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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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軽い打ち上げとコバルト領の問題



 王妃リゼザベールがお披露目会を終え王室の個室へと現れると拍手で迎え、夫である国王が抱き締めアリルとハミルが一緒に抱き付き、第三王妃であるカミュールも近くで寄り添う。

 そんな姿を見つめながら場違いな場所にいるなとひとり思う辺境伯のレトリーバル。そのレトリーバルには夫人のソルカが寄り添い、娘であるソルラも一緒になってレトリーバルにくっ付き笑顔を向ける。


「素晴らしいレースであったな」


「ええ、私のデビューですもの。本気で楽しかったわ」


「母さま凄かったです!」


「母さまが一番でした!」


 そんなやり取りを見つめながら家族とは良いものだなと思うクロ。メリリやキュアーゼたちも同じ思いなのかうっとりと見つめ、キャロットと白亜にリゼザベールと共にこの場に現れたルビーはメイドが運び入れたこの会場で売られている屋台料理を口にする。


「この肉串は一番なのだ!」


「キュウキュウ~」


「忙しく動き回り大変でしたが報われる思いです」


 焼き鳥のような肉串や。焼きそばに似た麺料理に、すじ肉を煮込んだスープや、じゃがバターのような芋料理などがテーブルに並ぶ。


「ん……これとか、どう見ても師匠の入れ知恵……」


「この焼きそばとか私たちの作る塩焼きそばの方が味は上だな」


 フランとクランの言葉にビスチェが焼きそばに似たそれを口に入れ「そうね」と呟きながらも味に満足する出来だったのかおかわりを盛り口に運ぶ。


「この焼き鳥とか塩ではなく甘辛いタレを使っていますね~確実にクロ先輩が関わっていますね~うまうま」


 クロへとジト目を向けるアイリーンだったがその味にジト目はすぐに消え去り表情を崩す。


「ダンジョン産の醤油と水あめを使った焼き鳥のタレだな。水あめを使って価格を抑えているから手が出しやすい値段に落ち着いたと喜んでいたな。砂糖はまだまだ高価だし、みりんとかも使いたかったが水あめだと照りが出るから代用品に丁度良かったな」


「水あめはそのまま食べても美味しいですからね~お祭りの時に食べたことがありますよ~」


「こっちのスープも美味しいぜ~お肉がプルプルでホロホロだぜ~」


「うむ、濃い味付けなのも酒が進むのじゃ」


「どれもウイスキーに合いそうです!」


 エルフェリーンにロザリアとルビーから遠回しに酒が欲しいというアピールをされ、渋々アイテムボックスからウイスキーやワインを取り出すクロ。


「すじ肉とは硬く噛み応えのある部分ですが、クロさまにかかればこのように美味しく食べられるのですね」


 すじ肉の煮込みを口にして噛み締めて味を堪能するグワラ。それを見た白亜がグワラの下へと走り大きく口を開けあ~ん待ちをし、キャロットも同じように隣に付き口を開ける。


「これでは白亜さまの巫女というよりも妹ですね……」


 呆れながらも白亜とキャロットにあ~んをするグワラだが本人も楽しんでいるのか食べた時よりも表情が明るく、姉妹のように尻尾をリンクさせ振る姿に他の者たちも笑みを浮かべる。


「ぷはぁ~レトリーバルもどうだい? アルコールが強いから注意が必要だけど美味しいぜ~」


 抱き合っていたレトリーバルたちはエルフェリーンに進められ氷を入れたウイスキーのグラスを受け取る。


「前に城の晩餐会で頂いたことがありますが、クロさまが出所でしたか……」


「白く美しいワインも一度だけ飲ませていただきましたが、こちらもクロさまが?」


「そうだぜ~クロのお陰でドワーフたちがウイスキーを作り、エルフたちは白ワインを作り始めたぜ~」


「自分はウイスキーやワインよりもこっちの缶に入った弱いお酒の方が飲みやすくて好きなのですが……他にも色々な種類のお酒がありますので試して下さい」


 そう口にしながら缶入りのビールやカクテルに酎ハイをアイテムボックスから取り出し勧め、国王や王妃たちがクロの下へと向かい各々好きなお酒を手に取り、子供用には炭酸系や果実系のジュースを進める。


「このシュワシュワが美味しいですよ」


「オレンジも美味しいです!」


「えっと、えっと、どれにしたら……」


 ハミル王女とアリル王女から違うジュースを進められ困惑するソルラに、クロは「こんなのもありますよ」とカップ系のジュースを数種テーブルに置くとアイリーンが真っ先にイチゴミルクを手に取る。


「クロ先輩は幼女に優しいですね~私も幼女なのでイチゴミルクが一番ですね~」


「幼女って……えっと、これは中でゼリーになっている飲み物で、こっちは抹茶味で少し大人向け、これはタピオカが入った甘めなコーヒーで、バナナオレやイチゴオレはミルクで甘く仕上げてあります。ひとつに選ばなくても色々と試してみて下さい」


 テーブルに広げたジュースを丁寧に説明するとビスチェやフランにクランが反応し好き付に手を出し、アリルやハミルにカミュールが手を出し選択肢が狭められるとクロは新たにテーブルにジュースを用意する。


「えっと、えっと、これにします」


 イチゴオレを手に取ったソルラはアイリーンが付属のストローを取りカップに差す姿を凝視し、同じようにストローを刺して吸い込む。


「ふわっ!? 甘いです! こんなに美味しい飲みものは初めてです!」


 目をパチパチとさせ頬に片手を添えるソラルは母の下へと向かい美味しさを伝え、ソルカが一口もらうと同じように目をパチパチとさせ驚きの表情を浮かべる。


「果実とミルクがこれほど合うとは驚きですわ……それにこのカップの美しさ……」


 イチゴと牛が描かれているカップを見つめ驚き続けるソルカ。ソルラもカップの絵を見つめ、他のカップも視線を向け見たことのないパッケージに凄い技術が使われているのだと認識を持ちクロへと視線を向ける。


「これらの技術はクロ殿が持つ特別な力だ。詮索することはせぬようにな」


 ウイスキーを口にしながら釘を刺す国王。それに感謝しながら焼き鳥に似た肉串を口にするクロ。


 ふぅ……確かにこの世界にはまだない技術が使われているのは理解できるが、この強い酒の香り高い味は恐ろしくもあるな……この酒を求めドワーフがやって来るのも理解できる……その技術まで提供するとはクロ殿の器の大きさに驚くが、ふふ、妻と娘が笑顔になった事が何にも代えがたい喜びだな。それだけでも感謝できるが……この肉串の香ばしくも甘い味は癖になりそうだな……


 焼き鳥に似た肉串を口にするレトリーバル。厳つい顔だがその表情は明るく酒と料理に満足しているのだろう。


「レトリーバルよ、コバルト領の方も豊作だと報告があったが、領地の方はどうかな?」


「はっ、小麦の収穫はもちろんですが今年は多くの赤子に恵まれました。長雨などもなく流行り病も昨年からの予防対策が功を奏しております。ただ、」


「ん? 何かあるのか?」


「はい、キャッスルベアが数頭確認され、我が領の冒険者と兵士だけでは対策が難しく……」


 眉間に皺を寄せウイスキーを流し込みアルコール度の強さに軽く咽るレトリーバル。


「ふむ、それは困った事になったな……キャッスルベアは災害級の魔物……」


 国王も同じように難しい表情を浮かべるが呆れたように口を開くビスチェ。


「あの残念クマは倒し甲斐がないわよね。巨体の割に討伐すると元のサイズに戻ってちょっと大きなクマだし、肉は癖が強くて美味しくないわ。内臓が薬の材料になるけど皮は独特の臭いが残るし……」


「爪や舌も錬金術の素材になるけど代用品の方が入手も簡単だからね~」


 ビスチェとエルフェリーンの言葉に残念クマと呼ばれる由来は理解できたが、納得がいかないアイリーンが手を上げて口を開く。


「熊は手が美味しいとか聞いたことあります。その辺はどうですか?」


 その言葉にエルフェリーンとビスチェは顔を見合わせて首を傾げるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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