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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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いざカマクラ



「今年はよく降りますね~あっ、かまくらの中でお雑煮食べたいです!」


「オゾウニ?」


 屋敷の敷地内は結界で覆われ雪が振ってはいないが、結界の外では多くの雪が降り積もり腰ほどにまでその高さを増している。そんな現状を窓から何気なく見つめていたアイリーンは連炎との会話の中でクロへと振り向きながら叫び、連炎は首を傾げる。


「雑煮は正月に食べるものだろう。後ひと月もすれば正月になるし、善哉かおしるこか甘酒で我慢してくれ」


「私的には甘みは控えた方が……」


 屋敷の窓辺近くのソファーに座り料理雑誌を見ていたクロへ話を振り、視線をリビングの隅にある炬燵へ向けるアイリーン。そこにはミカンを食べながらファッション誌を見つめる女性たちの姿があり、丸みを帯びてきたメリリの前には多くの皮が積まれている。


「あぁ、それはあるな……別に汁物じゃなくてもジンギスカンとかでも……そういや羊肉は食べて痩せる代表とか聞いたことあるな」


「私も聞いたことがあります! 羊肉は脂肪が少ない赤身肉で食べれば食べるだけ脂肪が燃焼されるとか」


「本当ですか!?」


 先ほどまで炬燵でミカンを食べていたメリリがアイリーンの真後ろから叫び驚くアイリーンと連炎。クロも驚きソファーから落ちそうになるが魔化した蛇の下半身に支えられ体制を戻す。


「俺様と戦った時も素早く動いていたが、今の動きはそれ以上だったぞ……」


 瞬時に魔化して現れたメリリの素早さを引きながら褒める連炎。アイリーンは胸を押さえながら飛び跳ねた心臓を落ち着かせ、クロは手にしていた雑誌から羊肉を使ったページを探す。


「ここにも書いてありますね。赤身肉に含まれるLカルニチンという成分が脂肪燃焼を助けるみたいです」


 クロが開いた雑誌に顔を近づけ食い入るように見つめるメリリ。メリリ自身は日本語が読める事もなく、見つめているのはジンギスカンの写真なのだが、変わった鉄板の形と食べれば食べるだけ痩せるという話を前に体重を気にしている女性が興味を持たない方がおかしいだろう。


「これはジンギスカンで決まりですね~でも、羊肉とかこの世界で見たことありませんね~」


「羊とは角がぐるりとした毛むくじゃらの動物や魔物だろう。それなら俺様は見たことがあるぞ」


「それならひとっ飛びして、私も協力するので狩りに行きましょう!」


「いや、それは大丈夫。魔力創造で羊肉なら創造できるからな。ジンギスカン鍋も想像が必要だな」


 そう口にしながら数個ジンギスカン鍋を魔力創造し、ラム肉の塊も数個創造するとメリリがその場で飛び跳ねて喜び、不思議な形のジンギスカン鍋を手にした連炎は興味深げに見つめ、アイリーンは顎に手をあてながら思案する。


「カマクラも作らないとですね~カマクラの中でジンギスカンをするとなると、空気がちゃんと流れるようにしないと危険ですよね?」


「そうだな。一酸化炭素中毒とかになったら危険だな。あの、メリリさん、こっそりひとブロック盗もうとしないで下さい」


 メイド服のエプロンの裏にラムブロックを隠そうとしたメリリを指摘すると微笑みながら「冗談です。うふふ」と誤魔化しながら返却され、それを受け取るクロは絶対に冗談ではないだろうと思いながらも愛想笑い浮かべる。


「私たちはカマクラを作りに行きましょう! 作り方は去年も作ったので大丈夫ですので連炎さんは手伝って下さいね~」


「ああ、カマクラというものが分からんが任せるがいい!」


「うふふ、私はクロさまと一緒にジンギスカンの下拵えを手伝いますねぇ」


「いえ、メリリさんもカマクラ作りの手伝いをお願いします。体を動かせますからダイエット効果もありますからね~」


 アイリーンからの言葉に苦笑いを浮かべ寒空の見える窓へと視線を向けるメリリ。ラミアという種族は寒さに弱く食べれば痩せるという羊肉を前に室内で手伝いと思うのは仕方のない事だろう。


「ギギギギ」


「ほら、七味たちが手伝ってくれるそうなのでメリリさん行きますよ~」


「カイロも沢山ありますから使って下さい」


 アイリーンに引っ張られながら外へと向かうメリリにアイテムボックスからカイロを取り出し渡すクロ。とても悲しそうな表情でアイリーンに引かれ玄関へ向かうメリリを見送り、キャロットや白亜たちも「カマクラを作るのだ~」と叫びながら外へと向かい慌ててコートを持たせるクロ。


「外は寒いから防寒着はちゃんと着ような」


「キュウキュウ~」


「白亜さまは毛糸の帽子が好きなのだ」


「ほら、ママも行くわよ! 手伝って!」


「寒いのは嫌よ。私は炬燵を守るエルフとしてこの屋敷に雇われ、待って! 落ち着いて! 手にしているカップのお茶を置くことから始めましょう!」


「師匠、私たちもカマクラ方を手伝うな!」


「ん……フラン頑張れ……」


「クランもカマクラを作る方を手伝うの!」


 キャッキャしながら防寒着を着て外へ向かう乙女たち。クロはキッチンでじんぎすかんの下拵えをはじめ、七味たちもブロック肉や野菜のカットを手伝う。


「うむ、若い者たちは元気で良いのう……」


 ひとり炬燵に残るドランは冷めたお茶を口にしながらゆっくりとした時間を過ごすのであった。







「皆さん見て下さい! こら、キャロットさんは雪玉を投げない! クーペさんも雪を食べない!」


 結界の外では底のない木箱をアイテムボックスから取り出したアイリーンは小学校の先生のように注意しながらカマクラの作り方を説明する。

 カマクラの作り方は二種類あり、大きな雪の玉を転がして中をくり抜いて作る方法と、今アイリーンが手に持っているような底のない木箱に雪を詰めて固めて積み上げて作る方法がある。今回は木箱を使い積み上げて作るのだろう。


「こうやって雪を入れたら体重をかけて踏み固めてブロック状にして下さい」


 去年の冬も同じ方法でカマクラを作り当時使った木箱を配るアイリーン。皆で協力をしながら作業を進めていると寒がっていたメリリの動きが活発になりその速度を上げて行く。


「動き始めてメリリさんの体温が上がりましたね~はじめからあの速度を出してくれればすぐに完成するのに……ん? キャロットさん?」


「大きな雪ダルマを作りたいのだ!」


「キュウキュウ~」


 腰ほどの大きさの雪玉を転がすキャロット。その転がす雪玉に乗り玉乗り状態の白亜。とても楽しそうなのだがクランが作っていた雪のブロックを堂々と潰しながら雪玉を大きくする姿にアイリーンの目が吊り上がる。


「う、動かないのだ!」


「キュウ!?」


 アイリーンが無言で糸を飛ばしキャロットを拘束し、白亜は宙づりにされ空間に固定される。


「ん……アイリーンが怒ってる……」


 クランの言葉に顔だけを動かし振り向いたキャロットはすぐに謝罪を口にするがアイリーンは目を吊り上げたまま無言で怒りを表しておりガタガタと震える白亜。


「アイリーンが怒るのは珍しいのじゃ」


「アレをどうにかできるのはクロとシャロンが仲良くしている所を見せるぐらいしか思い浮かばないけど……」


「アイリーンよ。俺様も協力しているんだ。早く作業を進めカマクラとやらを見せてくれ」


 ロザリアとビスチェがこそこそと機嫌の治し方を話していると真面目に作業をしていた連炎が空気を読まずに発言し、足元には多くの雪ブロックが完成しているさまを見せる。


「そ、そうですね……怒っても作業が遅れるだけですね。キャロットさんに罰としてピーマンたっぷりの刑にするとして、」


「それはあんまりなのだ~~~」


 アイリーンの声を遮り叫ぶキャロット。ジンギスカン鍋に大量のピーマンが乗せられる事が確定するのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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