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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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砂漠の海と新たな車?



 サマムーン王国へ向かい一週間もするとラミア族の鍛冶師たちや錬金術師たちはエルフェリーンとルビーの指導の下で新たな技術を学び、魔道駆動やエンチャントにミスリルを使った魔道回路の製法を取得する事に成功する。


 ちなみに魔道駆動とはレーシングカートのエンジン部分に相当し、魔力を込めるとギアが回転する仕組み。魔鉄と魔物の甲殻を使った合金で丈夫に作られている。

 エンチャントは物質に魔力を付与する魔術でありレーシングカートには魔力を強制的に遮断するブレーキの役割やスピード制御などに使われ、それらの魔力を通しやすくするために使われる技術が魔道回路である。回路にはミスリルなどの魔力伝導率の高いものを使いできるだけロスがなく魔力が巡るように設計されている。


「うんうん、ラミア族には偏見があったけど真面目な錬金術師もいるんだね~」


「鍛冶の方も覚えが良くて情熱を感じました! ドワーフと同じように鉄を打ち生計を立てる職人の方も多いのですね!」


 既に数台のレーシングカートを作りその工程は確りとラミアの職人たちに引き継がれたのを確認したエルカジールは二人を特別な場所へと案内して夕食を共にしていた。


「偏見? ああ、メイリーリン、メリリの事だね……」


「そうだぜ~メリリはうちで確りとメイドとして働いてくれているぜ~あの子は頑張り屋で責任感も強く剣技だって相当なものだぜ~他にも………………思い出そうとすると大きな胸が邪魔をするね……」


 普段のメリリの行動を思い出そうとするエルフェリーンだが世界クラスの大きさを誇る胸部装甲を思い出しそのイメージがあまりに強くメリリの活躍や普段の姿が掻き消えることに苦笑いを浮かべる。


「メリリさんは特別に大きいですから……あれだけの大きさなのに姿が追えないほど早く動くのは尊敬に値します……あの半分でも自分にあれば……」


 ルビーもメリリの大きな胸に自身のコンプレックスを覚え平らな胸に手をあて俯く。


「でも、メリリは楽しそうだったね。私はそれが唯一の救いだったよ……白い肌で生まれただけで忌子だなんて馬鹿げているよ! この前帰った時に国王の前でその事を追及したら国王も涙を流していたね……

今後はそのような事が起きないように国で特別な期間を作り保護する条約を作ると約束してきたよ……いつの日かメリリが笑顔でこの国に遊びに来てくれることを願うね……」


 薄っすら涙を溜めたエルカジールは立ち上がり閉まっているカーテンを開く。すると窓からは大きな月が輝き眼下には砂漠が月明かりを受け海のような美しさ見せる。


「ここは私がお気に入りの砂漠が見える特別な場所だ。しんみりしたけどこの風景を肴に一緒に呑もう!」


 エルフェリーンとルビーも立ち上がり窓から見える風景を見つめる。王宮内にある最大の高さを誇る監視塔の更に上に存在する一室はエルカジール専用の個室になっており、眼下にはサマムーン王国の王都が一望でき、街を囲む高い壁の外までも見渡すことができる。どこまでも続く砂漠に月明かりが照らされ幻想的な風景が広がっている。


「これじゃあエルカジールがこの国の王さま見たいだね~」


 この宮殿の最上階を我が物顔で使うエルカジールにエルフェリーンが多少の嫌味を込めて口にするが、そんな事を気にしてないのか笑顔で手にしていた白ワインを口にする。


「宮殿を立てるための費用は私が出したからね~それこそ私が建てた宮殿だよ。その証拠として政治には関与しないがこの国の一番高くて見晴らしのいい場所を私が使うことにしたのさ。どうだい、自慢の景色は」


「砂漠は暮らすには厳しいところですが美しい一面もあるのですね」


「確かに闇に浮かび上がる砂漠は美しいね……」


「だろ! 私は姉妹に恵まれ仕事にも恵まれた。エルフェリーンの助言を受け経営に関する弟子も作り始めたよ。今では少しずつ育つ姿を見るのが楽しみで毎日が輝いているんだ! 砂漠の上で走らせるのは無理みたいだけど専用のコースをレーシングカートが走る姿を早く見たいし、多くの者たちに見せたいよ!」


 砂漠と同様に月明かりを浴びキラキラと瞳を輝かせるエルカジール。その手伝いをしに来た二人も純粋なエルカジールの瞳を受けて微笑みを浮かべる。


「実はクロから砂漠で車を走らせる方法を色々と教えてもらったけど聞くかい?」


 純粋な瞳を向けるエルカジールへ嫌味のような事を言った罪悪感からか、クロが魔力創造した雑誌に載っていた記事を思い出し口を開くエルフェリーン。


「あるのかい!? レーシングカートでは砂にすぐ埋もれ、魔道回路に砂が入って動かなくなったけど、方法があるのかい!!」


 エルフェリーンに身を寄せ詰め寄るエルカジール。


「レーシングカートのタイヤでは無理だから溝を深くしてタイヤを改造しないとだね。それに乗っている人が熱でやられない様氷の魔石を使って車内を冷やす必要もあるね。それでも砂に生まれる可能性は高いから内部に砂が入らないような工夫をしないとだぜ~」


「なるほど……タイヤが砂に埋もれるのを防げば……乗っている人の事も考えないとか……」


「あの、レーシングカートではないですが、クロ先輩の雑誌に載っていたあの車とかさばくに適していると思いますよ」


「あの車?」


 エルフェリーンとエルカジールが揃って口にし首を傾げる。


「前に一緒に見た雑誌に載っていた鏡餅のような車です。車体を風で押し上げ、後方に付けたプロペラで進む変わった形をした車です。あれならタイヤを使わずに走ることができますから砂に埋もれる心配がないと思うのですが……」


「鏡餅……ああ、ホバークラフトだね! 風の力で車台を浮かべプロペラで進む乗り物……確かにアレなら海のような砂漠でも動かせるぜ~」


 二人の話にまだ首を傾げているエルカジールだったがエルフェリーンがアイテムボックスから雑誌を取り出し説明しながら見せると、テンションを上げて二人へ抱き付きお酒が零れるがそんな事お構いなしに感謝を口にする。


「ルビーもありがとう! 砂漠でも移動手段があればサマムーン王国はもっと栄えるし、餓死者も少なくて済むよ! 砂漠は移動するにも日数が掛かるからどうしても後手になりがちなんだ! このホバーなんちゃらがあれば民たちの暮らしも良い方へ変わるよ!」


「ホバークラフトだよ! ちょっと、そんなにきつく抱き付くな!」


「ふわわ、折角のウイスキーがっ! エルカジールさまの白ワインも零れています!」


 エルカジールに抱き付かれ酒をこぼしながらも抱き合う三人。


「ホバークラフトを作るには少なくとも風の魔石と軽量化を考え車体には……巨大ムカデの甲殻を使えば簡単に作れるかな? プロペラも前に家の空調として作ったから作るのは容易いぜ~」


「流通に使うのであればそれなりの大きさが必要になりますね。砂漠を走るのであれば氷の魔石を使い車内を冷やして、移動日数を考えれば寝られる場所も……」


 抱き締められながらも意見を交わす二人にエルカジールはその手を離して頭を下げる。


「どうかお願いする! 私の為ではなく砂漠の民の為に、その技術を知識を貸してくれ!」


 急にエルカジールが離れたことで二人はバランスを崩し倒れそうになるが、給仕をしていたラミアの女性が瞬時に魔化して長い蛇の尾を使い体を支える。


「もうっ! 急に離れるのも困るよ!」


「ふぅ……ありがとうございます……」


 エルフェリーンは頭を下げるエルカジールに文句を口にし、ルビーは支えてくれた女性へ感謝を口にする。が、支えていた女性もまた感謝の言葉を口にする。


「いえ、私の方こそ感謝いたします。妹を、メイリーリンを居場所を作っていただけた事を感謝いたします」


 二人はポカンと口を開き驚き、エルカジールはその顔を見て伝え忘れていた事を申し訳なく思いつつも肩を揺らすのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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