コバルト伯爵たちと飴
「ピオラ!」
「お嬢さま!」
キュアーゼに抱き締められていたソルラがこちらへやって来るメイドに気が付き声を掛け、メイドも泣きはらしたような赤い瞳を拭いながら走り感動の再会を果たしたかのようなテンションで二人が抱き合う。
「あれほど一人で遊びに出てはいけないと申したではありませんか……うぐ……ぐすん……」
「ううう、ごめんなさい……ピオラ……」
キュアーゼの手から離れメイドのピオラと抱き締め合い謝罪するソルラに貰い泣きするキュアーゼ。アイリーンも鼻を啜り、メリリはピオラの青いメイド服を見つめる。
「クロさま、あのメイド服はとても綺麗ですねぇ。気分でメイド服の種類を変えるのもアリかもしれませんねぇ」
場違いな言葉を口にするメリリに困惑するが迷子が助かり良かったと思いながらもメイド服からフリフリと揺れる尻尾に目を奪われ、ピオラの種族がコボルトだと今更ながら気が付く。
「お嬢さまがご迷惑を掛け申し訳ありませんでした」
腰に抱き付くソルラを優しく抱き締めたまま頭を下げるメイドのピオラ。
「いえいえ、ソルラさまはとてもお話が上手で、自分たちが住む近隣の領主さまの娘だと知って驚きました」
「妹に似てとても可愛かったし、私は個人的にまた会いたいわ」
「ソルラちゃんにドレスを作ってみたいですね~アリルちゃんよりも少し大きなサイズにすれば丁度良さそうですね~」
「うふふ、私はメイド服の染料が気になりますぅ。鮮明な青い染料は貴方の勤める領地で作られているのですか?」
各々勝手に話し困惑するメイドのピオラ。抱き付いていたソルラは涙を拭い口を開く。
「この御方たちは『草原の若葉』の皆さまです。森を隔てていますがご近所さまです」
「『草原の若葉』の皆さまなのですか!? これはお嬢さまがご迷惑を掛け、」
「迷惑だなんて思ってないわ~ふふ、確りとした良い子ね」
再度謝罪するピオラの言葉を遮って発現するキュアーゼに深く頭を下げ、揃ってソルラも頭を下げる。
「おお、ソルラは見つかったか!」
「もう、心配したのよ!」
正装姿の男女が現れピオラが寄り添うソルラを二人して抱き締め、遅れてこの城のメイドたちが現れクロたちの姿を視界に入れると頭を下げる。
「クロさま方がソルラお嬢さまを保護して下さったのですか?」
聞き覚えのある声に影と呼ばれる集団のメイドだと気が付いたクロは「保護は言い過ぎですよ」と口を開き、ソルラを抱き締めていた男はクロへと視線を向ける。その風貌は厳つい岩のような男でありバスターソードでも軽々と振り回しそうな体躯でツノを付ければオーガに間違われるだろう。
「クロといったか……娘を保護して下さり感謝する」
「いえ、たまたま見かけただけで、一人だと不安だろうと思いメイドさんを一緒に探していただけですから」
「それでも心細かった娘を助けたのには変わらないわ。本当にありがとうね」
オーガ風の旦那とは違い、夫人は窓辺に座り読書を嗜む感じの雰囲気を醸し出しキュアーゼとは違った色気を放っておりクロは苦手なタイプだと思うも、すぐにアイリーンやキュアーゼへと話題が移りホッと胸を撫で下ろし影のメイドの後ろへと身を入れる。
「あの、影のメイドさんですよね?」
「はい、その通りでございます。クロさまは人を見る目が御有りなのですね」
「見つめというか、声ですね」
「それはうっかりしておりました。次からは声も忘れず変えさせていただきます」
コソコソと話すクロとメイドにアイリーンが眉間に皺を寄せ、お礼が終わったのかクロを手招きする。
「クロ先輩、ソルラちゃんのお父さんが自己紹介するから来て下さい! ある意味ご近所さんですからちゃんと挨拶して下さいね」
アイリーンから呼ばれ渋々といった顔を一瞬するが、深呼吸して足を向けるクロ。
「クロが最初に話しかけて下さり、飴と呼ばれる甘味を頂きました。あれはきっと高価なものだと……」
「それは重ね重ね申し訳ない。是非、支払いをさせてくれ」
「貴方、それよりも自己紹介をするべきでしょう。クロさまはエルフェリーンさまの錬金工房で働く英雄さまなのですよ」
英雄という単語に気後れしそうになるクロだったが、オーガ風の男が胸を張りクロを見据えて口を開く。
「おふぉん、私はレトリーバル・レミ・コバルト伯爵である」
咳払いし、注目を集めたレトリーバルに続き夫人である女性も口を開く。
「ソルカ・レミ・コバルトですわ。エルフェリーンさまには何度かお顔を合わせたことがありますが、英雄さまとは初めてですね。それに他の『草原の若葉』の皆さまと会えたこと、嬉しく思いますわ」
胸を張るレトリーバルの腕を取り微笑むソルカ。
「あっ! クロがいた!」
仲の良い感じを出し自己紹介を終えたところへ幼い声が廊下に響き、専属メイドを連れ走り寄りクロに抱き付くアリル王女。すぐにレトリーバルは頭を下げソルカもそれに続きポカンと口を開けて固まるソルラ。
「アリルさま、急に抱き付いてはダメだと叱られてしまいますよ」
「大丈夫です! ハミル姉さまは下でリゼ母さまと一緒です! 怒る人はいないです!」
自信満々に怒る人はいないと話すアリル王女に困った表情を浮かべるクロはあらぬ噂が立つ前にアリル王女を離そうとアイテムボックスを起動しアイリーンに飴の袋を投げ渡す。
「アリルちゃ~ん、こっちは甘いですよ~」
クロからのパスを受け取り察したアイリーンは飴の袋を両手で持ちヒラヒラさせ、両目を大きく見開き「飴です!?」と叫びクロから離れ闘牛のように走り出すアリル王女。
そのやり取りに頭を下げながらも視界に入れたレトリーバルとソルカはフレンドリーなやり取りに唖然とし、まだ口の中に飴が残るソルラは自分も駆け出したい欲求をピオラの手を握りながら必死に堪える。
「アイリーンお姉ちゃん! 飴下さい!」
「はいはい、あげますよ~何味がいいですか?」
「みんなに上げたいです! お名前はわかりませんが、そこの貴族さんたちにも飴をあげてもいいですか?」
「いいですよ~コバルト伯爵さま方ですよ。私たちが住む森の近くの領主さまです。女の子はソルラちゃんですからね」
小さな両手に飴を渡すとお礼を言ってコバルト伯爵の下へと走るアリル王女。
「クロの飴は美味しいです! みなさんもどうぞです!」
幼いアリル王女からの施しを拒否できるわけもなくオーガのような体躯のレトリーバル伯爵は膝を折り小さな飴を受け取り、伯爵夫人のソルカも微笑みを浮かべ受け取り、ソルラは王女だと教えられガチガチになりながらも受け取りお礼を口にする。
「あ、ありがとうございます……」
「えへへ、袋をこうすると破れるのですよ。ふぅ~ん、ふぅ~ん、クロ~破れないの……」
飴の外装が破れずクロを呼ぶアリル王女の姿にアイリーンやキュアーゼに影のメイドたちはホッコリとしながら成り行きを見つめ、クロが飴を受け取り開封すると目を輝かせて口を大きく開ける。
「あ~ん」
「はい、どうぞ」
「ふふふ、甘いです」
両手を頬に当て微笑むアリル王女。レトリーバル伯爵やソルカ伯爵夫人はクロとのやり取りに呆気に取られながらも見つめ、ソルラはまだ口に入っている事から隣で佇むピオラに飴を渡す。
「あ、あの、お嬢さま?」
「あげます。私はまだ口の中にありますから一緒に食べましょう」
その言葉にコボルト特有の耳をピコピコさせ尻尾をスカートの中で激しく振り喜びを表すピオラであった。
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