クロらしい行動
蔦に覆われ横たわる連炎の腰辺りではクロが―テーブルをアイテムボックスから取り出し、イノシシ肉やクジラ肉の塊を置くと七味たちが一斉に糸を使い一口サイズに切り分ける。メリリが塩コショウを振りドランが鼻歌交じりに串に刺し、クロは醤油を鍋に入れ砂糖とみりんに日本酒を入れてタレを作っているとわらわらと集まる乙女たち。
「相手を拘束したのは見て分かるけど……何をしているのかしら?」
呆れ顔で口にするビスチェ。フランとクランは何事もなかったかのように串を持ち肉を差す作業を手伝いに参加し、アイリーンは七味たちの下へ向かい褒めながらもその拘束されている巨体を改めて見つめ大きさに驚いている。
「七味たちは勇敢な戦士ですね~私は少し足が震えちゃいましたよ~」
「ギギギギギ」
褒められた七味たちは嬉しそうにお尻を振りながら肉のカットを進める。
「バランスを崩したのは我の影魔法とクロの女神の小部屋なのじゃ。上手く踵を落として後ろに倒し、この蔦で拘束したのじゃぞ」
「チームワークもばっちりでしたね~巨体がゆえに足元を崩されると転びやすいのでしょうね~それにクロ先輩の使う精霊王の蔦は卑怯なほど頑丈で、無数に湧き出る蔦のしつこさは私も前に体験しましたが逃げ切れる気がしません。あの蔓有りで戦闘すればエルフェリーンさまにも勝てるかもしれませんね~」
「うむ、我も勝てる気がせんのじゃ」
「クロさまのお力をもってすれば古龍種だろうが敵ではないという事です!」
アイリーンとロザリアの会話に参加した聖女タトーラはドヤ顔で言い放ち、ヴァルは空から蔦に包まれる連炎の様子を窺っている。
「古龍から出る炎がもったいないから料理に使うって……はぁ……呆れればいいのか、クロらしいと思えばいいのか……」
「あら、私は合理的で素晴らしいと思うわね。冒険者時代に似たような事を思いついてマグマ肉を焼いた事もあるわよ!」
「焼き上がる寸前に肉を刺した棒が燃えてマグマに肉を落としたがな……」
クロからの説明を聞き呆れるビスチェ。キュロットは賛同しながら昔の話を持ち出しナナイがオチを付ける。
「そろそろ焼くか」
多くの肉串が完成したこともありクロは精霊王の蔦を操り少し隙間を開けると炎が噴き出し慌てて離れ「これだと距離感が難しいな」と口にし元に戻し、足を進めながら近づきその熱を体感しながら場所を決めてシールドを展開し大地に肉を差す。距離としては蔦からニ十センチ程の場所に串を差している。
シールドを解除すると肉に熱風が当たりゆっくりと火が入り満足げに頷くクロ。七味たちが後ろに付き皿に乗せた肉串を持ち「ギギギ」と伝え、振り返ったクロは量産すべく蔦と平行に肉串を差して行く。
「うふふ、なんだか不思議な光景ですねぇ」
「燃える古龍を蔦で巻き、そこから溢れる熱気で肉を焼いているのだから不思議な光景というよりも、奇妙な光景だわ……」
「ガハハハハ、古龍といえどクロの前ではキッチン用品! ワシの持って来た酒を開けて宴会をしようではないか!」
後ろから聞こえる声を耳に入れながらシールドを使い熱気を遮断しながら肉を裏返すクロ。様子を見ながら焼けた肉に先ほど作ったタレを煮詰め刷毛で塗ると醤油の香りが一気に広がりお腹の音が後ろから聞こえ振り返ると顔を赤くしてお腹を押さえるビスチェの姿があり、更に後ろにいる赤毛のドラゴニュートの女性たちも同じように顔を赤くしお腹を押さえている。
「サフランさんとクーペさんもお腹が空きましたか?」
いつの間にか仲良くなっていたアイリーンに感心しながらも香ばしく焼けた肉串を皿に乗せ一美に任せ、串焼きを量産するクロ。肉以外にも焼きトウモロコシやキノコに玉ねぎの輪切りなどが串に刺されクロの下に運ばれ、フランとクランが作ったのだろうそれらも大地に差して火を入れる。
「はふはふ、これは美味いのう。適度に脂がのっている肉に甘辛いタレが良く合うのう。妻にも食べさせてやりたいのう」
「ん……タレの味が最高……」
「クロ師匠は敢えて焦がして香ばしさをプラスしている……勉強になります」
「うふふ、こちらは塩味ですよ~」
メリリも焼き上がった塩味の肉串を運び上機嫌で配り歩き、鼻をスンスンさせゆっくりとこちらへ足を進めるオモチたち。古龍の怖さを本能で感じ避難していたが食欲が勝ったのか尻尾を振りながらアイリーンの下へと向かう。
「オモチたちにもお肉を焼いてもらいましょうね~トングと鉄板を使えば私にも焼けますかね?」
「クロぐらいシールドが使えれば火傷せずにお肉を焼けるかもしれないわよ」
「クロ先輩に任せた方が良さそうですね~クロせんぱ~い!」
オモチたちのお肉を頼もうと大声で走り出すアイリーン。その後を嬉しそうに追うオモチたち。完全にBBQ気分がこの場を支配し、火力を強めながら精霊王の蔦に抵抗する連炎は悔しさを痛感していた。
精霊王の蔦は多少焼けるも再生能力が凄まじくまわりの皮が焼け落ちてもすぐに新たな皮が再生し、熱で干乾びる様子を見せる蔦も吸い上げた水分を行き渡らせ再生する。ギリギリ開く口により呼吸はできるが尻尾の先すら動かせない状況を打破しようと火力を上げるが緩むことはない。更に絶望的な事に自身の魔力量が既に八割を切り心が折れそうになり降参を口にしようか迷っていると、可愛らしい声が耳に入り神経を研ぎ澄まして張力に力を入れる。
「キュウキュウ~」
「ずるい! 私も食べたい!」
「白亜さまもお腹が空いているのだ! 肉を食べたいのだ!」
屋敷の中へ避難していた白亜とラライにキャロットが匂いに釣られ全力疾走で参加を希望し、焼きたての肉串を手に口にする。
「飲み物もあった方が良いよな。誰かこれを頼む」
アイテムボックスから冷えたジュースなどを木箱に入れ魔力創造した氷も入れて叫ぶと七美が前に出て両手で受け取り掲げながら走る。その姿に蜘蛛のウエイトレスも有りだなとひとり思案しながら手を動かすクロ。
「鉄板に上に油を引いてステーキ用の肉を乗せて置くだけでいい感じに焼けそうだな」
新たに串焼きではなくオモチたち用にステーキを焼き、小雪が感謝しているのかクロの横に座り頬を肩に寄せグリグリと擦り付けバランスを崩しそうになりアイリーンがフォローする。
「嬉しくても料理中はダメですよ~ほら、美味しそうな音がしてきましたよ」
ルビーが前に特注で作った大きな鉄板の上で湯気を上げジュージューと音を立てるそれに尻尾を左右に揺らす小雪とオモチたち。自然とリンクする尻尾に串焼きと酒を口にする大人たちは喜び、ラライや白亜は一緒になって首を横に動かす。
「この味付けは斬新です! 是非国に持ち帰って広めたいです!」
「猪の肉はわかりますが、こちらのクジラ肉……連炎さま方でも年に一度食べられるかどうかの貴重な物だったはずですが……」
「それは島クジラという馬鹿みたいに大きなクジラの肉よ。前にバブリーンたちから送られたものね」
「島クジラ……あの化け物を討伐できる存在がいるとは……」
「海竜が複数で戦ったのだから勝てるわよ。それよりこれも食べなさい。黄色いツブツブに齧りついて驚くと良いわ!」
アイリーンがクロの下に向かいビスチェがサフランとクーペに焼きトウモロコシを勧める。
「この酒も醤油味と相性が良い。ワシが作った酒だが味を見てくれ」
ドランの言葉に焼きトウモロコシを手にしながら頭を下げて日本酒を入れたカップを受け取る二人。最初こそ敵対していたがメリリのダンベルによる一撃で心が既に折れたのかすんなりと受け入れている。
「ほら、焼けたぞ。まだ熱いから冷ましてから食べろな。次も焼くからよく噛んで食べろよ」
「わふっ!」
アイリーンも手伝い焼けたステーキ肉を皿に移動させ喜ぶオモチたち。小雪も尻尾が千切れんばかりに振り喜びを表す。
「この火力なら少し多めに焼いてオモチたちの夕食用をアイテムボックスにストックして置いてもいいかな」
何気なく口にしたクロの言葉とは裏腹に、火力が衰えはじめ蔦の間から見えていたオレンジの輝きが失われるのであった。
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