狩り?
「それでは皆さん頑張りますよ~」
「わふっ!」
「ギギギギ!」
アイリーンの掛け声に尻尾を振り吠える小雪とリトルフェンリルたち。更にリトルフェンリルたちの背に乗り片手を上げて声を上げる七味たち。
「うふふ、少し寂しくなるかと思いましたが、頼もしい鳴き声とチームワークですねぇ」
午後になりアイリーンたちはいつもの様に狩りへと向かう。狩りといってもアイリーンと七味たちが前もって仕掛けている蜘蛛の糸を使った罠を見回る簡単なお仕事であり、参加するメリリからしたらジョギング程度の運動量である。
ただ、ここは世間一般的なものたちからしたら死の森や魔の森と呼ばれる危険な場所で、次の瞬間には恐ろしい魔物に出くわす可能性もあり気を抜くことはないのだが、それでもリトルフェンリルたちの背に乗り片手を上げる七味たちの姿に顔を緩めるのは仕方のない事だろう。
「では、オモチたちは逸れずに付いてくること! もし遅れそうな時は無理せず吠えて教えて下さいね!」
「わふっ!」
リトルフェンリルたちがここへ来てから数日経過するが狩りなどの運動はしておらず、全力で走れるだろうこれからを思って尻尾を振りテンションを上げている。
「では出発です!」
アイリーンの掛け声と共に糸を放出し宙へ固定すると伸びたゴムが戻るように一瞬で速度を上げ、それを追うリトルフェンリルたち。メリリも足を動かし一瞬にして最後尾からアイリーンの隣へと移動し、その横で尻尾を振りながら歩幅を合わせる小雪。
リトルフェンリルたちはそのスピードに目を丸くするが足を止めることはなく、スピードを徐々に上げて追い掛ける。
やっぱりこの子たちも優秀ですね~私とメリリさんの速度にちゃんと付いてきますね~それにしてもシャロンくんたちまで里帰りとは驚きましたが、クロ先輩が付いて行かないといったのにも驚きましたね~
これじゃ遠距離恋愛をするカップルをどう応援したら……
全力で森の中を駆け抜け警戒しながらもクロ×シャロンを妄想するアイリーン。その横でメリリは足を高速で動かしながらも、両手にはクロから教わりルビーから特注で制作したアダマンタイト製のダンベルを使い二の腕に効果のある運動を行う。特注のダンベルだけあってその重さは見た目よりはるかに重く片方だけで五十キロほどの重さがあるのだがそれを軽々と動かしている。
これは効果がありそうですねぇ。木々の間を抜ける際に注意が必要ですがスッキリとした二の腕を目指すのには有意義な時間といえますねぇ。うふふ、スッキリとした二の腕を里帰りから戻ったメルフェルンさんに見せるのが楽しみです
メリリはメリリで危険な森の中を走り抜け有意義にダイエットをする姿にリトルフェンリルは驚くが、その実力を数日前に目の前で見ていた事もあってか頼もしい者という認識を改めつつ足を動かす。
「角トカゲが二匹いま、した……」
アイリーンが声を上げ、目の前には三メートルほどの大きさのある茶色いツノを持つオオトカゲが姿を見せるが、ダンベルを瞬時に投げ無力化するメリリ。
速度を落とし頭部が潰れた角トカゲに手を合わせアイテムバッグへ収納したアイリーンは浄化魔法を使い血まみれのダンベルを浄化する。
「すみません。つい癖で投げてしまいました……」
本日の目的はリトルフェンリルたちと七味たちの連携訓練も兼ねており魔物が見つかったらその対応を任せようとしていたのである。それなのに発見即キルという自身の行動に反省し深く頭を下げ、その勢いでダンベルを拾い上げるメリリ。
「わかっているのなら問題ないですよ~次はオモチと七味が頑張って下さいね~」
「ギギギギギ」
「わふっ!」
「………………わふっ!」
七味と小雪に数行遅れてオモチたちが声を上げ了承するが、角トカゲは魔法を使って来る厄介な魔物であり、それを瞬殺するメリリの行動と実力に自分たちが狩りをしなくても全く問題ないのではと返事が遅れたのだが、引き取ってくれたアイリーンの期待する瞳に応えるよう気を引き締めるオモチたち。
「やっぱりこの罠にはなにも掛かっていませんね~次は湖畔の方に行きますよ~」
アイリーンと七味が使う罠に使用されている糸は魔力で生成した事もあり数日間はそれに触れた存在を離れていても自身で知る事ができる。今も他の罠には魔物が掛かっている様子はないのだが、それでも罠の修復や落ち葉などが引っ掛かり罠の存在が露見して避けられないように見回っているのである。
「うふふ、もう寒い時期なので我々は泳げませんが、また人魚さんたちと一緒に泳ぎたいですねぇ」
「メリリさんは泳ぎが上手なので羨ましいです。コツとかあるのですか?」
「早く泳ぐコツですか? そうですね……私の場合は種族的なものですから、気合でしょうか?」
魔化すれば下半身を蛇の姿に変える事ができるメリリからしたら蛇のようにくねらせるというアドバイスをしたところでアイリーンに真似ることはできないだろうと言葉を選ぶが、気合というアドバイスに聞かなきゃ良かったと思うアイリーン。
以前、南国の島でバブリーンたち海竜と泳いだことを思い出し、水泳勝負で圧倒的大差を付けられ敗北したアイリーンはこっそりと人魚たちと交流を深め通い泳ぎ方を教わるが、魔化した蜘蛛の下半身では速度を上げることができず今でも水中には多少の苦手意識を持っている。
その事をクロに相談すると「アイリーンなら水中に入らなくても問題ないだろ」といわれ、確かにその通りなのだが腑に落ちなかったのである。
「気合ですね……よし、来年はもっと気合を入れて泳ぎ方を工夫します!」
アイリーンも寒空の下で泳ぐ気はないのかやる気だけを見せ先を急ぎ、目的地である人魚が住む池へと辿り着く。
「アイリーンたちだよ!」
「あら、狼たちが増えたのかしら」
「生まれたにしては大きな狼たちだね」
湖のほとりで寛いでいた人魚たちに見つかり挨拶をするアイリーン。メリリも微笑みながら頭下げ、七味たちは片手を上げて挨拶をする。
「この子たちはオモチです。仲良くしてあげて下さいね~」
簡単な紹介をするアイリーンに子供たちはキャッキャと喜びながら手を振り、歓迎されていると感じ取ったオモチたちは尻尾を揺らし軽く吠え、その声に子供たちも同じように「わふぅ! わふぅ!」と真似して盛り上がる湖畔。
「魚を持って行くかい?」
「この時期はどれも脂がのっていて美味しいわよ」
「俺らが取ってこよう!」
「任せろ!」
次々に人魚たちが集まり男たちは魚を取りに池に潜り、子供たちはオモチたちを見つめキャッキャと喜び、アイリーンは時間停止機能がないアイテムバッグに生ものを入れたら早く帰らないとですね~と思案する。
「うふふ、夕食は魚料理ですねぇ。フライも美味しいですがシンプルに焼いても美味しいですし、お鍋にしてもお出汁が美味しく楽しみですねぇ」
ダイエット中とはいえ妄想の自由はあり表情を溶かすメリリはダンベルを上下させ、その動きに子供たちが食いつき同じような動きでキャッキャしていると男たちが戻りサーモンに似た魚やナマズを捕らえてロープで結び、アイリーンの下へと向かい手渡しお礼を口にする。
「こんなにありがとうございます」
「いつも世話になっているからな」
「クロたちに宜しくね~」
「エルフェリーンさま方にも宜しく伝えてほしい」
人魚たちから魚を受け取ったアイリーンたちは狩りという雰囲気ではなくなり、寒空といえ生魚は傷みやすいと家路に就く。どんよりとした空に雪の気配を感じ、本格的な冬の到来を肌で感じるのであった。
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