クロたちの奮闘
「うおっ!? シール、ロザリアさん!?」
連炎が間合いを詰めクロがシールドを展開しようとしたところで影から躍り出るロザリア。巨腕をレイピアで振り払い「シャドーエッジ!」と力ある言葉を叫ぶと黒い影が次に放たれた巨腕を弾き、更に追撃する形で蹴りを顔面へ入れ吹き飛ばす。
「うむ、我ながら良い蹴りが入ったのじゃ」
腰に手をあて仁王立ちのロザリア。クロは呆気に取られながらも疑問を口にする。
「ロザリアさんはあっちにいましたよね」
乙女たちの集団を指差すクロ。指差した先には同じように仁王立ちでこちらを見つめるロザリアの姿があり、高速で首を左右に動かし目の前のロザリアと見比べる。
「あれは影魔法の応用なのじゃ。我の影に色を付けあの場に残しておるのじゃ」
ドヤ顔で説明するロザリアに納得するクロ。吹き飛ばされた連炎がゆっくりと立ち上がり、その姿が次第に巨大化し空を飛んでいた赤黒いドラゴンの姿へと変化する。
「俺様の顔を足蹴にされるとは思っても見なかったぞ」
かなり怒っているようで背中の羽からは炎が巻き上がりゆらゆらと揺らめく闘志が見るほどである。真っ赤な髪のドラゴニュートの女二人はその姿に急ぎ傍から離れ、クロはどうしたものかと腕組みをし、ドランが大きくため息を吐きながらその姿を竜へと変える。
「ドランさんよりもでかいとか……」
「うむ、あの時のイナゴよりは小さいのじゃ。クロなら勝てるじゃろ?」
仁王立ちから振り向きクロへ悪戯っ子のような表情を浮かべるロザリア。
「どうでしょう……師匠がいれば確実に勝つとは思うのですが……」
「ここはワシが抑えるので屋敷へと下がれ。屋敷の結界は強固じゃ、諦めるまで籠城しておれ」
魔化したドランの言葉に一瞬考える素振りを見せるクロだったがシールドを展開しそれに乗り上へと向かい。ロザリアはレイピアを構えいつでも動ける姿勢を作る。
「老いぼれよ。そこを退け」
見た目の印象とは異なり冷静に口にする連炎。
「お断りします。この者たちはエルフェリーンさまの弟子であり、ワシの孫同然。孫を守れないのであればワシの存在理由もありますまい……それにクロには作った酒の味見をしてもらわなくてはならんのでな」
ギラリと瞳を強めるドランに連炎は意思が固いと知り口を開こうとするが、シールドに乗りクロが目の前に現れ片眉を上げる。
「先ほどからチョロチョロとしておるが、貴様がクロだったな。矮小な人の子が古龍の中でも最上位である白夜さまの子を預かり育てるという意味が解っているのか?」
「白夜さまが七大竜王だという事は知っています。子育ては初めてで最善かと問われたら自信はありません。ですが、飛べなかった白亜が立派に飛べるようになったり、果物の皮が一人で剥けるようになったり、つまみ食いして怒ったらちゃんと謝れたり、お風呂上りにひとりで体が拭けたり……
たまに俺の布団に潜り込む事があるぐらいには信用されています! 白夜さんと離れて暮らすのは寂しいだろうけど、それでも親代わりとして恥ずかしくない行動をしている心算です!」
クロが叫ぶように口にするとポカンと口を開けフリーズする連炎。ドランはその言葉に涙ぐみ、孫の成長を喜ぶ一人の老人としてこの場に立っているという自負が強く、涙を拭うと連炎へ視線を強める。
「うむ、白亜の成長は見ていて楽しいのじゃ」
「ワシも白亜さまが飛んだと聞いた時はたまげたが……今はそれよりも目の前の脅威を取り除かなくてはならんのう」
「同感です。白亜の父として連炎さんにはお帰り願いたいですから」
「主さま、私も戦いに参加したいのですが、手を離すとタトーラが走り出してしまい……」
クロの横にアイアンクローをしたまま並ぶヴァル。
「ここはいいから皆の方を頼む。タトーラさんを安全な場所まで避難させ、」
「グラァァァァァァァァァァァァ!!!」
二人のやり取りに我を返った連炎。大きく息を吸い吠え身が竦みそうになりながらも両足に力を入れ姿勢を保つ。地上ではその叫びにオモチや七味たちが身を震わせ、小雪も尻尾を丸め傍にいるビスチェの後ろへと隠れ、キュロットはブレスが来ると勘違いし一人下がり、まだ意識のないメリリの尻尾を掴み引きずり距離を取る。
「目の前で叫ばれると流石に恐怖を感じるな」
顔を引き攣らせるクロ。ドランも震える足に力を入れ無意識に下がりそうになるのを堪える。
「恐怖を感じるのなら下がればいいものを……先ほどから勝手にしゃべり虚を突かれたが、最初から力の差というものを理解させれば済む話であったな」
大きく仰け反り息を吸い込む連炎。その勢いでクロの髪が靡きヴァルは聖女タトーラをアイアンクローしたまま高度を下げ皆の下へ向かい。クロは大量のシールドを展開移動する。下ではロザリアが苦笑いを浮かべドランの影に避難し、赤いドラゴニュートの女たちはしれっとビスチェたちの下へ走りジト目を向けられるが、ヴァルが張ったシールドへ回り込む。
「ほら、こっちだ!」
シールドに乗ったまま高度を上げ挑発し、仰け反っていた連炎が姿勢を戻しながらクロへと口を開くと光が溢れ、シールドから飛び降りその場を回避するクロ。落下しながらも新たなシールドに着地しすぐに飛び退き回避する。連炎のブレスは高温で炎というよりはビームといった威力でクロを襲い、シールドを次々と移動するクロを追撃する。
ビームに触れた瞬間にシールドが粉砕され、当たったら終わりだと悟ったクロは必死に逃げ回りながらも地上で乙女たちがいる場所へブレスが向かわないよう頭を回転させ逃げ道を作り、新たにシールドを展開して避け続ける。
時間にして十秒ほどであったがブレスが終息すると遠くの木々は消失し地面にも灼熱のラインが引かれ様変わりしており、肩で息をし汗だくになったクロは腰のナイフを抜き魔力を通す。
「全て躱すとは驚いたが、そんなに小さな武器で俺様の体に傷が付けられるとでも思っているのか?」
「古龍だろうが亜竜だろうがドラゴンの弱点は喉にある逆鱗だろ?」
「違いない。が、亜竜と一緒にされては困るな。鱗の厚みは倍以上、お前の持つナイフの属性は炎、俺様の喉を貫けるとは到底思えないがなっ!」
体を翻し遠心力を加えた尻尾がクロを襲うが、ドランがそれを体で止め両手で押さえる。
「まるで怪獣大戦争ですね……」
ヴァルのシールド内で呟くアイリーン。他の者たちも古龍という最強種の前では邪魔になると知っているのか参加しようとはせず。ビスチェは拳を握り締め歯を食いしばる。
「クロよ! 悔しいがその武器では逆鱗に傷すら付けられん! 下がれ!」
魔化したドランの叫びは体を揺らすほどの大声であり耳に痛みを覚え顔を顰めるクロ。
「少しだけ耐えて下さい!」
クロもできるだけ大声で叫びシールドを滑り台状に展開すると一気に下まで滑り、目を輝かせるクラン。
「ん……あれは絶対に楽しい……」
緊張感が若干緩むなか、クロが下まで辿り付くとドランの影から顔を出したロザリアに声を掛ける。
「ロザリアさん、少しだけ力を貸して下さい」
「うむ、我は構わぬ! 巨大イナゴの時のようにフォローは任せるのじゃ!」
ロザリアの頼もしい声にクロは作戦を伝えるのであった。
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