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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
最終章 (仮)
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初めての料理とレッドナマズ



 翌朝、朝食の準備をしながら暖炉でお湯を沸かすクロ。このお湯は湯たんぽに入れ炬燵を温めるのに使い、他にも炬燵石と呼ばれる熱を保温し一定の温度で放出する石も暖炉の前で温める。


「米は昨日のうちに炊いてあるからお味噌汁と漬物に……そういや連炎さんから大きなナマズを貰ったっけ……」


 顎に手をあて昨晩連炎から受け取った巨大なナマズをアイテムボックスで確認する。リストにはレッドナマズと書かれ詳細な大きさや簡単な生態と毒の有無などが掛かれており、古龍の婚礼の品として有名な旨味の強いナマズと書かれている。

 連炎は正式に白亜の番いとなるべく白夜へ挨拶に向かう途中でこの地に寄り、エルフェリーンとも挨拶を交わす予定であった。しかし、サフランの威嚇行動に反応したメリリのダンベルの一撃に倒れ、連炎が動きバトルへと発展したのである。


「みんな無事で良かったが、このナマズを料理してもいいのかね……」


「構わんぞ」


 後ろから掛けられた声に振り向くと寝起きなのか目を擦る連炎の姿があり、クロは朝の挨拶をしてお茶の用意をしながら湧いたお湯を湯呑と湯たんぽへ入れる。


「熱いので気をつけて下さい」


「ああ、礼を言う……それは何をしているのだ?」


 お湯を入れた湯たんぽにタオルを巻くクロの姿に連炎が尋ねる。


「これは湯たんぽといって本来は寝る時に布団を温めるものですが、こうやって炬燵に入れて使っていますね。すぐに温まると思うので炬燵にどうぞ」


「おお、昨日も思ったがこれは良いものだな。温かく下に空間があって足が楽で過ごしやすいぞ」


「気に入っていただけたのなら良かったです。あの、ナマズは料理しても本当に良いのですか?」


 婚礼際に必要になるナマズと知りクロが確認をすると連炎は微笑みを浮かべ男らしく見えていた表情が柔らかくなり女性らしく見え、某劇団の男役のように整った顔立ちの美女へと変貌する姿に驚く。


「ああ、先ほども言ったが構わないぞ。レッドナマズは国で養殖しているからな。一番大きく脂の乗ったものを持って来た。クロなら美味しく料理してくれるのだろう?」


「ナマズなら蒲焼きやカラアゲに鍋でも美味しく食べられますね。旨味が強いと書いてあったので鍋と蒲焼きにしましょうか」


「カバヤキは聞いたことがないが、鍋はスープの事だな。我が国でもスープや串焼きにして食しているぞ」


 そう話し湯気を上げる緑茶を手にしてふぅふぅと冷ます連炎。あれほど火力を上げるブレスを吐いていた古龍種が湯気を上げる緑茶を冷ます姿にクロが笑いそうになるのを堪え、それに気が付いた連炎が冷ましていた口を開く。


「ん? 何かおかしなことがあったか?」


「いえ、すみません。凄いブレスを吐いていたのに冷ますのに必死に見えて」


「そ、それは仕方がないだろう。俺様だって人型をしていれば口の中を火傷するし、熱い飲み物は苦手なのだ」


 頬を赤くして話す連炎に可愛い所もあるのだなと思ったクロは怒る前にその場を後にして料理に取り掛かる。


「アイリーンか七味が起きていれば解体を頼むが……ん? レッドナマズ……レッドは英語でナマズは日本語……良くわからんな……」


 アイテムボックスのリストを前にレッドナマズという英語と日本語混じりの名前に首を捻っていると階段を降りる足音が聞こえ視線を向ける。


「連炎さん早いですね~」


「おお、アイリーンか。人型で寝ることは少ないのでな。目が覚めてしまったよ」


「普段はドラゴンサイズで寝ているのですね~大きなベッドが必要そうですね~」


「あははは、俺様はベッドではなく火山の横穴で寝ているよ。あの場所は我ら以外に入ることを禁じているから安全だからな」


 連炎の横に腰を下ろしたアイリーンは炬燵に足を入れ会話を楽しみ、クロはお茶を用意して二人のもとへと向かう。


「朝から悪いがナマズの解体を頼めるか?」


 お茶を置きながらレッドナマズの解体を頼むクロ。


「ああ、昨日頂いた大きな赤いナマズですね~それなら任せて下さい。解体は私の特技ですからね~」


「アイリーンは解体もできるのか。俺様は狩るのは得意でも解体などの繊細な作業は苦手でやった事はないが……近くで見せてもらっても構わないか?」


「それなら一緒に解体しますか? どうせなら覚えて帰れば故郷でも自分で狩って捌いて食べられますよ」


「それは良いな。俺様が料理を作ってやれば家臣たちが目を丸くして驚くだろう。クロよ、料理を習っても構わないか?」


「ええ、一緒に作りましょう」


 クロの言葉に炬燵から立ち上がりアイリーンに手を引かれ家の裏にある解体場へと向かい、クロはレッドナマズを届けに慌てて後を追うのであった。





「アイリーンがいれば二日酔いも怖くないわ! クロと一緒にペプチの森に来ないかしら?」


 炬燵の上にはレッドナマズを使ったひつまぶしに、根菜とナマズを使った味噌味の鍋と浅漬けにほうれん草のお浸しが並び、二日酔いで起きてきたキュロットとナナイにエクスヒールを掛けたアイリーンが苦笑いを浮かべている。


「ちらし寿司のようだがナマズを使い、うな重のような味付けにするのだな……あむあむあ……こりゃ美味い! 朝から酒が飲みたくなる味だのう!」


「うむ、前に食べたうな重に引きを取らぬ味なのじゃ」


「ん……これは危険……朝から食べ過ぎる……」


「うまっ!? 師匠! これヤバイよ! 身がフワフワのトロトロで、臭みもない!」


「皆さん美味しいのは分かりますが、ひつまぶしは三段階で食べるのをお勧めしますよ~最初は普通に食べて、次は薬味と一緒に、最後に出汁を掛けてお茶漬けにして食べればひつまぶしマスターです!」


 白米を初めて食べるだろう連炎たちに気を使い味の付いたひつまぶしを選び料理したクロ。レッドナマズは巨大で現地では人を丸呑みにする危険な魔物なのだがその養殖に成功しており、巨大になるまで育て神と崇められる炎帝の古龍たち自身で養殖池から捕獲している。ある種の成人の儀として用意られ、本日料理されたレッドナマズは7メートルを超えるサイズでアイリーンが苦戦しながら解体したものである。


「クロよ、皆が喜んでいるぞ! 俺様が料理したものをあのように喜び食すのは嬉しいものだな!」


 料理も連炎が手伝い串を差しタレを付け煙に涙しながらナマズのかば焼きを完成させたのである。初めて作る料理を出し不安気な表情を浮かべていたが、皆からの言葉を受け喜ぶ姿に自身もテンションを上げクロを揺すりながら喜びを表現する連炎。


「はいはい、分かったら連炎さんも食べて下さい。焼き上がりの味見はしましたが完成も食べて下さいね」


「おう、俺様も頂くとするか。あむあむ………………こ、これほどの味だったか……醤油と砂糖を使うだけで香ばしく蕩けるレッドナマズ……米という穀物に良く絡み最高の味へと昇華するのだな……実に美味いぞ!」


「ううう、連炎さまが料理を作り私のような家臣にまでご馳走して頂けるとは……」


「それに美味しいです! クロさまが九割手伝ったとしても連炎さまが料理をして美味しいとは驚きです!」


 サフランは涙を浮かべ、クーペは目を丸めて驚きながらもひつまぶしを口に入れる。


「クロ! この料理は我が国に広めても良いだろうか?」


 目を輝かせテンション高く声を上げる連炎に深く頷くクロであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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