巨竜
クロたちの前に降り立ち暴風のような風と地響きにバランスを崩しそうになるが、空間に設置したシールドの効果もあり転ぶことはなかった。が、目の前の巨大な瞳を前に苦笑いを浮かべながら関係者だろう連炎へと視線を向けるクロ。
「は、母上!?」
直立のまま叫ぶ連炎に、目の前の赤い巨竜が連炎の母親である事を知り、同時に古龍の中でも七大竜王のひとりである炎帝だと認識する。
ドラゴン状態の連炎よりも更に大きく、高層ビルのような巨大な姿から見下ろされ恐怖したフランとクランはガクガクと震えキュロットの後ろへと素早く隠れ、他にも震えている者はシールドを展開しているクロの後ろやドランの後ろなどに身を寄せ、小雪やオモチたちはその場に伏せて尻尾を下げる。
「エルフェリーンの姿がないのだが、どこであるか?」
巨大な背を丸め観察するように首を動かす炎帝から発せられた声はその巨体の割に小さいが、声を発した事で口の中が見えあまりに巨大な牙の大きさに口をあんぐりと開けたまま固まるクロ。
「どこであるか? じゃないでしょ!」
大きな叫び声が空から降って来たかと思った次の瞬間には炎帝の額に白い何かが見え吹き飛ぶ巨体。地震のような揺れと木々をなぎ倒しながら吹き飛ぶ巨体に、フリーズしていたクロは背中に隠れている白亜を抱えてシールドを更に増やして防御を固め、空から降りて来る恐怖に備える。
「みな下がれっ!」
吹き飛ばされる巨体に視線が向かっていた一同へドランの叫び声が響き、クロは上から落ちてきた巨大なバケツに気が付き逃げようとするが、腰を抜かした聖女タトーラが視界に入り展開していたシールドを頭上に集める。
「あら、危ないわ」
「キュウキュウ~」
落下してくる赤いバケツを素手で掴み抑える姿に白亜が鳴き声を上げ尻尾を揺らし、それに気が付いたのか微笑みを浮かべバケツを雪だるまの上に戻すと雪が積もる大地に足を付けるプラチナブロンドの美女。
「は、白夜さま……」
連炎が声を漏らしてその場に膝を付き、ドランやグワラにサフランたちも片膝を付いて頭を下げる。
「白亜のお母さんだよな?」
「キュウ!」
嬉しそうにひと鳴きする白亜はクロの腕から飛び立ち、微笑みを浮かべる白夜へと飛びつくと甘えたような鳴き声を上げ抱き締められる。
「少し早かったけど迎えに来たわ。えっと、エルフェリーンに任せたけど、君が面倒を見てくれていたのかしら?」
白亜を受け取った時の事を思い出し白夜に会釈するクロ。アイリーンやビスチェは伝説の七大竜王を前に固まっており、ロザリアは手にしていたレイピアを鞘へと戻す。
「はい、面倒というほどではありませんが食事を作ったりはしましたね。白亜はお風呂の掃除や果実の収穫を手伝ってくれて助かりました。それに脱皮した皮や鱗を頂き防具を作らせていただきました」
「キュウキュウ~」
「あらあら、白亜はこの人間が気に入っているのね。自分から脱皮した皮をあげるなんて……そろそろ他も来るわ。連炎ちゃんは雪の像が崩れないように元の姿に戻って支えてくれるかしら」
「はっ! お任せ下さい!」
マイペースに白亜を抱きながら微笑む白夜に命令され竜の姿に戻り雪だるまを支える連炎。「他も来る」という発言に空を見上げる一同。そこには青く長い蛇のような龍と黄金の輝きを放つ龍が見えゆっくりと地上へと現れ、更にその背には黒い薄手のドレスを着た黒髪の女性が大地に降り立つ。
「七大竜王さま方がこれほど揃う場に居合わせるとは……長い気をするものだな……」
ドランが漏らした言葉に追加で現れた龍二頭と黒髪の女性も七大竜王だと知り身を震わせる一同。
「ほらほら、いつまでもドラゴンの姿だと威圧しちゃうわ。私の恩人の前で権威なんてものを振り翳さない!」
白夜の言葉に反応するように姿を人化させる二匹。一人は青い髪の美女へと姿を変え、もう一人は輝く金髪の美女が姿を現す。
「私は水流、バブリーンたちから話は聞いているわ。貴方がクロよね!」
「自分は雷華と申します。これでも七大竜王の一角として頑張らせていただいております」
水流はクロの事をバブリーンから聞いているのかフレンドリーに自己紹介をし、雷華は丁寧に頭を下げて自己紹介をする。
「私は夜光よ……」
最後にシンプルな自己紹介をした夜光は黒髪が美しい女性で、人見知りなのか雷華の後ろに隠れる。
「私は白夜ね。それと転がっているのが炎帝よ」
先ほど白夜から蹴りを入れられ吹き飛んだ炎帝へ視線を向ける一同。そこにはなぎ倒された木々の間を歩きこちらへ向かって来る赤髪の女性の姿があり、連炎と同じように整った顔立ちに真っ赤な髪が印象的で貴族のようなスーツ姿をしている。
「騒がせて申し訳ないけどエルフェリーンはいるかしら? ちょっとしたお願いがあって、」
「私はクロに用事があるの! クロがとても美味しい料理やお酒を作っていると自慢されたの! ねえ、私の鱗や手持ちの金銀をあげるから料理やお酒を作ってくれないかしら!」
白夜の声を遮りクロへ速足で詰め寄る水流。青髪の美人に詰め寄られクロは驚きながらも先ほど口にしていた「バブリーンから話を聞いている」という言葉に南の島国に住むエルファーレや海エルフたちと過ごし、どんな料理を作ったか思い浮かべる。
「えっと、色々と作りましたが、印象的だったのは甘酢を使った料理や魚料理ですかね」
「かつお節も作りましたよね~」
「魚を潰して練って蒸した料理も作っていたわ」
フリーズしていたアイリーンやビスチェもクロに詰め寄り手を握る水流の姿に我に返ったのか口を開く。
「これ、白夜さまの前である。私語は慎みなさい」
ドランからの言葉に慌てて口を閉じるアイリーンとビスチェ。水流も白夜の言葉を遮った事に気が付きクロの手を離して白夜へと体の向きを変える。
「忠告してくれて助かるわ。炎帝は固いから蹴りやすいけど水流は柔らかいから気を使うのよ。それで、エルフェリーンはまだ帰らないのかしら?」
怖い事をさらり口にする白夜に水流の顔色が青く変わり、クロもヤバイ人物だと認識する。
「えっと、師匠は年内には戻るはずです。今はサマムーン王国のエルカジール様の所へ行っています」
正直に話す方が最善だと思ったクロが口にし、その横を燃えるような赤いスーツを着た炎帝が歩き片膝を 付く連炎の前で立ち止まる。
「連炎よ。どうしてこのような場にいるのか、後で聞かせてもらうぞ」
「は、はい……」
小さなやり取りをする炎帝と連炎。その額には白夜が履いているブーツの跡がクッキリと残り、触れるか迷うクロ。
「サマムーンなら一日も飛べば行けるけど、」
「キュウキュウ~」
「あら、そうなの。白亜が今日は泊って欲しいと言っているのだけれど……」
甘えた鳴き声を上げる白亜に顔を引き攣らせる一同。七大竜王を屋敷に泊めて家の強度が心配になるクロ。
「えっと、家を壊さないと約束していただけるなら構いませんが」
クロの言葉に笑い声を上げる白夜。白亜もキュウキュウと笑い、ビスチェたちは目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
「そんな心配をしなくても大丈夫よ。もし壊したとしても私が責任をもって直させるわ。特に炎帝のくしゃみで引火させたら……わかっているわよね?」
「できる限り善処する……」
背筋を正しそう口にする炎帝に満足気に微笑む白夜。七大竜王の5人が宿泊が決定するのであった。
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