エルフェリーンの帰還
「それじゃ、エルカジールとメヌエットは少し待っていてね。メリリに確認してくるからね」
「はい……宜しくお願い致します……」
深く頭を下げるメヌエット。その横ではつまらなそうな顔でソファーに座るエルカジール。更に気まずそうな表情を浮かべながらも紅茶のおかわりを入れるメルフェルン。
シャロンとキュアーゼに挟まれたキョルシーは二人に手を繋がれて転移の門をくぐり草原の若葉の敷地へと辿りつき、その後ろをカリフェルとエルフェリーンが続きその表情がみるみる曇るエルフェリーン。カリフェルも異変に気が付いたのかその姿を魔化させ戦闘モードへと移行する。
「待って! 中に強大な魔力を複数感じるわ!」
カリフェルの叫びに足を止めたシャロンはキョルシーを抱き上げ、キュアーゼも瞬時に魔化してシャロンの前に立ちながらもまわりを警戒する。
「みんなは無事みたいだけど……これはあいつらの魔力だね……」
眉間に大きな皺を作りながら天魔の杖を取り出し玄関を開けるエルフェリーン。すると、目の前には白夜が現れギュッとエルフェリーンを抱き締める。
「会いたかったわ~」
「もごもご、僕は、もごもご、会いたく、もごもご、な、もごこご」
白夜に抱き締められ足をプラプラさせ、大きな胸に溺れそうになりながらも叫ぶエルフェリーンの姿に、魔化していた二人は元の姿に戻りリビングを見渡す。視線の先には炬燵で料理を食べお酒を飲む見慣れない女性に顔を引き攣らせるカリフェル。
「あら、ドラゴニュートが増えているけど……見慣れない種族もいるみたいね」
「見慣れない種族ではなくあれは雷華さま……恐らくだけど、七大竜王が他にもいるわ……」
「雷華さま……七大竜王……」
キュアーゼもカリフェルと同様に顔を引き攣らせ、遅れて玄関に入ったシャロンと抱っこされているキョルシーはハグされ溺れそうになるエルフェリーンを見つめ、同じような事がさっきあったなと肩を震わせる。
「あれ、早かったですね~皆さんお帰りなさ~い」
ソファーから立ち上がりシャロンたちに手を振るアイリーン。固まっている二人の間を抜けて足を進めアイリーンに「只今帰りました」と言葉を返し、キッチンカウンターへと向かい料理をするクロへと声を掛ける。
「思っていたよりも早く帰れました」
「おお、お帰り。シャロンたちも食べるだろ?」
「はい、キョルシーも食べるかい」
「食べます! えっと、あのね。クロ、ありがとっ!」
シャロンに抱かれながらお礼を大声で叫ぶキョルシーに一同の視線が集まり、お礼を言われたクロは何の事だろうと思いがらも「どういたしまして」と口にしながら炒飯を煽る。
「ん……よく来た……」
「これから炒飯ができるから楽しみにな」
クランとフランからの言葉にパッと笑顔を浮かべ「はい!」と元気な返事をするキョルシー。そのやり取りに微笑みを浮かべる竜王たちと乙女たち。ドランもキョルシーとのやり取りを見ながらキャロットが幼い頃を思い出し視線を向けるが、大口を開けてハンバーグに齧りつく姿に女子力がゼロの孫娘を心配するのであった。
「じゃあ、改めてカンパ~~~~イ」
エルフェリーンの掛け声に皆でグラスを上げ口に流し込む一同。未成年のキョルシーと白亜はオレンジジュースを口にし、キャロットは湯気を上げる炒飯を口に入れ咀嚼を繰り返す。
「北で集まりがあったのは気配で分かったけど、どうして古龍たちがこんなにも家に押しかけているのかな? 炎帝の娘もいるし……」
乾杯の掛け声とは違い訝しげな瞳を白夜に向けるエルフェリーン。視線を向けられた白夜は微笑みを浮かべエルフェリーンと同じウイスキーを口に入れ蒸籠を開け湯気の中から現れたシュウマイに驚く。
「このお酒も美味しいけど、どの料理を食べても美味しいのには驚いたわ。白亜は毎日こんなにも美味しい料理を口にしているの?」
話題を逸らされ眉間の皺が更に深くなりエルフェリーン。話題に上がった連炎も気まずそうな表情を浮かべる。
「キュウキュウ~」
「クロの料理はどれも美味しいのだ。あむあむ」
「本当にそうね。白亜が羨ましくなっちゃうわ」
シュウマイを口に入れハフハフと熱い息を漏らす白夜。エルフェリーンも食べ応えのある大きなシュウマイに齧りつきあまりの熱さに悶絶する。
「甘酢とは最強かもしれん……」
リクエストした甘酢に水流が嵌り、竜田揚げ以外にもシュウマイや春巻きにカルパッチョなどを付け口に運ぶ。
「それではすべてが同じ味になってしまうのでは?」
夜光の指摘に水流は腕組みをしながら悩む素振りを見せ口を開く。
「確かにその通りかもしれない……だが、甘酢という甘く酸味のある奥深い味が食材を更なる進化へ導いているのだ……これはもう発見かもしれない……バブリーンや海エルフたちが絶賛した意味を知ったのだよ。ほら、夜光も食べて見るといい」
そう言いながらカルパッチョを皿に取り甘酢をたっぷりと掛ける水流。夜光は余分な事を口にしたと後悔しながら皿を受け取り、目を輝かせリアクションを待つ水流に苦笑いを浮かべる。
「どの料理も美味しいです! シャロン兄さまはズルいのです! 私の知らないクロの料理がいっぱいです!」
キョルシーがミートボールを口に入れ隣に座るシャロンを困らせ、キュアーゼが肩を揺らし、カリフェルもお酒を手に笑い声を上げる。
「ズルイか……でも、こうしてキョルと一緒に食べられて僕は嬉しいよ」
「はい! 嬉しいです! 特にこの小さなハンバーグが美味しいです!」
「キョルの好きな溶けたチーズが乗っているものね」
「はい! 溶けたチーズは美味しいです!」
「こっちのカルパッチョという生のお魚を使った料理も美味しいわよ。クロが料理したから生でも食べられる珍しい料理なのよ」
「生のお魚はお腹が痛くなるとメイド長に教わりましたよ?」
首を傾げるキョルシーにキュアーゼがカルパッチョを一切れ口に入れ白ワインで流し込む。
「ふふ、美味しいわ~少し酸味のある味付けがお魚の風味を調和して、添えられている野菜のシャキシャキとした歯応えも楽しいわよ」
「白ワインと特に合うわね。こっちの春巻きというパリパリとした料理も美味しいわよ」
「春巻きは僕も好きです。まわりもそうですが中に入っているトロミの付いた具が美味しいですね」
「うぅぅ、シャロン兄さまどうしましょう。食べたいお料理がいっぱいで、どれを食べようか困っちゃいます!」
「キョルはすぐにお腹もいっぱいになるだろうから、僕と半分に分けて色々食べるかい?」
シャロンの提案にその手があったと目を輝かせるキョルシー。早速、春巻きをナイフで切ってもらい半分を口に入れパリパリとした皮と中のトロリとした具のハーモニーを味わい表情を溶かし、その表情を見た三名も微笑みを浮かべる。
「ほう、連炎が子を産みたいという理由でここを訪れ、我らの許可を貰いに……それにしても連炎が破れるとは驚きだな……」
「申し訳ありません。油断をしていた心算はありませんでしたが、地に組み伏せられ抵抗すらできずに……」
連炎は自身がここに来た理由とチームワークと精霊の蔦に拘束され敗れた経緯を母である炎帝に説明し、互いにドランの持って来た日本酒を口にする。
「本来の姿で拘束されるとは……俺たちでも敗れる危険があるのではないか?」
「精霊王の蔦は再生と拘束した者の魔力を吸う性質があるようで、炎に対する耐性も強く……」
「ほう……それにしてもこの肉で巻いてある料理は美味いな。まわりの塩気のある肉が中の野菜の甘さを引き出しているぞ」
「えっと、その中身の野菜が精霊王の蔦と呼ばれるもので……」
知らぬ間に口にしていた料理が娘である連炎を倒した精霊王の蔦だと知り、数秒ほどフリーズする炎帝なのであった。
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