七大竜王の歓迎会
七大竜王のうち五頭が宿泊することとなりキッチンでは戦場のような忙しさで下拵えが行われていた。多くの野菜を切り、肉をカットし、大鍋で茹でる。クロを主体にフランとクランが手伝い、七味たちがフォローする。その姿に白夜をはじめとした七大竜王は驚きの表情を浮かべていた。
「人間とエルフに蜘蛛の魔物が協力して料理を作るとは……」
「蜘蛛は学習能力が高いと聞いたことがあるわ。あるけど……」
「ああ、常識を超えるわね……」
「俺の知る限り料理をする魔物なんてものは存在しない。あれか? 新しい種といて報告があったアラクネという蜘蛛の亜人種が料理を教えたのか?」
「いえ、私が教えたというより蜘蛛の女王がクロ先輩の料理に興味を持って、ここに住み込み七味たちが修行していますね~」
七大竜王たちの会話にアイリーンが混じり口を開いた事でその視線を集める。
「不思議な魔力を持っていると思ったら、貴女が新しい蜘蛛の亜人種なのね」
微笑みながらも値踏みするような視線を送る白夜。
「キュウキュウ~」
「あら、下半身が蜘蛛になるのはカッコイイ? ふふ、そうかもしれないわね。後で見せてもらっても良いかしら?」
「え、あ、はい。それぐらいなら全然大丈夫です」
「キュウキュウ~」
白夜に抱き付いていた白亜がアイリーンに抱き付き、それを受け止め優しく撫でるアイリーン。
「白亜も懐いているのね。やっぱりエルフェリーンに預けて正解だったわ」
白夜の言葉に白亜の巫女をしていたグワラは俯きながら自分の不甲斐なさを痛感し、ドランも神として白亜を崇拝し接していた事を恥じながら親子のように触れ合うアイリーンと白亜の姿に微笑みを浮かべる。
「料理をする姿を見て思いましたが、ここには様々な人種が集まるですね」
雷華がリビングに集まる乙女たちを見渡して口を開く。
「人族にエルフにヴァンパイアとドラゴニュートに、外にはアラクネもいたぞ」
炎帝が一人一人を見つめ口にする。
「リトルフェンリルに蜘蛛の魔物とフェンリルもいますね」
水流がリビングの隅で固まるオモチたちを見つめ、キッチンへ視線を移し、アイリーンの傍で伏せている小雪を見つめる。
「あの目はラミア族ですね」
メリリを見つめ微笑みを浮かべる夜光。
「ここは昔から多様な人種が集まりエルフェリーンを中心に生活をしていたわ。私がここへ来ると仲間の楽しい話をいっぱいしてくれたもの」
「懐かしいですな。ワシもその中で楽しい時を過ごしました。もう戻れない輝いた時間だったのう……」
昔を懐かしみながら口にするドランだったが、キッチンから漂って来る香ばしい香りに皆の興味がそちらへと向かう。
「食欲をそそる香りがしてきたぞ!」
炎帝が口を開きリビングへと流れて来た香りを前に盛大にお腹を鳴らすキャロット。白亜もお腹の音を鳴らして鼻をスンスンと動かす姿に微笑みを浮かべる白夜。
「どんな料理が出て来るのか楽しみね」
「キュウキュウ!」
「今日はハンバーグなのだ! クロと約束したのだ!」
白亜とキャロットの声が重なりハンバーグとはいったいという空気になり、アイリーンが口を開く。
「ハンバーグはクロ先輩が作る最強の料理の一角ですね~白亜ちゃんの大好物ですよね~」
「キュウキュウ~」
「私も大好きなのだ!」
「あら、それは楽しみね。白亜が普段どんな料理を食べているか興味があるわ」
「俺も連炎が世話になっているようだから何を食べているか気になるが、そうだな、何かしら礼もしないとだな」
喜ぶ白亜にキャロット。それを見て白夜も喜び、腕組みをする炎帝はお礼を考え、連炎はお世話になっているという自覚がなかったのか家臣のサフランとクーペへ視線を向ける。
「なあ、俺様がここにいるのは世話になっていたのか?」
「それは……」
「連炎さまが宿泊するだけでも栄誉な事ですが、食費などの経費が掛かる事実です。毎晩、ドランさまの作った酒やクロさまが用意する酒の費用を考えると、それなりのお礼を考えているのかと思っていたのですが……」
サフランは妹のクーペへ視線を送り、クーペはありのままを口にする。
「そ、そうか……なら、俺様の鱗を数枚ほど後でアイリーンに渡すとしよう……あれ、痛いんだよな……」
古龍種である連炎はあまり金貨を持ち歩く習慣がなく、通貨という概念を持っているが生活で金を使うことはほぼない。あったとしてもその強大な力で魔物から炎帝国を守るために振るい報酬を金貨で受け取るぐらいである。
自身の住む火山の穴倉には多くの金貨が積まれているがさほど興味もなく、いつか使うだろうという程度の認識であった。
「お待たせしました。これから色々な料理を出しますのでゆっくり食べて下さい」
「ギギギギギ」
「うふふ、お酒も色々と取り揃えておりますのでお好きなものをお飲みくださいねぇ」
クロと七味たちが料理を運び大皿に乗せたクジラの竜田揚げがリビングに届けられ白亜とキャロットが歓声を上げ、同じようなテンションで喜ぶ水流。他にもカルパッチョやシーザーサラダにおでんや白亜たちが楽しみにしていたハンバーグなども運び込まれ、炬燵の上に乗り切らない料理はアイテムボックスに入れてあるテーブルを出して対応し、炬燵組には和食の料理が、テーブルは洋食の料理が並ぶ。
「こちらの缶はビールやサワーといったシュワシュワしたお酒です。ビールは苦みが強くサワー系は甘めなものが多いです。うふふ、ワインも赤と白とロゼを用意しておりますのでお好きにお飲みください」
テーブルには良く冷やされたアルコールが並びビスチェとキュロットが早速白ワインを求め移動し、それを見ていた雷華と夜光が見たことのない白とロゼのワインを求め立ち上がる。
「どれ、ワシの作った酒も竜王さま方に振舞わせてもらおうか。是非、感想を聞かせてもらいたいしのう」
アイテムバッグから樽を取り出すドランに興味があるのか炎帝がそちらへと向かい、水流は娘のバブリーンたちから念話などでクロの料理を知らされていたのか皿を取り竜田揚げを口にする。ハンバーグを皿に取った白亜が白夜の下に向かい、その皿を白夜に進められたことに感動しているのか、それとも成長した姿を嬉しく思っているのか、ハンバーグを口にする前に抱き締めお礼を口にしている。
「まわりがサクサクとしながら弾力のある肉が美味しいわ。でも、甘酢がないのだけれど……」
「甘酢ですか、すぐに用意しますね」
「クロ先輩、タルタルもお願いしますね~カルパッチョうま~」
水流から甘酢をアイリーンからタルタルソースをリクエストされ、チキン南蛮が正解だったかと思いながらキッチンへ戻るクロ。ロザリアや連炎も酒や料理を口に入れ七大竜王たちが揃う炬燵の隅で表情を溶かす。
「ん……緊張したけど……大丈夫になった……」
「竜王さまの食事を作ることになるとは思わなかったが、あの顔を見れば満足しているよな」
クランとフランはキッチンカウンターからリビングを覗き料理と酒を口にして満足気な表情を浮かべる竜王たちの姿に胸を撫で下ろす。
「こ、これは、はい、はい、料理をですね。それとビールに梅サワーとカシスオレンジをですね」
部屋の隅で光に覆われ膝を付いて手を合わせる聖女タトーラ。光の柱に包まれる姿が竜王たちの目に留まり顔を引き攣らせるが、草原の若葉ではよくある光景で「ああいつもの注文か」と言葉を漏らすクロ。
七大竜王たちの歓迎会は続くのであった。
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