モフモフタイム
「私たちが戦っていたのにクロ先輩たちはモフモフを味わっていたのですか?」
リトルフェンリルと共にエルフェリーンたちの下へと向うと不満げな視線を向けて来るアイリーン。クロはそれを聞き流しながら多くの魔物を収納する。
「クロが餌付けしてたのだ! 焼いた方が美味しいのだ!」
「クロさまモフモフを味わっていたのではなく、白亜ちゃんがリトルフェンリルを無力化し、そのリーダーが瘠せていることに気が付き施しを与えたのです。討伐をさぼっていた訳ではありません!」
「主さまに掛れば狼を無力化し家臣にするのも頷けるというもの……この狼たちは見る目があるのやもしれません」
キャロットはお腹を空かせているのか生肉を与えそれを美味しそうに食べるリトルフェンリルに自分もと手を伸ばしクロから怒られ、更にグワラからも怒られた事を根に持っているのかアイリーンに報告し、聖女タトーラとヴァルはクロの活躍を過大に評価する。
「わふっ!」
「よしよしよし~小雪が頑張ったのですね~こんなにも多くの友達を作るコミュ力は素晴らしいですね~」
アイリーンはアイリーンでキャロットと聖女タトーラにヴァルの話を流しながら小雪を撫で、それを羨ましそうに見つめるリトルフェンリルたち。ここへ来る途中に数が増えその数は最終的に50頭を超えている。完全に白亜をリーダーとして群れで付いて行く気満々である。
「うふふ、こんなに多くを飼うとなると名前を付けるのも大変ですねぇ」
「これを全部飼う気なの!?」
「うむ、我も狼を飼ったことがあるが、群れ単位で飼うとなるとエサ代や散歩に躾が大変なのじゃ」
「よく見ると可愛いからシャロンが喜ぶと思うわ~この子とか尻尾がサラサラよ」
「う~ん、確かに可愛いけど畑を荒らされないか心配だわ。トイレとかちゃんと躾なさいよ!」
「リトルフェンリルを飼ってエルファーレに自慢するのもいいね~フェンリルも可愛いけどリトルフェンリルも十分可愛いぜ~ほら、この子は目が金色だぜ~」
クロがアイテムボックスに多くの走竜を収納していると乙女たちは皆でリトルフェンリルを撫で好き勝手話しながらモフモフタイムを満喫する。ビスチェ以外は飼うことに賛成なのか白い毛並みを撫でて微笑みを浮かべ、グワラは白亜を抱いたままリトルフェンリルのリーダーと顔を突き合わせどちらが上かを教えている。
「お腹が空いたのだ……クロ、クロ、オヤツの時間だと思うのだ……」
地鳴りのようなお腹の音を鳴らしながら回収作業を続けるクロに話し掛けるキャロット。
「こんな血生臭いなかで食欲がわくかね……ほら、ポテチをあげるから大人しくしているように。ああ、小雪やリトルフェンリルにはダメだぞ」
「わかっているのだ! 独り占めなのだ!」
「独り占めをしろと言っている訳じゃないが……まあ、いいか。ん?」
裾を引かれる感触に振り返るとエルフェリーンが泣きそうな顔でクロを見つめその顔は涎塗れであり、リトルフェンリルたちに顔を舐めまわされたのだろう。
「うぐ、凄く臭い……」
「師匠はどうして舐めまわされちゃうかな……おしぼりを出しますね……」
起動しているアイテムボックスからおしぼりを取り出しテロテロになった顔を丁寧に拭き上げ、頬を染めながらされるがままのエルフェリーン。師匠と弟子というよりも父と娘に見える姿に顔を舐めまわしたリトルフェンリルは尻尾をフニャリと下げながら反省しているのか、小雪からの威嚇の視線に頭を下げている。
「はい、綺麗になりました」
「うん、えへへ、助かったよ~」
笑みを浮かべるエルフェリーンの頭を自然と撫でそうになるが師である事を思い出したのか、その手を抑えて回収作業に戻るクロ。
「パリパリなのだ!」
「キュウキュウ~」
「白亜さまにはあげてもいいのだ! リトルフェンリルと白亜はさっき美味しそうにお肉を食べたからダメなのだ」
白亜がポテチに連れられキャロットの下へと走り、それについて行くリトルフェンリルたち。クロからダメと言われた事をちゃんと守るキャロットだが悲しそうな表情を浮かべるリトルフェンリルたちに罪悪感が湧いたのかクロへと視線を向け、視線を向けられたクロはその視線に気が付いていながらも急いで回収作業を続けるのであった。
「流石というか、エルフェリーンさま方は私の予想を良い意味で裏切る活躍ですな」
多くのリトルフェンリルに囲まれ村へと戻ったクロたちを出迎えるレトリーバル辺境伯。チーランダやロンダルも目を丸めながら驚き、母であるリンシャンは「村でも昔は飼っていたのよ~」とリーダーのリトルフェンリルの首を撫でている。
「リトルフェンリルたちを手懐けたのは僕じゃないぜ~小雪とクロだぜ~」
「わふっ!」
鳴き声を上げ尻尾を振り褒めて欲しいのか一歩前へ出る白亜に、ロンダルが優しくその背に振れると更に尻尾が加速する。
「驚かせる心算はなかったのですが、すみません。飼うかはまだ決めていませんが、リンシャンさん方が可能であれば少し村で飼いませんか?」
「あらいいの? リトルフェンリルがいれば番犬になるし、鼻が良いから旅も安全になるわ」
「飼えるの!? 私も撫でていい! 撫でていい!」
チーランダがツインテールをフリフリさせジャンプして喜び、ロンダルも小雪から近くにいるリトルフェンリルに視線を向けて目を輝かせる。
「撫でるのは構わないがその辺はよく話し合って決めて下さい。ああ、それと、キャッスルベア以外にも多くの魔物を退治しまして、できれば解体を手伝ってもらえないかなと……」
「それなら私の部下が手伝おう。辺境で戦う兵士は人よりも魔物と戦い解体作業などお手の物だよ」
「私も手伝う~」
「村長に相談して参りますので、皆さまはゆっくりして下さいね」
レトリーバル辺境伯が解体の手伝いをすると宣言すると多くの兵士たちはやる気を漲らせ、リンシャンは村長を探しに村へと走り解体の手伝いを呼んでくるのだろう。
「解体なら私も得意ですからね~クロ先輩は解体が終わった肉や素材の回収をお願いしますけど吐かないで下さいね」
「ああ、極力努力するよ……はぁ……七味たちも手伝いを頼むな」
「ギギギギギ」
片手を上げてお尻を振る仕草に兵士たちは笑い声を上げ、七味たちが受け入れられたと感じたアイリーンとクロは視線を何気なく合わせ微笑みを浮かべる。
「まずはキャッスルベアからだね~血抜きは浄化魔法で行ったから皮を剝いで魔石と内臓を分けるぜ~」
解体用のナイフを取り出し構えるエルフェリーンにクロはアイテムボックスを起動せキャッスルベアを取り出すと歓声が上がり、皆で協力してキャッスルベアの解体作業が始まり数班に別れ五メートルほどの熊を解体してゆく。
「魔石だ! こんなにデカイ魔石は初めて見るぞ!」
魔石が取り出されると両手で掲げて見せる兵士に歓声が巻き起こり、途中から参加したコボルト族の者たちも遠吠えのような鳴き声を上げ、それにリンクするようにリトルフェンリルたちもテンションを上げて吠え盛り上がり、一人顔を青くしているクロに抱き付き心配そうな鳴き声を上げる白亜。
「キュウキュウ……」
「大丈夫。大丈夫だからな……情けない姿で恥ずかしいが、どうも血の臭いは慣れないな……はぁ……」
「まったく情けないわね!」
「エルフに婿に来るのなら、それぐらい乗り越えなさい」
「婿って……はぁ……」
「ギャァー!? ママは何を言ってるのっ!」
「ん……私の婿でも可……」
走竜を解体しながらビスチェとキュロットにクランが楽し気に会話するが流れてくる濃い血の香りに吐き気を我慢するクロなのであった。
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