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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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エルカジールとキョルシー



 巨大な蜥蜴が引く馬車に乗り案内されピラミッドの内部へと向かい辿り着いたのはひんやりとした空気が漂う地下。馬車を降りて足を進めると巨大な空間があり眼下にはレーシングカートのコースが広がっている。


「これは見事だね!」


 巨大な地下空間には四つのコースがあり、楕円のコースや、カーブが多いコースに、直線だけのコースなど様々である。


「基本となるのはあのコースですね。うちにあるコースとほぼ同じに見えます」


「うん、そうさ。色々なコースがある方が楽しいからね~それに見てくれ、あの直線のコースはスピードだけに特化したコースでどのマシンが早いかは一目瞭然だからね~あのコースを走らせてからオッズを決めるようにしているのさ」


「それだと速さしか分からないよ?」


「ふっふっふ、その通りだよ。でも、民衆はその速さを基準にするからね~テクニックが重要なのは当たり前だけど速さという分かりやすさも重要なのさ」


 未完成のコースを所々補装している作業員たちに気が付かれ頭を下げられるエルカジールは手を振りその会釈に応え、ルビーは深々と頭を下げる。


「それでレーシングカートを砂漠で走らせ壊したのは何でかな?」


「うっ!? そ、それは……砂が入らないようにギアを皮袋で覆ったり、タイヤまわりも砂が入らないようにしたり色々としたんだよ。でも、深い砂にタイヤが嵌ってね……こちらでもカートの量産をしたけど魔力付与が上手くいかないのか中々進展がなくて……お願い! 私を助けると思って力を貸してくれ! 

 この事業が成功すれば民たちがどれだけ喜ぶか! 私がレーシングカートの生産を舐めていたかもしれないが、情熱だけは本当だ! 私が出来うる限りの報酬は用意するし、サンドワームや大砂蛇の魔石も用意している! どうか手を貸してくれ!」


 大声で説明し頭を下げるエルカジールの姿に下で作業する者たちは手を止め見つめ、エルフェリーンも困った顔をしながらも「そうだね。手を貸すよ」と口にすると、頭を下げていたエルカジールが抱き付き交渉が上手く行ったのだと作業員たちが歓声を上げる。


「微力ですが私も頑張ります!」


「ううう、私は良い妹を持ったよ!」


「あははは、僕がお姉さんなのは譲らないぜ~ルビーも謙遜しないで魔力付与のやり方を教えてやってくれ! 僕の弟子は凄いんだからね~」


 薄っすらと涙しながらエルフェリーンに抱き付いていたエルカジールはルビーに視線を向け、ルビーは「まだ自信がありませんが任せて下さい」と口にし、今度はルビーに抱き付く。


「感謝だよ! 本当に感謝するよ~もし居心地が良かったらルビーの為に豪邸を用意するからね!」


「そ、それは遠慮します……私が帰る家はありますので……」


「僕の許可なく引き抜きの話をするのはどうかと思うぜ~ルビーにはまだまだ教えたい事は多くあるからね~」


 ちゃっかり引き抜きの話をするエルカジールの脇をツンツンと突くエルフェリーン。脇を突かれ笑いながらルビーから離れたエルカジールは遅れて現れた御供たちに二人を紹介するのであった。






 フィロフィロを預けたシャロンたちは城へと足を進め多くの兵士やメイドたちが整列する廊下を進み辿り着いた皇族専用のサロンのソファーに腰を下ろす。


「久しぶりに帰ったけど不思議と落ち着かないわね……」


 キュアーゼの言葉にメルフェルンが微笑み、シャロンも同じ気持ちなのか無言で頷く。


「あちらよりも温かいのもありますが、炬燵が恋しくなりますね」


「コタツですか?」


 シャロンの言葉に出てきた炬燵という単語に首を傾げるキョルシー。


「炬燵はね畳という床の上に設置する温かな毛布を掛けたテーブルかな。足が下ろせて中に炬燵石という熱を発する石を入れて暖が取れるんだ。暖炉もあって室内は温かいけど下半身を温めてくれる炬燵は入っていると不思議とリラックスができるんだよ」


「私もコタツしたいです……」


「それなら冬のうちにエルフェリーンさまにお願いして一度行ってみるもの良いかもしれないわね。そうだ! キョルシーにお土産があるの!」


 そう口にしたキュアーゼがアイテムバッグから白い箱を取り出すと目を輝かせソファーから立ち上がる。


「キョルシーが喜ぶだろうとクロがチョコのケーキを持たせてくれたわ。もちろん姉さんも食べるわよね?」


「ああ、頂こう。前は多くのフルーツを使ったケーキや濃厚なチーズのケーキを口にしたが……おお、見た目も美しいな」


 メルフェルンが開封したチョコケーキにナイフを入れ取り分け、キラキラした瞳を向けるキョルシーがフォークを手に口に運ぶ。


「うんんんん!! 美味しいです! チョコです! すごくチョコです! フワフワなチョコです!」


 チョコケーキの味にテンションを上げ上半身を上下させるキョルシー。


「濃厚なチョコの味とほろ苦さに口に広がる香りは最高だな。定期的に購入できたらいいが、転移魔法でもないと無理だろうな……」


「あっちでは他にもチョコレートパフェやチョコバナナにチョコモナカというチョコを使った料理を食べたわ。どれも美味しくてチョコだけの為にクロを誘惑して連れてきたいと思えるほどね」


「ちょっ!? 姉さま!」


 キュアーゼの言葉にあからさまに動揺するシャロン。その慌てふためくさまを見て肩を揺らすサキュバニア帝国現役皇帝のキャスリーンとキョルシー。


「ああ、それとクロがメイドたちにもお土産といって多くのケーキを持たせてくれたわ。メイド長が責任をもって分けてちょうだいね」


 エルフェリーンから貸し与えられているアイテムバックから大量のホールケーキを取り出すと目を輝かせるメイド長。メイドたちも色めき立ち、箱を開け中身を確認するメイド長を中心にわらわらと集まり見たことのないケーキを前に食べる前から表情を蕩けさせている。


「畏まりました。今休憩の者はメイドの控室へ集まるよう指示を出しなさい」


 メイド長がきびきびと指示を出しメイドたちが一斉に動きいつもよりも速足でサロンを退出する。残ったメイドは恨めしそうな瞳をメイド長の後ろ姿へ向け、その様子に肩を揺らすシャロンたち。


「クロさんからは他にもキョルが喜ぶだろうと、ぬいぐるみやお菓子が作れるようにレシピや食材も受け取っているからね」


「本当ですか!?」


「ほら、ウサギのぬいぐるみとクマのぬいぐるみよ」


 アイテムバックから取り出した某有名なウサギのぬいぐるみと黄色いシャツを着た半裸のクマのぬいぐるみを受け取りキャッキャと喜ぶキョルシー。


「クロにお礼を言うためにもエルフェリーンさまのお家に行きたいです!」


 二つのぬいぐるみを抱き締めながら宣言する姿にシャロンは頷きキュアーゼも微笑みを浮かべる。


「うむ、私もこれほどのケーキのお礼をせねば皇帝としての威厳が、」


「それは問題ないわよ。それよりもまだ即位して一年もたってないのに皇帝が出掛ける方が問題だわ。皇帝の椅子から逃げ出したとでも噂になったら母さんから何を言われるか……」


 キョルシーと一緒に向かう気でいた現役皇帝のキャスリーンはキュアーゼからのジト目に表情を曇らせる。


「私が確りクロにお礼をします!」


 むふぅ~と鼻から息を吐き宣言する姿に、居残りが決定するキャスリーンなのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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