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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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リトルフェンリル



「キャッスルベアと呼ばれるほど大きさがあれば森に入らなくても姿が見えそうですよね~」


 村を出たアイリーンの言葉に確かにと思いながら女神の小部屋の入口を開くクロ。中から七味たちが現れ事情を説明すると片手を上げキャッスルベア狩りの参加を受け入れる。


「キャッスルベアは魔力を多く持つクマでジャイアントベアやビックベアと地域によって呼ばれ方が変わるね。戦いう時や縄張り争いの時に姿を大きくさせるんだよ。ほら、小雪もアリ退治の時に大きくなったろ。あれと同じだね~」


「わふっ!」


 エルフェリーンの説明にその姿を車サイズに変え尻尾を振る小雪。アイリーンはそんな小雪に抱き付きモフモフの毛を体全体で感じリラックスし、クロもお腹を優しく撫でる。


「うむ、我の地元ではビックベアと呼ばれておったのじゃ。普段は五メートル程の大きさじゃが倍以上に体を大きく変えて戦うのじゃ。倒せば元のサイズに戻るのじゃ」


「そう、戻るから残念ベアって呼ばれるのよ。それにお肉も癖が強いからあまり美味しくないし、皮も丈夫だけど臭いからあまり好まれないわね」


「ん……狼除けになるぐらい臭い……」


「でも、殴り甲斐があるわね!」


「殴り甲斐って……」


 なんだかんだで収穫祭から最果ての村まで行動を共にしているキュロットにフランとクラン。殴り甲斐があると言いながらシャドーボクシングをする姿にビスチェは呆れ顔である。


「キャッスルベアの倒し方とはどうなのですか?」


「う~ん、安全な方法を取るとしたら拘束魔法で動けなくしてから首を落としたり、強めな魔法を使い一撃で倒したり、凍らせるのもありだね~」


「殴ればいいのよ!」


「爺さまはシャドーエッジで真っ二つにしておったのじゃ」


「カラアゲで倒せばいいのだ!」


 エルフェリーンは魔法を使い倒す案を、キュロットは拳を突き上げ、ロザリアは祖父であるラフルが倒した方法を、キャロットは倒した先の案を述べる。


「私は精霊魔法で見つけた瞬間に首を落とす方法が良いと思うけど……」


「ギギギギギ」


 ビスチェの案が一番楽だろうとクロが思っていると七味たちが一斉に手を上げる。


(索敵に出る。任せて)


 念話が脳内に流れクロが頷くと一斉に散り散りになり森に入り七味たちだけでも十分かもと思案するクロ。

 森は紅葉し落ち葉で足が取られることも考慮しながら足を進める一行。暫く歩くと木々の間隔が狭まり鳥の声や狼の鳴声などが耳に入り独特の緊張感に包まれる。


「うおっ!? でかっ!!」


 急に木々の上にクマの上半身が現れ思わず叫ぶクロ。他の者たちもその大きさに呆気に取られるなかアイリーンとエルフェリーンが走り出しクロはシールドを展開する。


(四頭確認、ついでにリトルフェンリルも十五匹)


 一美から送られてきた念話にリトルフェンリルと呼ばれる狼型の魔物も一緒だと知り、クロは小雪へ視線を向け、小雪はへっへしながら尻尾を振りクロの横に付き撫でてくれるのかな、といった期待に満ちた瞳を向ける。


「リトルフェンリルという種の狼は小雪の前で討伐していいのか?」


「わふ?」


「フェンリルとリトルフェンリルは違う種類だから問題ないと思うわよ。小雪が気に入ったらわからないけど、リトルフェンリルは白い毛の狼で北へ行くほどその種類は増えるわね。キャッスルベアと同じように地方や国によって呼び名が変わるわ」


「フェンリルに似た白い狼というだけじゃの。サイズもそれほど大きくはなくキャッスルベアと縄張りを争う天敵通しなのじゃ」


 戦闘モードに入りながらもクロの疑問に答えたビスチェとロザリアはレイピアを抜き警戒しながらエルフェリーンを追い、更にメリリとキュアーゼが走り、クロは残ったフランとクランに聖女タトーラと小雪とキャロットに白亜を抱くグワラを連れて足を進める。


「クロは行かないのか?」


「俺は非戦闘員だからな。キャッスルベアを倒したらアイテムボックスに入れる係だな」


「ん……荷物持ち……」


「そのぐらいが丁度いいが、来るぞ!」


 クロが腰に手をまわしナイフを構え躍り出た白い影へ視線を向ける。木々の間から唸り声を上げて姿を現したリトルフェンリルに、どこがリトルだよと心の中で愚痴りながらもシールドを増やすクロ。

視線の先で唸り声をあげるリトルフェンリルは少なくとも軽トラサイズであり、剥き出しにした牙は成人男性の指よりも太く長い。


「見えているだけでも五匹、一味は十五匹と報告があった。まだいるかもしれないから警戒しろよ!」


「ん……」


「お任せ下さい!」


 弓を構えるフランとクラン。聖女タトーラは素早く走り出し思わず苦笑いを浮かべるクロ。キャロットも両手を魔化させ聖女タトーラに続き、ヴァルが姿を現す。


「主さま、迎撃の許可を!」


「ああ、頼む! フランとクランは援護を頼む!」


「わんっ!!!」


 クロが指示を出し一斉に行動を開始するが小雪が大きく叫び、その身を竦ませるクロ。隣にいたという事もあり大きな鳴声に驚くクロだが、リトルフェンリルたちにはそれ以上の恐怖を与えたのかピンと立っていた尻尾は垂れ下がりその場に伏せ、走り出した二人はその光景にスピードを落としクロへと振り返る。


「えっと……小雪?」


「わふっ!」


 巨大化している事もありのっしのっしと足を進める小雪に「くぅ~ん」と情けない鳴き声を上げるリトルフェンリルたち。すぐ目の前にまで小雪が足を進めると体をコテンと横に倒して腹ばいになり服従のポーズを取り、それを鼻で軽く突く小雪。


「何だろう、小雪が苛めている様に見えるな……」


「ん……小雪凄い……」


「戦う前に敵を降伏させる実力者だな」


 服従のポーズを取るリトルフェンリルたちを見てどうしたものかと思っていると、更に追加のリトルフェンリルが現れ同じように腹を見せ降伏する。


「わふっ!」


 小雪の叫びに腹を見せていたリトルフェンリルは置き上がるとお座りの姿勢で並びクロの元へと戻る小雪。


「えっと、並んでいるが……」


「わふっ!」


「ん……クロを紹介してるのかも……」


「ああ、クロ師匠がこの群れのリーダーってことだな!」


「わふっ!」


 フランとクランの言葉にそうだと言わんばかりにひと鳴きする小雪。クロはそんなこと言われてもと思いながらも腕組みをしてアイテムボックスを起動させ、多く眠っている肉の中からクジラの赤身を取り出すと一斉に尻尾を降らすリトルフェンリルたち。


「焼いた方が美味しいのだ!」


 リトルフェンリルたちと同じように尻尾を揺らしていたキャロットの言葉にそれもありだなと思いながらも手にしていたナイフで一口サイズにカットし、横から「くぅ~ん」とお肉ちょうだいをする小雪。


「勝手にオヤツを上げるとアイリーンに怒られるかもしれないから少しな」


「わふっ!」


 小雪専用の皿に小さくカットしたクジラ肉を置くと勢いよく口にし、お座りで待つリトルフェンリルたちには木の板に乗せてカットした肉を適当に置くが口にすることはなく、小雪が食べ終え「わふ!」とひと鳴きすると一斉にカットされた肉に群がり口にするリトルフェンリルたち。完全なる上下関係が出来上がっているのだろう。


「こう見ると可愛く見えるな」


「ん……お肉は偉大……」


「十六匹もいるのですが、飼われるのですか?」


「流石に十六匹は飼うのは大変だよな……」


 一心不乱に肉を食べるリトルフェンリルを見ながらチーランダと村の人たちで飼ってくれないかと思案するクロなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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