまで遅い時間まで待たせる心算はなかったけど、もう飲んでしまったからね~転移で連れて来るとしても明日かな」


「罪悪感ですか……そうですね……では、明日ということで、私は戻ります……」


 立ち上がり一礼して立ち去るメリリ。その後姿を見送りながらエルフェリーンは思う。


 すごく深刻な話をしていたと思うけど、果物の誘惑の方が勝るとは……


 新たなフルーツ盛り合わせを運ぶ七味たちがテーブルに向かい、スキップで炬燵へと向かうメリリがそう思われるのは仕方のない事だろう。









「それにしても連炎ちゃんが負けるとか、ここは相変わらず理不尽な強者が揃うわね。あむあむ」


「精霊の蔦だったか? それに拘束されると魔力を吸収され、蔦は再生を繰り返すらしいからな。拘束されなければ良いだけの話かもしれんが、それを可能とする実力者だったということだな」


「クロは俺様のブレスに対してシールドを器用に使い足場にして逃げました。ドラン殿も鬼気迫る闘志を感じましたし、ロザリアは存在感を消しながら近づかれ、嫌がらせのような粘着質の糸にも……完璧なチームワークだったと思います……」


 余程悔しかったのか手にしていたフォークがグニャリと曲がり慌ててまっすぐに伸ばす連炎。


「私たちのような生まれながらの強者は協力して戦うという発想自体がないものね。敗北するにしても同業者ぐらいだもの」


「古龍は古龍で討伐する……我らの様な強者は弱者を守り育て、世界の隅にいるぐらいが丁度良いのだろう……」


「そうよね~ストレスが溜まったら人のいない北の僻地に集まって殴り合うものね」


 竜王たちの言葉に北で行われていた集まりの内容を知り顔を引き攣らせるクロたち。エルフェリーンとエルカジールはキャッキャと笑いフルーツを片手にウイスキーで流し込む。


「そういえば白亜と番になりたいそうね」


「いえ、今はそのような思いはありません……ここに来て自分の小ささを知り、新たな友を得て色々と思う所があり……」


「連炎さんも深い闇を知りましたからね~あむあむ、やっぱり日本の葡萄は別格ですね~」


「深い闇?」


 大粒の葡萄を口に入れるアイリーンへ疑問を投げ掛ける炎帝。連炎は頬を赤く染め視線を逸らす。


「あむあむ……連炎さんには私が知る芸術を教えました。尤も尊く、崇高で、熱くたぎる魂の触れあい……」


 フォークを持つ拳を固め力説するアイリーン。クロは空いた皿を手に持ちキッチンへと逃げるように移動する。

 リビングでは竜王たちが興味深げにアイリーンの話を聞く様子が感じ取れるが、明日のカレーの下準備をしようと巨大な肉の塊をまな板に載せるクロ。それに気が付いた七味たちが玉ねぎやニンジンの皮を剥き始め自然と手伝う姿に「助かるよ」と口にする。


 一口サイズの肉を炒め、ローリエを入れて大鍋で煮込み、よく炒めた玉ねぎとニンニクのスライスにニンジンとキノコを入れ炒め、肉とは別の大鍋に入れて煮込む。灰汁を取りながら様子を見ていると、七味たちはロース肉の筋切りをはじめ、トンカツ用の下準備だなと理解したクロはパン粉などをアイテムボックスから取り出す。


「明日の昼はカツカレーで朝食はどうするか……」


 アイテムボックスを立ち上げリストを見つめ朝食の献立を考え、まだまだ多く残る島クジラの肉やアイリーンが狩って来た鹿肉や猪の肉に、ビスチェが育てる野菜をどう使うか考えているとリビングからはワーキャーとはしゃぐ声が響き視線を向ける。


「ですから、強引なのもありなのです! 特に俺様キャラの連炎さんが逆に受ける立場となって、普段とは違うギャップにグッとくるのです!」


 リビングから漏れ聞こえる声に腐った信者が増えない事を祈りつつも皮を剥いたジャガイモを炒めるクロ。七味たちは大量のトンカツの準備を終え後は揚げるだけの状態でクロのアイテムボックスに入れるようお願いし、浄化魔法を使い散らばったパン粉を片付ける。


「ああ、明日は揚げたてを食べてもらおうな」


「ギギギギ」


 用意したトンカツがアイテムボックスに収納され両手を上げてお尻を振る七味たち。七味たちも料理を作り相手が口にして喜ぶ姿が好きなのか、熱心に料理の修行を続ける日々を過ごしている。


「七味たちは朝食に何か食べたいものはあるか?」


 その言葉に細い腕組みをし頭を左右に傾けながら考える素振りを見せ、一味が代表して念話をクロへと送る。


(朝食は米が理想だが昼食がカレーライスならパンにすべき? 人数が多くなったから手早くでき……あれだけ酒を飲んだら二日酔い?)


 七味たちの意見にそれもあるかもとリビングへ視線を向けるとまだ話は盛り上がっているのかアイリーンが熱弁する姿が見え、腐った話がツマミ代わりなのか多くの酒瓶や缶が散らばっている。


「二日酔いでもアイリーンが治せるだろうけど軽めにするか。スープとパンにオムレツとかかな。ナナイさんたちに貰ったベーコンを添えてジャムや蜂蜜を用意すればキョルシーちゃんも喜ぶだろう」


「ギギギギギ」


 クロの朝食の案に両手を上げてお尻を振る七味たち。七味たちも甘味が好物でありジャムや蜂蜜をパンに付け食べるのを想像したのかテンションを上げ、いつもよりも踊りのキレが増して見えるクロ。


「スープの準備だけでもしておくか」


 大鍋を更に追加してトマト缶を入れ玉ねぎやベーコンを軽く炒めて鍋に投入し、キャベツや薄くスライスしたマッシュルームなどを入れ煮込み、コンソメスープの素と塩コショウで味を調える。


「良い香りがしてきたわね」


「クロ先輩が朝食の準備をしているのでしょうか?」


「人化すると味覚は鋭敏になるが食べられる量が少なくなるのが欠点だな。酒は入るがもう満腹なのが残念だ」


「今日は美味しいものを食べ過ぎました。これからは人化で食事をする度にクロの料理を思い出しそうね」


「あははは、みんなもクロの料理の虜だね~でも、クロにちょっかいを掛ける輩がいたら竜王だって許さないぜ~クロは僕の物だからね~」


 ギロリと竜王たちに睨みを利かせるエルフェリーン。その視線に炎帝も体を仰け反らせ、白夜は微笑みを浮かべ、他の竜王はコクコクと頭を縦に振る。


「私も貴女と喧嘩してまでクロを取ろうとは思わないけど、白亜はクロを好いていたわ。将来は良いライバルになるかもね~」


 白夜の言葉に眉間に深い皺を作るエルフェリーン。だが、アイリーンは首を傾げる。


「あの、あの、クロ先輩は人族ですから長く生きても百年ぐらいですよね? 白亜ちゃんが成人するまで五百年は掛かると連炎さんが言っていましたけど……」


 アイリーンの疑問に微笑みを浮かべる白夜。エルフェリーンも腕組みをしながらうんうんと頷く。


「あら、貴女も気が付いていないの?」


 意味深な言葉を投げ掛ける白夜に、エルフェリーンはキッチンで作業するクロへ視線を向けるのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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