ホカホカ連炎と悪鬼と剛腕
「素晴らしい風呂であったぞ!」
「でしょ~私が設計から頑張りましたからね~連炎さんが気に入ってくれて良かったです~」
ホカホカと湯気を上げながら出てきた連炎とアイリーン。飲み会の場では絶望していたアイリーンだったがクロたちの料理とお酒に連炎たちとの会話にテンションを取り戻し、持ち前の腐った考えを広めるべくサフランとクーペを仲間に迎え、更には連炎ら古龍種の恋愛などを学び更なる発酵をして現在に至っている。
「俺様としては人族の恋愛観というものの違いを知れたのは勉強になったぞ」
「私もです! 古龍種すべてが同性愛で子供が作れるという真実を知る事ができたのは大きいですね~逆もあって良いと思いますが、そこはおいて置いたとしても素晴らしいと思います!」
日が完全に落ちたリビングに現れる二人。ビスチェやキャロットに白亜とラライは既に自分たちの部屋へ向かい眠り、ドランやグワラにロザリアとキュロットにナナイが晩酌を続けている。小雪やオモチたちは暖炉の前で固まり、七味たちはクロと料理をしながら炬燵に集まる者たちへ簡単なおつまみや朝食の下準備をしていた。
「連炎さま、御髪を乾かさねば風邪を引きます」
「ささ、こちらへお座り下さい」
「俺様の心配などいらん。そもそも古龍種は病気になることはない」
リビングに設置された炬燵から手招きする家臣からの言葉にツンとした態度を取り、それを見たアイリーンは脳内でもし男性がその態度を取ったらという新たな妄想を膨らませる逞しさを発揮しニヤニヤと見つめる。
「連炎さま、家臣の気持ちを汲むのも上の務めですぞ」
「我もその気持ちは理解できるのじゃ。我の髪を好き勝手に……懐かしいのじゃ……」
ドランのフォローに連炎は渋々といった顔で床と炬燵との断座部分に腰かけ、ロザリアは昔を懐かしみながら少し冷めた熱燗を口にする。
「連炎さまの髪は赤く美しいです。白夜さまは白く美しかったですが、赤い髪も美しくみえますね」
「うふふ、私が貸したパジャマも良くお似合いですねぇ。先ほどよりも表情が柔らかく見えますよ~」
以前にクロが魔力創造で創り出したパジャマを着た連炎はアイリーンとお揃いで、雑誌を見て小さな猫で埋め尽くされているそれを欲しいと強請った物である。パジャマを着た連炎は柄の小さな猫が気に入り着心地の良さもあってか表情を緩めていた。
「手早くな……」
少しだけムッとした表情になっていたが小さな猫たちの柄を視線に入れすぐに柔らかな表情へと戻り、タオルを使い水気を拭き取るサフラン。クーペは新たに酒を用意して連炎の横に置くとそれを手に喉を潤す。
「このビールという酒は素晴らしいぞ。ああ、ドラン殿が作った酒も香り高くスッキリとした味わいだったが、これは泡が心地よく喉を刺激する感じが堪らないのだ。もし可能であれば買って帰りたいものだな」
「それなら後で用意しますね。ビールは美味しいかもしれませんが湯冷めしないようにして下さい」
そう口にしながら七味たちと協力して作った料理を炬燵の上に置くクロ。湯気を上げるそれにグワラとメリリが動く。
「うふふ、温かい炬燵とお鍋は最強の組み合わせですねぇ」
「焼き鳥も美味しかったのですが、やはり鳥は鍋料理にした時に真価を発揮します!」
グワラが鳥ベースの鍋を取り分けドランやロザリアがハフハフしながら口にして表情を溶かし、髪を拭き終えた連炎とアイリーンに家臣の二人が炬燵に入りそれを口に入れる。
「クロが作る料理にはハズレがないな。毎日これが食べられるとはアイリーンが羨ましく思うぞ」
「ハフハフ……クロ先輩の料理はどれも美味しいですからね~私もそれなりに作れますが鍋料理とかは作ったことがないです。スープにも鳥の味が出ていて美味しいですね」
「日本酒とも良く合う鍋は寒ければ寒いほど美味いのう」
「うふふ、ハフハフと白い息を漏らしながら食べるのは身も心も温まりますねぇ」
「風呂上りにはちと熱いがな。ハフハフ……」
「それならいつでもお風呂に入って下さいね~製作者の私が許可しますからね~」
その言葉に笑いが漏れゆっくりとした時間が流れるリビング。ひとつの鍋を囲み好きな酒を飲みながら他愛ない話を続けていると次第に瞼が落ち寝息を立てるアイリーン。
「珍しくアイリーンが寝落ちしましたね」
炬燵の角に額を付け器用に眠る姿に片づけをしていたクロが手を止め近くにあった上着を肩に掛ける。
「アイリーンは俺様の為に色々と気をまわしてくれていたからな。疲れたのだろう」
「サフランさんとクーペさんも寝ちゃいましたね。ここまでは長旅だったのでしょう?」
「ああ、五日ほどの旅であった。空の旅は見晴らしが良く気持ちが良いがこの時期になると体が冷える。二人には無理をさせたのだな……」
普段よりも優しい瞳を向ける連炎。
「魔化していてもこの時期は寒いからのう……ワシもそろそろ寝るとするか」
「うむ、我も部屋に戻るのじゃ。今日は色々あったが楽しかったのじゃ」
ドランが専用にしている客間へ向かい、ロザリアも片手を振りながら階段へ向かう。メリリは炬燵から顔だけ出して寝ており、聖女タトーラは用意していた客間の暖炉に火を入れクロの下へと辿り着くと「お任せ下さい」と気合を入れ眠るサフランの頭にあるツノを持ち肩に担ぎ上げる。
「も、もう少し優しく運んであげて……」
クロの言葉に笑顔で「はい」と返事をしながらも足を進める聖女タトーラ。
「こっちは私が運ぶから美味しいチーズを用意してね」
「私も手伝おう」
キュロットがクーペの頭を持ちそのまま立ち上がり歩き出す姿に、まともな女性はこの家にいないのかと思っているとナナイがアイリーンを優しくお姫様抱っこする姿に小さな感動を受けるクロ。現役バリバリの母親という事もあるのだろう。
慎重に階段を進むナナイを見送りクロはコクリコクリと舟を漕ぎ始めた連炎の対応に困り、ない尻尾を振り戻って来た聖女タトーラは先ほどと同じように連炎を持ち上げると小走りで用意している客間へ向かい、ドアに軽くぶつけながらも運び終え戻る。
「ここからは大人の部ね!」
炬燵に入り白ワインを開けるキュロット。聖女タトーラはお風呂へと向かい、二階から戻ったナナイも炬燵に足を入れ飲みかけの日本酒を口にする。
「燻製したチーズです。今オーブンにも入れてあるのでもう一品来ますからね」
「悪いね。あむあむ……これもこの酒に良く合うよ」
「チーズなら白ワインの方が合うわ。で、次はどんな料理が来るのかしら?」
目を輝かせるキュロットにクロは「楽しみにして下さい」と口にしてキッチンへと戻り明日の朝食の用意へ向かう。七味たちは既に天井へと帰還し、フランとクランが眠たげな表情で竈の前で炊きあがりを待っている。
「二人も無理しないで寝ていいからな。お風呂もまた温かいだろうし入ってから寝た方がサッパリするぞ」
「そうします」
「ん……眠い……」
「眠いじゃないだろ。ほら、行くよ」
フランに引きずられクランもお風呂へと向かい、クロは竈に向かい沸騰し泡を漏らす羽釜の様子を確認しながらオーブンに入れた料理の完成を待つ。
「米はこれでいいな」
炊きあがった米を蒸らすべく羽釜から下ろしてキッチンテーブルへ移動させ、オーブンを確認すると香ばしい匂いと表面が焦げた様子に一人頷き、取り出してリビングへと向かう。
「この時間にアレですがどうぞ」
湯気を上げる好きレットの上には香ばしく焦げたカマンベールチーズがあり、中には玉ねぎやマッシュルームにウインナーがカットされグツグツと熱気を出しており、それを見て二人は取り合うようにして口に入れ火傷しながらも『悪鬼と剛腕』という冒険者だった頃を思い出に耽るのであった。
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