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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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死屍累々



 木々の間を抜け空に躍り出るエルフェリーン。天魔の杖を掲げ飛行魔法を使い一気にキャッスルベアとの距離を詰め、同じように空を飛ぶことができるビスチェとキュアーゼが続く。

 ロザリアは脚力を生かし木々の間を跳び一気に加速し、キュロットとメリリは踝まである草を蹴散らしながら足を動かす。


「これではただのジョギングで終わってしまいますねぇ」


 一番遅れている事を自覚しているメリリは走りながら瞬時に魔化し、蛇の下半身へ変わると一気に速度を上げて先を走るキュロットへ挑発的な笑みを浮かべ抜き去り、鬼の形相へと変わったキュロットは魔力を足に集め強化し更に速度を上げる。


「くそがっ!」


 エルフの族長というプライドが森の中で最下位のスピードという事実に、額に青筋を浮かばせ一気に魔力を開放しながら速度を上げ弾丸のように木々を抜ける。


「ギギギギギ」


「グマァァァァァァァ」


 七味たちとキャッスルベアが戦闘をしているのか体の芯へと響く叫び声を上げ木々をなぎ倒す巨大な熊の姿に口角を上げるエルフェリーン。


「七味たちは優秀だね~あんなにも巨大なキャッスルベアを相手に逃がさないよう挑発しながら糸で拘束しようとしているぜ~」


「模擬戦でもキャロットが翻弄されていたけど、振り向きながら自身のお尻を叩く姿はイラっとするわ」


「ふふ、私は可愛いと思うけど、もう二頭が糸で巻かれて動かなくなっているわ」


 七味たちの連携の取れた動きに翻弄されるキャッスルベアは白い糸でグルグル巻きにされ叫びを上げる二頭。他に三頭のキャッスルベアがいるのだが体には白い糸が薄っすらと見えあと数分もしないうちに拘束されるだろう。


「うむ、七味たちが優秀なのじゃが、これでは我々の出番がないのじゃ」


「私の姉妹たちの活躍が見られるのは嬉しいのですが、活躍し過ぎですね~」


 ロザリアとアイリーンがエルフェリーンたちと合流しキャッスルベアを翻弄する七味たちの動きに感心していると、木々の間から躍り出たキュロットとメリリがまだ拘束していないキャッスルベアへ勢い余って特攻し、その大きな背中に二人して衝突すると粘着力のある糸に絡め捕られ顔を見合わせる。


「うふふ、これでは巨大イナゴの時と同じですねぇ」


「同じですねぇ、じゃないっ! どうすんのよっ!」


 某ホイホイとした虫取りのごとく体ごと粘着力のある糸にくっ付いた二人に一美は頭を掻きながらどうしたものかと思案し、ビスチェは母であるキュロットの情けない姿に眉間の皺を増やす。


「あははははは、これは傑作だぜ~七味たちがエルフとラミアも捕らえたぜ~」


 一人爆笑するエルフェリーン。ロザリアは苦笑いを浮かべ、キュアーゼは肩を震わせながら口元を抑える。


「私が糸に干渉して開放しますね~少し待っていてくださいね~」


 アイリーンが飛び出し暴れるキャッスルベアへと近づこうとするが巨大な腕の振りに木々がなぎ倒され、それをギリギリで避けながら白薔薇の庭園を抜くと一閃が走りキャッスルベアの首が飛び、糸を飛ばし七味たちの魔力で作られた糸に干渉させそれを四散させると拘束が溶けた二人は素早くその場から離れる。が、大量の血が降り注ぎその身が赤く染まりスプラッターな表情を浮かべるキュロットとメリリ。


「ううう、血生臭いです……」


「返り血塗れ……」


「すぐに綺麗にしますね~浄化の光よ~」


 避難した二人に浄化魔法を掛けるとスプラッターな表情から不機嫌と情けない表情へと変わり、メリリは頭を下げお礼を口にし、キュロットはまだ拘束されていないキャッスルベアへと視線を向けるが、その身がバランスを崩し地響きと共に倒れる。


「あの蜘蛛たちが優秀なのは理解できたけど、出番を奪われるのはちょっとねぇ~」


 片眉を上げ七味たちへ視線を向けるキュロット。七味たちは気まずそうにアイリーンの後ろや木々の裏に身を潜める。


「逆恨みはダメだぜ~七味たちが優秀でキュロットが遅れたのが悪いね~ん? それよりも追加で魔物が来たみたいだぜ~」


 血の臭いに引き付けられたのか人サイズのカエルや、二本の大鎌を掲げるカマキリに、紫色が美しい吸血蝶が木々の間から現れ顔を歪ませるキュアーゼ。


「ひっ!? わ、私はクロたちに熊退治が終わったと伝えるわ。虫は宜しくね」


 そう言葉を残して翼を翻し来た空を引き返すキュアーゼ。キュアーゼが住むサキュバニア帝国は標高が高くあまり虫などがいないこともあり苦手なのだろう。


「うふふ、これで運動ができますね~」


「私もストレスが発散できて嬉しいわ!」


 二本のダガーを構えるメリリに拳を固めるキュロット。エルフェリーンも天魔の杖を掲げ、ビスチェとロザリアはレイピアを構え迎撃態勢を取る。


「捉えたクマさんを横取りされるのは困りますからね~頑張って行きましょう!」


 下半身を魔化させたアイリーンが白薔薇の庭園を構え一気に走り出し、それに合わせてメリリやキュロットも走り出し視線の合った魔物へと向かい、エルフェリーンは魔法で作られた矢を無数に出現させ一番危険であろうカマキリの魔物へと放つ。


「破っ!」


 駆け出したキュロットの拳がカエルの眉間を捕らえ、放たれた衝撃波と共にカエルが吹き飛び木々をなぎ倒し、双剣が躍り紫の蝶の羽が切り落とされ、電撃の帯びた矢が体中に刺さったカマキリを斬り伏せるアイリーン。


「これでは、また我らの出番はなさそうじゃの」


「まだ来るわ! ブラックバイパーに……走竜もいるわ!」


 黒光りする鱗と巨大な牙が見え隠れする巨大な蛇と、走竜と呼ばれる馬車を引く魔物として認知されているが飼いならされていない野生の走竜は気性が荒く、大きく口を開け威嚇の鳴き声を上げる。


「走竜は竜と呼ばれるけどトカゲの仲間だからね~アイリーンでも簡単に斬れると思うぜ~」


「それよりもブラックバイパーの毒が危険なのじゃ」


「それなら私が、って!? ママ!」


 ビスチェが精霊魔法を使おうとしたが全力で走りドロップキックを放つキュロット。自身よりも数倍も大きなブラックバイパーを吹き飛ばす脚力を褒めるべきが、それとも無鉄砲な戦い方をするのを攻めるべきか悩むビスチェは頭を抱える。


「うふふ、走竜は前足の爪が危険ですので、避けてから首を刎ねると簡単に倒せますねぇ」


 近くのアイリーンへアドバイスをしながらメイド服を翻しながら双剣を振るメリリ。


「メリリさんほど器用じゃないですが、この程度なら問題なくやれますね~って、わらわら出てきましたけど!」


 走竜の群れが近くに隠れていたのか木々の間から顔を出し一気に数が増えるが、エルフェリーンが放つ光の矢を眉間に受け数十頭が大地に倒れ、光の粒子が飛び交い風が吹き抜けた後には走竜の首が大地に転がる。


「ははは、やっぱりエルフェリーンさまとビスチェさんには遠く及ばないですね~」


 乾いた笑い声を浮かべるアイリーン。一瞬にして血の海と化した森の一角で一美とアイリーンは浄化魔法を使い血の海になった戦闘現場を浄化し、クロが到着するまで糸で拘束したキャッスルベアに止めを刺す。


「あんなに大きかったのにこれだけ縮むと損した気になるわね」


 木々から頭が出るほどの巨体が五メートルほどのサイズへ縮む姿にビスチェは溜息を吐くが、それでも十分に巨大なキャッスルベア。


 クロが震えるキュアーゼに連れられ到着すると目の前の死屍累々現場に顔を引き攣らせながらアイテムボックスへと回収するのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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