甘える白亜とサーキットコースの下見
翌日、息苦しさに目を覚ましたクロはぼやけた視線を自身の胸に向けながら上半身を起こし、グラリと揺れ落ちそうになる膨らみを抱え込む。毛布がずれ顔を出した白亜の寝顔に、また忍び込んだのかと呆れながらもスヤスヤと安心しきった顔で眠る白亜の頭を優しく撫でベッドに寝かせる。
「グモモモモモモモモ」
床の底から聞こえた耳慣れない騒音に一瞬驚くも視線を走らせ犯人を特定すると、どうしたものかと腕組みをするが自分だけでは解決できないと隣のベッドで寝ているシャロンへと視線を向けるが既に姿はなく、後頭部を掻きながらベッドから降り、騒音の犯人へと視線を向ける。
「お肉がいっぱいなのだ……むにゃむにゃ……」
白亜と一緒に忍び込んだであろうキャロットがうつ伏せで床に寝ており、王室が使うフカフカの絨毯の寝心地は予想以上に良かったのだろう。
「着替えてから誰かに手伝ってもらうか……」
アイテムボックスから着替えを取り出すパジャマを脱ぎワイシャツを着てズボンを上げたところで白亜が起き上がりキョロキョロと視線を走らせ、着替えているクロを発見すると勢い良くベッドから降り、キャロットの後頭部を踏んだことに驚いた白亜は翼をはためかせクロの胸に飛び付く。
「ぐっ、お肉が崩れたのだ……重かったのだ……」
ベッドから降りた際に寝ていたキャロットの後頭部を踏まれ、夢の中の大量の肉が頭に当たる夢でも見たのだろう。
「ベッドから降りる時は下に何かあるか注意してから降りような」
「キュキュウ……」
白亜なりに反省しているのか弱々しい声を上げクロの胸に額を擦り付ける。そこへノックの音が鳴りメイドを連れたビスチェが現れ小さな悲鳴が上がり、ビスチェの眉が縦を向く。
「キャッ!? も、申し訳ありません」
「朝から変態を見て怒りが抑えられないわ……」
メイドはすぐに頭を下げるがビスチェはクロの下へとドカドカと足音を鳴らしながら進み、クロは自身の姿に今更ながら気が付く。白亜が飛び掛かりその衝撃で留めていなかったズボンが落ちパンイチ姿で白亜を抱き締めていたのである。
「変な姿で白亜を抱き締めている変態には罰が必要ね!」
鼻息荒くクロを見据えるビスチェ。クロは急いで白亜を放しズボンを上げようとするが白亜は胸から離れようとせず、結果としてズボンへ手を伸ばし中腰になった所へビスチェの鋭いローキックが付き出したお尻にクリティカルヒットするのであった。
「見事なサーキットコースね!」
朝食を食べ終えたクロたちは本日のメインイベントとなるサーキットコースへ足を運んでいた。王都をぐるりと囲む高い塀を新たに増設して作られたサーキット会場は多くの市民たちも観戦できるよう数千人規模が収まる卵型の巨大会場で三つのコースが用意されている。
一般が座れる席が殆どだが、貴族用の個室のある席や王族が専用として使う個室の席などが設けられ、クロたちはそこへと案内され眼下に見えるコースの下見をしていた。
「楕円だけのコースは試走にも便利そうだね~」
「あっちのコースはうちにあるコースと同じね!」
「カーブばっかりのコースはスピードが出そうにないのじゃが、勝負を仕掛ける場面が多く見応えがありそうじゃな」
カートが好きなエルフェリーンとビスチェにロザリアはコースを見ながら攻略法を考え、クロはまだ痛むお尻を押さえつつ首に抱き付いて離れない白亜の重さを感じながら一台のカートが出発したのを視界に入れる。
「おっ、あれはルビーじゃないか?」
「試走するといっていたわね。アレが新しくタイヤを調整させたカートなのかしらね」
「うむ、タイヤが普通よりも少し大きいのじゃな。あれなら安定感のある走りになるが初速が遅くなりそうじゃの」
「その辺は腕でカバーするんだよ~速度を落とさずにカーブに入るドリフトとかに向いているぜ~」
「走りが安定するのは安全面を考慮しているのかもしれませんね」
クロの横で微笑みながらカートを見守るシャロン。
「あら、私なら安全面よりもスピードを取るわね。勝たなければ面白くないもの」
唇に手をあて妖艶に微笑むキュアーゼ。
「王妃さまが乗るカートですから安全面を取るのは仕方ないと思いますよ」
お尻を押さえてルビーの走りを見つめるクロ。
「追突事故には注意しないとですね~」
お尻を押さえるクロを見て目をギラギラさせるアイリーン。
「お菓子が貰えたのだ!」
皆がルビーの走りを見ていると両手いっぱいにポップコーンやクッキーにスイートポテトのような菓子類を持って現れたキャロット。その後ろにはメイドたちが続きテーブルに広げる。
「キュウキュウ~」
ご機嫌でクロの首から飛び降りた白亜はテーブルをよじ登ろうとするがグワラに捕まり抱き上げられ、悲しげな表情でクロへ鳴き声を上げる。
「こちらは本日からサーキットの屋台で売り出される菓子類です。クロさまの助言を参考に麦芽糖という新しい甘味を使い作りましたので経費が抑えられ、甘味でありながらもどれも銅貨数枚で購入可能になった商品です。是非ご賞味下さい」
メイドからの説明を受けテーブルに集まり口に入れ表情を溶かす乙女たち。これらのお菓子は数ヶ月前にクロが屋台料理を考えた際にアイリーンから水あめを求められ、試しに手作りしたレシピを第一王妃リゼザベールが気に入り持ち帰り再現したものである。
水あめ自体は作ることは難しくはなく、でんぷん質を酵素で糖化できれば完成する。大変なのは温度管理ぐらいで六十度を保ち八時間ほど糖化させる必要があり、職人が付きっきりで温度を確かめ量産に成功したのである。
「スイートポテトはこの前クロが作ったのが美味し過ぎたね……」
「しっとりしたクッキーが美味しいのだ!」
「このポップコーンは新年祭の時に来た商人が広めたのかしら?」
「バターの風味が美味しいですね」
「うむ、この味で銅貨数枚なら飛ぶように売れるじゃろ」
「キュウキュウ~」
「白亜さま、あまり食べ過ぎては昼食が食べられなくなってしまいますよ。ここで新たに売り出される屋台料理も後から運ばれてきますのでクッキー数枚に我慢して下さい」
「キュウキュウ……」
悲しそうな声を上げる白亜にクロが半分食べたスイートポテト風の菓子を口元へ持って行くとクロの指ごと口に入れペロペロと舐める白亜。
「白亜は指を噛まないと思っていたが、舐められるのは想定外だな……」
おしぼりをアイテムボックスから取り出し手を拭くクロ。
「うふふ、こうした甘味を食べながらカートの観戦ができるのは楽しそうですねぇ」
「来月からは本格的に運営致します。国営ギャンブルとして専用のチップで賭けることもできますのでご利用下さい」
お菓子を運んできたメイドが頭を下げながら説明しメリリとロザリアの瞳が輝く。
「それは楽しみなのじゃ」
「うふふ、一獲千金も夢ではなさそうですねぇ」
「これはギャンブラーの血が騒ぎますね~」
ニヤリと口角を上げるアイリーンに、クロはお尻を押さえながらエクスヒールを所望するのであった。
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