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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第三章 ダンジョン採取
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宴の時間です



「カンパーイ!」


 エルフェリーンの声に合わせジョッキを掲げる冒険者たち。


 王都で酒を飲むのなら炎龍の竈亭。そう口にする者は多く、特に冒険者ギルドの真正面にある立地と広い店内に美味しい料理と、昔は美人だったと思わせてくれる女将さんの存在が酒呑たちを集めている。


 ランプで照らされた店内の一角には『草原の若葉』に『豊穣のスプーン』と『ザ・パワー』に『銀月の縦笛』と『熱い鉄』に『疾走する尻尾』が集まり酒を掲げ冒険の無事を祝う。


「私が参加してもいいのでしょうか?」


 そんなルビーの言葉にビスチェが白ワインをカップに注ぎ入れ、クロがテーブルに並ぶ料理を取り分ける。


「一緒に温泉に入った仲じゃない!」


「採取も手伝ってもらったしな。あの時はきつい言い回しをして悪かったな」


「いえいえいえいえ、あの時は私が悪かったです! 寧ろ感謝しか……ありがとうございます」


 両手を振りながらクロの謝罪を否定してビスチェの入れた白ワインを口にする。


「ルビーもビスチェも頑張ったらしいじゃないか。色々と噂が流れているぞ」


「貴族を襲って誘拐したとか、違法薬物を摘発したとか、ヒカリゴケは採取できましたか?」


「冒険者ギルドが七階層に調査に行く奴らを募集していたね。しかも、依頼主は冒険者ギルドマスターと王家からだよ。Bランクの冒険者どもが学者と騎士を連れて行くらしいが何があったのだか」


『疾走する尻尾』たちから話を振られ苦笑いするクロ。基本的には依頼内容を漏らさないのが常識であり、これを漏らすようでは冒険者としての信頼を失う事になる。


「それよりもだ! あの美味い酒のお礼をさせてくれ!」


「あの強く香りのよい酒は美味かった! 強いだけの酒も美味いがウイスキーは特別に美味かったぞ!」


『熱い鉄』の二人がクロの前に小さな布の袋を置くと口を開く。


「これはドワーフの魂と言える研磨剤の材料だ」


「モアサナイトと呼ばれる鉱石だ。これでナイフを磨けば贅沢な光沢が出るぞ」


 ドワーフの二人が差し出したそれを開ける事なくアイテムボックスに手を入れ、ウイスキーを魔力創造すると『熱い鉄』の一人に手渡すクロ。


「魂なんていらん! それよりも美味い酒を飲んで再開を喜ぶ方が俺としては嬉しい! ほら、飲んでくれ。研磨剤は家に帰ればあるし、師匠がいつでも作ってくれる。無くなったら俺が作ってみたいし、これはいらん!」


 ウイスキーを渡されたドワーフは困惑しながらも、小さな袋をポケットに収め口を開く。


「俺には鉄を打つか、戦う事しかできん! 何かあれば頼ってくれよ!」


「俺もだ! 俺たちはいつか聖剣を超える武器を作って見せる! お前の武器がナイフなら最高のナイフを打ち送ってみせよう!」


「それなら受け取るよ。ほれ、もう一本」


 ウイスキーを渡すと二人はお礼をいって席に戻り、新たにやってきたエルフェリーンが笑顔で両手を出し、その後ろにはラルフとロザリアの姿があり、一人一本飲む気かよと思いながらもアイテムボックスに手を入れ魔力創造で作り出したウイスキーの瓶を手渡す。


「やっぱりこれが一番だよ~」


「強い酒も興味があるが、まずはこれだな」


「うむうむ、感謝するぞ。我もクロに何かお礼でもしてやりたいが……う~ん……おおお、そうだ! クロ、耳を貸せ」


 ロザリアの言葉に顔を向けるとニコリと笑い頬に唇を押し当て、慌てて椅子から転げ落ちるクロ。


「うむうむ、それだけ喜んでくれたならお礼になったろう。我も感謝して飲むのじゃ~」


 ウイスキーの瓶を掲げながら席に戻るロザリアが去ると、視界に映る眉を逆立てるビスチェと、頬を染めながら両手で口を塞ぐアイリーンに、口をポッカリ開けるルビー。

 リュックに入っていた白亜はタイミングよく逃げ出したらしく、床に倒れたクロが座っていた椅子に着地するとエルフェリーンに向け口を開く。


「白亜もこのお肉を食べるかい? ほらほら柔らかくて美味しいからね~僕はここの店の立ち上げから常連だからね。伝統の味を守っていて色々と思い出すよ。ほら、あ~ん」


「キュウキュウ~」


 大きな鳥の丸焼きから切り分けたものを更に小さくカットし口に入れると嬉しそうに声を上げ咀嚼する白亜。その光景に店の従業員の女性が「かわいい~」と声を上げ注目を集めると、近くにいる女性の冒険者や酒を飲みに来た女性たちが白亜に餌付けできると思い自分たちが注文した料理の皿を持ち集まり始める。


「キュウキュウ!」


 急に現れた女性たちに囲まれた白亜は驚きの声を上げ、倒れていたクロへと視線を向けると、ビスチェに「なに鼻の下を伸ばしてキスされてるのよ~~~~」と首を絞める姿に更に驚きワタワタとしているとアイリーンが抱き上げ頭を優しく撫で落ち着かせる。


≪クロさんは折檻中ですからね~この野菜を煮込んだ料理も美味しいですよ~≫


 自身の席に腰を降ろしたアイリーンがモツ煮込みのような料理をスプーンに乗せ白亜の口元へと送るとパクリと口にし、その光景に集まっていた女性たちが「かわいい~」の声を上げる。


「ここの煮込み料理はあの頃のままだね」


「臭みがなく食べ易いですし、酒と合うのがいいですな」


「野菜も多く煮込まれ自然な甘みが出ておるのじゃ。あむあむ……」


 エルフェリーンが懐かしむように口にするとラルフも同じ様に口に入れ同じパーティーを組んでいた頃を思い出したのか、目を閉じて参加していた者たちを口にする。


「今じゃ多くの者が天国へ行ったが……生きている者たちは元気してるかな~」


「どうでしょうな……ドランやカリフェルはしぶとく生きてそうですな」


「ドラゴニュートとサキュバスだからね。寿命は長い方だね……もう二百年も前の事だからね~覚えているだけでも僕は偉いね!」


「ふははは、そうですな。二百年も前の事……懐かしいですな……」


 ウイスキーを互いに注ぎ入れ氷を添えると口に入れ飲み込むと、鼻に抜ける香りを楽しむ二人。


「プハァーウイスキーは美味いし料理も美味いし申し分ないのう。あとは少し甘い物が食べたいが……あれは大丈夫なのかのう……」


 ロザリアの視線の先に首を絞めるビスチェと首を締められるクロの姿が映り、呆れた表情へと変えながらウイスキーを口にする。


「ビスチェさん! そろそろ放さないとクロさんが、クロさんが、青い顔してグッタリしてますよ~」


「あら、少し締めすぎたわね!」


 手を放すと人形の様に崩れ落ちそうになり慌てて抱き締めると青かった顔色に赤みが戻り、薄らだが柔らかい感触を得るクロ。


「もうっ! あんたがキスされて鼻の下を伸ばしたのが悪い! って、私の豊満な胸に顔を押し付けているのよ!」


 抱き締めていたクロを慌てて放し、今度はルビーへと勢いよく向かった所で急停止するクロ。それはまるで操り人形のようにプラプラと宙に浮かび揺れながら停止し、抱き締める気でいたルビーは安堵の顔を浮かべながらも少しの寂しさが残り、クロはあからさまな安堵の表情を浮かべるも床に足が付かずバタバタを動かす。


「アイリーン、助かった。ありがとな、降ろしてくれ」


 その言葉にアイリーンは満面の笑みを浮かべながら白亜を抱きしめたまま立ち上がり、フォークに差した鳥のローストを持ちクロへと近づく。


≪あ~ん≫


 魔糸で生成された文字が浮かび引き攣るクロだったが口を開けると口内をローストした鳥の肉が襲い、パリッと焼けた香ばしい鳥の皮と塩と何らかのスパイスの効いた味に「美味い」と口にする。


 その光景にまわりの女性たちから「かわいい~」の声が上がる事はないが大きな肉の塊を持つ『ザ・パワー』の男たちがポーズを決めながら立ち上がる。


「いまならクロ殿にお礼できるな!」


「ふんっ! 我らが勧める筋肉の源となる肉料理を食して頂こう!」


「さぁ、あ~んだ!」


 半裸のマッチョからあ~んを強要されるクロに、その手の女性たちからは歓声が上がりビスチェとアイリーンは鼻息を荒く見守るのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポは良い [気になる点] 主人公に対する一部女性の暴力的な対し方が嫌いで読むのを辞めました
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