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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第三章 ダンジョン採取
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捕らわれた少女とルビーのこれから



「ここは……」


 目を覚まし部屋を見渡す少女はいつもと違う風景に頭が混乱するが、次第に思い出される悲劇に顔を青くし流れ出す涙。

 頬を伝う滴が自身を包んでいた毛布を濡らし始めると、それに気が付いた者が駆け寄り声を掛ける。


「よかった! 気が付いたのね!」


 優しく抱きしめてくる女性の聞き慣れた声と匂いと温かさに自身の母の名を呼ぶ。


「ええ、そうよ……貴女は助かったのよ……もう、本当に心配したのだからね……」


「ごめんなさい……」


 少女の謝罪の言葉に涙する母親はギュッと抱きしめる力を強める。


「助かったのは運が良かったからよ。本当に運が良かったわ……あの『草原の若葉』たちが貴女の救助に参加してくれたの。他にも名の売れた冒険者たちが手を貸してくれたそうよ。残念な事に亡くなった者もいるけど貴女は助かった……」


「はい……」


「後悔するのは構わないけど、確りと立ち上がりなさい。貴女を守るために命を落とした騎士に恥じない生涯を送らなければないらないわ。亡くなった騎士が無駄死にだと思わないような立派な生涯を送りなさい……」


「はい……」


 貴族令嬢によるダンジョン探索という名の遊びはこの娘からはじまり、お茶会で自身が止めを刺した魔物の魔石を自慢した事から話題性が高まり、その魔石を加工しアクセサリーにすると爆発的に広まることとなり、少女は話題の中心で母親の冒険譚を自慢げに語った。


 ダンジョンには常日頃から仕えている騎士と熟練の冒険者を雇い万全を期していた。が、この日はお茶会に参加する令嬢たちもダンジョンへと初めて参加し、着馴れない革鎧とレイピアを持ち冒険者登録を済ませた。


 それは突然の事だった。


 騎士のひとりに矢が刺さり悲鳴を上げる令嬢たち。冒険者はすぐに盾を構え矢が飛んできた方向へと意識を集中するが、既に囲まれていた事に気が付くと手にしていた武器を降ろし降参する。


 矢を構えられた状態では分が悪いのは当たり前であり、私たちにも武器を捨てるよう脅され手にしていた愛剣を手放すと腕に鎖を巻かれた。


 それからは酷いものだった……


 洞窟に捕えられた少女たちは金になると下卑た笑みを向けてくる盗賊たち。


「ダンジョン何かに来なければ良かった」


「貴方の自慢話のせいよ!」


「奴隷になるなんて……」


 仲間だと、パーティーだと思っていた貴族令嬢たちから罵声を浴びせられ……


 助かった騎士たちと会う事はできず、その者たちがどうなったかさえ知る事ができず時間だけが過ぎて行った。


 互いに罵倒し合いながらも疲れ切った令嬢たちはいつしか眠りに就き、少女もウトウトとし始めると一人の少女が手を振っている夢を見た。


 すぐに助けるからね。


 それは夢の中の出来事だったのか、口を動かし言葉が視界に入ったのだ。


 文字が宙に浮かぶ事に少女は一瞬驚くも夢の中なのだと理解し、それならこの状況自体が夢であれ、と思いながら意識を失う。





「お礼と謝罪がしたいわ……私を助けてくれた『草原の若葉』の皆さまや、関わった冒険者の皆さんに、迷惑をかけた令嬢たちに、命を落とした騎士……他の騎士や冒険者さまは助かったのですか?」


「ええ、他に犠牲者はいないわ。作戦の指揮を取った冒険者ギルドマスターはこの事を他に話す事を禁じると、国王陛下の署名入りの契約書を持ってきたわ。もしかしたらだけど、今回の誘拐事件は別の組織が動いているのかもしれないわね。貴族といえど敵に回してはならない者たち……

 それにダンジョンの中で農業をするという事をエルフェリーンさまが仰っていたのよ。冒険者だった私からしたら信じられないけど……」


「そうなのですか……」


「ええ、貴女は少し眠りなさい。それともお腹が空いたかしら?」


 顔を左右に振る少女は母に横たわらされ目を閉じるとすぐに眠気が襲ってきた。丸一日ほどだが監禁された事で精神的に休みを体が要求したのだろう。


 眠りについた少女を見つめる母は安堵の息を漏らし、眠る少女を見つめながら椅子に腰を降ろすと深く目を閉じるのだった。
















「ルビーはどうするのかな?」


 飲み会の翌日、目覚めたルビーは自身の身なりを整えながら自宅として暮らしている鍛冶屋からほど近い宿に宿泊し、お金が勿体無いなと思いながらも一緒に過ごす最後の日になるだろうと思い、少しだけ寂しい気分を晴らすように顔を洗っているところで声を掛けられた。


「え!? どうするとは?」


「ほら、エンチャントを教えて欲しいとか言っていただろ。あの件だよ~僕が忘れっぽいのは自覚しているけど、昨日の事なら覚えているぜ~」


 エルフェリーンが笑いながら話すとルビーは大きく目を開け、顔が濡れているのも忘れそのまま頭を下げる。


「お願いします! 私にできるかわかりませんが、教えて下さい! 今は下働きというか、それすらもできていない鍛冶士見習いですが、鍛冶の最終地点であるエンチェントが学べるのなら何だってします! 水汲みでも、薪割りでも、食事の準備でもしますので、どうか教えて下さい!」


「おいおい、まだ朝早いからね。そんなに大声を出したら迷惑だからね」


「はい! 失礼しました!」


 鍛冶職人である叔父に返事は大きな声でという教えを実践するルビーに、「参ったなぁ」と言いながらも嬉しそうに笑うエルフェリーン。久しぶりに鍛冶と向き合う事や、正式に仲間に加わるだろう新しい弟子のルビーの存在が嬉しくて仕方がないのだ。


「うんうん、少し声を押さえようね。そうなると、ルビーを預かると挨拶に行かないとかな」


 ベッドから立ち上がり服を着替えるエルフェリーン。ルビーはその事を考えていなかったらしくハッとしながらも、父親代わりに育ててくれた叔父に話す内容を考え始める。


「ふわぁ~よく寝たわ……ん? ルビーは顔と首をずぶ濡れにして、どうしたのかしら?」


≪ルビーは新しい弟子になるそうですよ。エンチェントを教わるそうです≫


 アイリーンは起きて話を耳にしていたらしく文字を浮かべると立ち上がり、ぶつぶつ呟くルビーの顔をタオルで拭きながら≪これから宜しく!≫と新たに文字を浮かせ、「はい! 宜しくお願いします!」と声高に叫ぶルビー。


「そうなの! やった! 私とも仲良くしてね!」


「もちろんです! 私はビスチェさんやアイリーンさんのように戦いが上手くありませんが、宜しくお願いします!」


「そんなの大丈夫よ! 私が鍛えて上げるからね」


≪私も協力する! 最強のドワーフにする!≫


「お、お手柔らかにお願いしますね……」


 二人に抱きつかれながらも苦笑いを浮かべるルビー。その光景を見ながら昔を思い出すエルフェリーン。


「うんうん、昔もこういった光景があったなぁ~新しい弟子に兄弟子たちがいろいろと教えて、いつの間にか単身でフォークボアやレッサードラゴンを狩ってきたっけ……」


 エルフェリーンの独り言に顔を青くするルビー。


「ドラゴンぐらいすぐに勝てる様にして見せるからね!」


≪私もドラゴンと戦ってみたい!≫


 やる気を見せるビスチェとアイリーンに、私はエンチャントと鍛冶だけで十分ですと言えないルビー。


 これはクロさんに、いえ、クロ先輩に頼って生活する方が……


 自身を弱者だと理解しているルビーは戦闘にほぼ加わっていないクロへ助けを求めようと心に誓いながらテンションの上がっている二人に抱きしめられ、「煩い!」と宿屋の女将さんに怒られるまで二人の修行プランを聞く事となるのだった。





 今年一年お疲れ様です。

 

 四章は少し間が空くかもしれませんが、読んで頂けたら嬉しいです。

 

 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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