フェンリルたちの小屋と帰宅
翌日の昼にはすべての解体が終わり多くの素材や肉に魔石を手に入れたが、皮や肉に鱗などはコボルトの村に寄付し、特に肉に関しては冬の保存食とリトルフェンリルたちの餌に重宝すると喜ばれた。
「木材はこれだけあれば問題ないですかね?」
クロのアイテムボックスから乾燥した木材が大量に取り出され目を丸くするコボルト族の男たち。これから冬が来れば当然寒くなりリトルフェンリルたちを野ざらしにするわけにもいかず、巨大な犬小屋を作る素材として乾燥した木材を寄付したのである。
「設計図はこちらに用意しましたが問題ないですかね?」
「そうですね……入口はもう少し広くした方が、明かりはこの子が光球を浮かべられるので窓はなくても大丈夫ですね」
「それだと湿気が溜まりませんか?」
「そこは大丈夫です。こちらの子が風魔法を使えますから換気に関しては大丈夫だと思います。リトルフェンリルたちは家系によって属性魔法が使えるので、それらの制御も教えたいですね」
「暖房用に考えていた暖炉はどうしますか?」
「それは外に作り暖かい風だけが室内に向かう形が理想ですね」
「そうなるとうちで使っている床暖房のような形にして、熱された空気が通る管を用意して床と壁を伝う形に……」
設計図を製作したルビーとリトルフェンリルたちの担当するリンシャンと補佐するコボルトの主婦が意見を交わしてリトルフェンリルたちの小屋の案を出し、男たちは話を聞きながら自分たちの家よりも広く使いやすい物になるなと何とも言えない表情を浮かべている。
「カリカリ系のドックフードも喜んで食べていますね~」
「もしもの時に日持ちするドックフードは重宝するだろうから多めに置いて行く方が良いかもな」
「うん、これ薄味だけど美味しいわ!」
試しに与えたドックフードを夢中で食べ尻尾を振るリトルフェンリル。その横では開けたドックフードに手を突っ込み自身の口に入れ、味に満足したのか感想を口にするチーランダ。ロンダルはそれが犬用の餌だと気が付き止めようとしたが、素早く口に入れたことで見なかった事にしようと視線を逸らしている。
「アレ、大丈夫です?」
ポリポリと口にするチーランダを心配するアイリーンがクロに寄り添い耳打ちし、くすぐったさを感じながらも「味見は人間がするらしいし大丈夫だろ。本人も気に入っているしな」と口にしながら多くのドックフードを魔力創造する。
「うう、もう帰ってしまうのですか?」
ソルラが潤んだ瞳を向け仲良くなったアリル王女とハミル王女に抱き付き、二人も目を赤くしながら抱き締め返す。小さな友情が芽生えたなと視界に入れながらドックフードを創造し終えたクロはへっへする白亜を撫で、その横で同じようにへっへとするリトルフェンリルを撫でているとエルフェリーンが天魔の杖を掲げる。
「お別れは済んだかな?」
「うう、また会った時も友達でいてくれますか?」
「もちろんです! ソルラはお友達です!」
「マヨフレンドと過ごした日々は忘れません! 王都に来たらまたマヨ談義を咲かせましょう!」
少女たちが抱き合う姿に尊さを感じているのかレトリーバル辺境伯やその妻のソルラが涙し、連れてきたメイドたちも涙を拭きながら見つめ、クロはひとりマヨフレンドとはいったい? と心の中で疑問が浮かぶが転移の門へと手を振りながら消えて行く王女たちに手を振る。
「帰っちゃいましたね~」
「ああ、師匠がいればいつでも王都へ行けるが、ソルラさまたちは中々王都までは行けないだろうから別れは寂しくなるよな」
「ここからは馬車でひと月でしたっけ?」
「グリフォンでも三日は掛かりますね……メルフェルンと旅をした時はキャッスルベアとリトルフェンリルの戦いを空から見て震えましたが、それを討伐してリトルフェンリルは飼うことになるとは驚きです」
シャロンが話しながら近くにいたリトルフェンリルの喉を撫で一年ほど前の事を思い出し口にする。
「そういや、シャロンは家出してきたんだったな」
「はい……ですが、今ではキュア姉さんやメルフェルンも付いて来て……」
「フィロフィロちゃんも少し大きくなりましたね~」
「ピー」
シャロンの頭上を跳んでいたフィロフィロへアイリーンが手を振るとその胸に着地し優しく撫でられ目を細め、飛び付かれたのかそのまま寝息を立てはじめる。
「クロ先輩、うちでもリトルフェンリルたちを引き取るのだったら小屋を作らないとですね。同じような形にしますか?」
話し合いを終えたルビーが戻りクロは敷地を思い出しながら小屋のサイズと場所を思案し、アイテムボックスから紙を出してペンで屋敷や畑を書き込む。
「屋敷の横にある七味たちのキッチンの横に作ると煙いだろうから、少し離した方が良いかもな」
「畑の方はダメだからね! ああ、トイレの場所も一緒に決めなさいよ!」
「そうなると、入口近くの方でしょうか?」
「入口近くだとクスリを取りに来た人が驚くかもしれないですね~」
「番犬としてならそれでもいいが、噛みつかれたりしたら危険だよな」
「うふふ、それでしたら裏の斜面側では如何ですか? そちらなら薪置き場も近いので先ほど話していた床暖房を使った暖炉も設置しやすいでしょうし、ビスチェさまなら土の精霊にお願いして斜面を削ることも容易いかと」
「あの斜面は柔らかい土だからクロでも掘れるわね!」
「掘れるって……いや、シールドを長方形に使えばアイテムボックスに土を収納できるか? やった事はないができそうな気がするな……」
その場にしゃがみ手の平サイズのシールドを展開し長方形にして地面に押し込みアイテムボックスに収納すると真四角の穴が開き、アイテムボックスのリストにその土が記載される。
「おお、できるな。これならシールドを斜面に押し込んで収納すれば簡単に整地できるな」
「キャロットさんに魔化してもらえば踏むだけで地面も硬くできそうですし、あとは腐らないように砂利を敷いて床を高くしないとですね」
「折角ですし、猫タワーならぬ犬タワーも作りたいですね~」
「犬タワーって、一応は狼だろ?」
「わふっ!」
シャロンに撫でられていたリトルフェンリルがそうだと言わんばかりに吠え、アイリーンは「狼でしたね~」といいながら謝罪し、エルフェリーンが転移で戻り多くのリトルフェンリルが出迎え、その顔を涎で濡らすのであった。
「何だか、あっという間でしたね~」
「そうだな。収穫祭とキャッスルベア退治……俺としてはもう少し戦いとかがない方が嬉しいが、ポンチーロンたちの事を考えると良かったのかもな」
「キャッスルベアは危険な魔物だからね~単純に大きいだけだけど、大きいというのは強さに比例するからね~」
「それをあっという間に五頭も倒したのが、ほぼほぼ七味たちなのよね」
「ギギギギギ」
コボルトたちの村から帰ったクロたちは夕食を取り終えリビングで寛ぎ、小雪よりも大きなモフモフを撫でる。ここへ連れてきたリトルフェンリルは五匹おり、比較的小さなサイズが四頭と小雪の傍から離れない一匹を飼うこととなった。
「名前も決めないとですね~」
「そうだよな~ああ、冒険者ギルドにも登録した方がいいのかも」
「首輪も作らないとですね~」
新たな仲間が草原の若葉に増え、更に賑やかになるリビングを嬉しそうに見渡すエルフェリーン。
「明日からはみんなで大きな狼小屋を作ろうぜ~」
「わふっ!」
エルフェリーンの言葉に嬉しそうに吠え尻尾を揺らす小雪とリトルフェンリルたちなのであった。
これにて十八章は終了です。 次章で完結予定? かもしれないです。まだ未定なのでアレですが……
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誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。