怠慢エルフとラライのお土産
「何というか、怠惰という言葉を表すにはピッタリの光景だな……」
クロの視線の先には炬燵から顔を出すオモチたちの姿があり、その中にはメリリやキャロットに白亜の姿もある。みな表情を緩めのんびりとした午後を過ごしている。
「急ごしらえにしては上手く設置できましたね~」
「リビングのテーブルを片付けたからな。これからは炬燵で食事を取るようにすればいいが……」
「メリリさんは確実に太ると思いますね~」
「オモチたちもだな……」
リビングに設置された炬燵は床の上に段差を作り掘り炬燵式になっている。サイズも大きく通常の炬燵をL字方に増設し、以前使っていた炬燵石なる保温ができる合金とクロが魔力創造で創造した湯たんぽを入れて暖を取っている。
その中に体を入れ顔だけを出す姿に呆れながらもアイテムボックスのリストを立ち上げ確認するクロ。アイリーンは白薔薇の庭園の手入れをしており、聖女タトーラはリビングの隅にある祭壇に祈りを捧げている。
「貴女達はいつになったら帰るのかしら?」
「雪が降ったら帰るのが大変なのよ」
「ん……この雪では危険……」
「雪なんて振ってないわよ! 私が言いたいのは雪が降る前に帰れって事よ!」
オモチたちとは対照的に言葉を荒げるビスチェ。キュロットとクランは炬燵の魔力にやられておりテーブルに頬を付け堕落している。双子の片割れであるフランはひとりキッチンに立ち昼食の準備を進めている。
「エルフェリーンさまはいつまでいても良いぜ~と言ってくれたわ」
「師匠が良いといっても、里が困るの! それでもペプチの森の長なの!」
「私は里の皆を信じているわ!」
キリッとした顔でいい話へ持って行こうとするキュロット。だが、右頬は炬燵テーブルに付いたままであり、いくら表情を作ってもだらしなく見える姿にビスチェは呆れて炬燵を拳で叩く。
「痛っ! 炬燵は悪くないわ!」
「ん……炬燵への暴力はダメ……」
「むかっ!? クロ! あんたがこの腑抜けたちを早く里に帰らせなさい!」
急な無茶振りに間違えてリストをタップし目の前に鹿肉が現れ目を輝かせるオモチたち。小雪は素早く炬燵を出てクロの前でお座りの姿勢になり尻尾を振る。
「これは間違えただけだからな」
「くぅ~ん」
アイテムボックスに鹿肉を収納し悲しそうな鳴き声を上げる小雪。オモチたちもあからさまにガッカリな表情へと変わる。
「師匠が良いといったのなら俺は構わないが、里の方で何か問題があったらどうするのですか?」
「そこは大丈夫よ。私がいなくても優秀な夫がいるし、元老院というジジイとババア共が適当に指示を出すわ。元々閉鎖的な里だから問題があったら逃げるし、逃げる先はきっとここよ」
「ん……問題ない……」
「それは問題が起きた後の話では……」
クロも呆れ顔でビスチェへ視線を送り、ビスチェはクロの視線を受け静かに頷く。
「クロの女神の小部屋に押し込んで里に返すという手もあるのよ!」
ビスチェがキュロットへ視線と語気を強めクロも数度頷くが二人は炬燵に頬を付けたままの姿勢を変えることはない。
「その時はクロを里に招待するわね」
「ん……クロを母に紹介する……」
「はぁ……リアルエルフのイメージが崩壊しそうだよ……」
「でも、キュロットさんはエルフというよりもオーガよりですよね~精霊魔法や弓を使わずに拳ひとつで戦っていますし」
「ん……長は最強……拳ひとつでオーガをビビらせる……」
「手っ取り早くていいじゃない。私だって風の精霊と契約しているから色々とできるわ。でも、最後にものをいうのは自身の鍛えた拳ってだけね」
「そんなんだからペプチの森のエルフはならず者や暴力信仰とか言われるのよ……はぁ……何だかもう疲れたわ……」
呆れ切ったビスチェの言葉にキュロットは口角を上げ、フランは半分閉じた眼を最後まで閉じる。
「クロ~遊びに来たよ~」
リビングに響いた声に反応し玄関へ視線を向けるとラライが元気に両手を上げその背には大きな籠を背負っている。
「外で出くわしたので案内したのじゃ」
「今年できが良かったキノコを干して持って来たよ。それと自家製のベーコンを作ってみたから味を見てくれ」
オーガの村の長であるナナイの姿もありロザリアに案内されリビングへと入るオーガの一行。炬燵の上にお土産が乗せられオモチたちが興味深げに見つめる。
「小雪が増えてる!?」
二メートルサイズのリトルフェンリルを前にキャッキャと喜ぶラライ。連れてきた他のオーガたちも興味深げに見つめアイリーンが名前を紹介するとすぐに手を出し撫でるラライ。
「モフモフして可愛い! うちでも飼いたい!」
キナコの喉をウリウリと撫でながらキラキラした瞳をナナイに向けるが首を横に振られシュンとするラライ。だが、その機嫌もオモチたちを撫でているうちにすぐ戻り優しい笑みで撫で続ける。
「干したキノコがこれで、こっちが自家製ベーコンだね。味噌を作った時の上澄みにハーブを入れて付けた者を燻してみたよ。塩味が強いから少しずつ食べるかスープにでも使ってくれ」
見た目が少し黒いベーコンからは燻した香りと味噌の香ばしい匂いがリビングに広がり目を見開くキャロットと白亜。小雪も尻尾を振りクロの前でお座りの姿勢を新たに作りオモチたちも期待した瞳を向ける。
「ベーコンはしょっぱいらしいからオモチと小雪はダメだぞ。もう少しでお昼だからその時まで、」
「待てないのだ!」
「キュウキュウ~」
クロの言葉を遮りキャロットと白亜が声を上げお腹を鳴らして涎を垂らす。
「これはワインにも合いそうなのじゃ」
「白ワインにも合うわね!」
「ん……パスタにしても美味しそう……」
ロザリアと共に炬燵に入るナナイ。キュロットとクランも身を起こして炬燵の上に乗せられたベーコンを見つめ、クロへと視線を移しすぐに食べたいという視線を向ける。
「よし、これで綺麗になりましたね~小雪とオモチたちには私がお昼を用意しますね~」
白薔薇の庭園のメンテナンスを終えたアイリーンが立ち上がりキッチンへ向かうと小雪だけは後を追い掛け、それならいいかとクロは立ち上がりベーコンを持ってキッチンへ向かう。
「クロ師匠、もうすぐパスタが茹で上がるからさ」
「ああ、美味しそうな香りがしてるよ。トマトもあっちでは順調に育ったのか?」
「大人気で増やす為にも種は食べてないよ。人によってはもう種を植えて小さな苗を育てている奴もいたよ」
ニッカリと笑顔で応えるフランは大鍋で茹でるパスタを味見し頷くと、ザルに移して水気を切りオリーブオイルと合わせる。
「トマトは寒さに弱いから冬場は枯れると思うが」
「家の中で大切に育てるらしい。あちち、うん、美味い!」
用意したトマトソースの味を確認するフラン。クロはまな板にのせ薄くスライスしたベーコンを串に刺し暖炉のあるリビングへ戻る。
「今日はどの味がいいですか~」
「わふっ!」
「このパッケージですね~」
キッチンの隅に積み上げてあるドックフードから一つを選ぶと大きなフードボウルに入れ小雪は尻尾を揺らし、入れ終わったフードボウルを七味たちが手伝い運ぶと一斉に炬燵から出るオモチたち。
それを横目で見ながら暖炉でベーコンを炙るクロ。ベーコンから脂が落ち味噌とハーブの香りが立ち込めるとロザリアとキュロットにビスチェが立ち上がりクロの後ろで構え、その手には各々がワインを持ち鼻をスンスンとさせ待ち構えている。
「不穏な気配を感じるが……」
「不穏とは失礼ね! あまりにも美味しそうな香りがするから待ち構えているだけよ!」
「うむ、味噌の焦げる香りは食欲をそそるのじゃ」
「早く食べたいわ!」
後ろからの圧力を背中に感じ焼き上がった三本を三人へ渡すと笑みを浮かべ受け取りハフハフと熱々を口にし、それを見たキャロットと白亜にラライが立ち上がりクロの下へと走るのであった。
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