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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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ダークスワローと影



 商業ギルドを出ると群衆の姿は減っており数名がキラキラした瞳をヴァルに向けているだけで、クレーム客の姿はいなくなっていた。


「数日中にレシピを公開すると伝えたのが良かったですね」


「ヴァルを見て祈っている人が残っているがな……」


「私を祈っているのですか? あれは主様へ祈りを捧げているのでは?」


「俺相手に祈るとか、それこそ御利益はないだろ……はぁ……何だかが疲れたから早く戻ろうか」


「それが宜しいかと、暗闇は襲撃者に有利になりますから」


 そんな話をしながら人が少なくなった大通りを進む。まだ酒を飲み騒いでいる者たちもいるが一般人などの姿は少なくなり、騒いでいるのは冒険者と飲んだくれた兵士ぐらいだろう。


 誰かに絡まれることなく足を進め王城へと辿り着いたクロは門を守る兵士に会釈をするとすんなりと通され中庭に辿り着く。


「まだ屋台をやっているとは思わなかったな」


 中庭では七味たちが料理を振舞っているのか兵士やメイドたちがベイクドポテトとモツ煮込みではなく、カラアゲや串焼きにスープを口にしている。


「クロさま、お戻りになられましたか」


 そう声を掛けてきたのは執事姿の細身の白髪交じりの男で手には魔法で作られた光球で辺りを照らしている。


「遅くなりましたが師匠たちはもう中でしょうか?」


「はい、皆さまは王族用のサロンと割り振られた部屋へと御向かいになられました」


 微笑みながらそう口にする執事にお礼を言って足を進めようとすると見知ったメイドが現れヴァルがランスを構える。


「主様、この者はあからさまに怪しいのですが」


 ヴァルの指摘に聖女タトーラが拳を構えクロの前に立ち、クロは気まずそうな表情を浮かべながら口を開く。


「ああ、このメイドさんは大丈夫だよ。きっと、影と呼ばれる人たちだろうから」


「その通りです。先ほども影ながら見守らせていただきました」


 微笑みを浮かべ口にし、流れる所作で一礼する影メイドと執事の男。どうやらこの男も同じ影と呼ばれる存在なのだろう。


「やっぱりそうだったのですね。護衛をありがとうございます」


 クロから出たお礼の言葉に一瞬目を見開く二人。お礼を言われるとは思っていなかったのだろう。


「嫌悪されるかと思っていたのですが……」


「我々が監視していたと取られる事の方が多いのですが……」


「それは考え方次第だと思いますよ。自分は監視されているというよりも何かあったら助けてくれるだろうと思っていましたし、師匠に連絡が行けば大抵の事は解決すると思っていますから」


「エルフェリーンさまに伝われば、確かにその通りですな」


「ふふ、その通りですね。仮にクロさまが拉致されたとしても我々が事態を伝える事さえできればエルフェリーンさまが即座に動きますね」


 納得したのか二人の影は微笑みを浮かべ、拉致という聞きなれない単語を耳にしたクロは顔を引き攣らせる。


「その様な事がないように我は動く心算です」


「私もです。襲撃者には重いと評判の拳でボディーを重点的にぶん殴る予定です!」


 ランスを手に宣言するヴァルとシャドーボクシングをしながら答える聖女タトーラ。クロは何事もなくて良かったと思いながら苦笑いを浮かべる。


「我々が動かなくても天使さまと聖女さまが御守りになる……クロさまは神のような存在なのですね……」


 執事の男の呟きに自分が神になるとか想像ができないが、襲撃者への過剰暴力が鮮明に思い浮かび皿に苦笑いが加速するが、料理を手にした一味が現れ頭の中に念話が流れる。


(クロ、料理を食べるといい。空腹は思考を鈍らせる)


「ああ、これから少し貰うよ。今日は作ってばっかりであまり食べていなかったな。聖女さまとヴァルも何か食べないか?」


「我はこのまま警護を続けます。不穏な気配はありませんが興味を持った視線を感じますので」


 そう口にすると空気に溶けるように姿が消え、影の二人は感嘆の声を漏らす。


「私も頂きたいです。先ほどから美味しそうな匂いにお腹が刺激されて」


 両手で腹部を押さえる聖女タトーラ。


(すぐに持ってくる)


 一美が素早く動き出し料理中の七味たちの下へ合流すると一斉にこちらに向かい両手を振りお尻を振り、まわりで料理を口にしていたメイドや兵士たちが盛り上がり七味たちの視線の先にいるクロに気が付いたのか声を上げる。


「クロ殿! 今宵は御馳走になっております!」


「蜘蛛殿たちの料理は最高ですな!」


「魔物という概念が変わりそうです!」


「ギギギギギ」


 兵士やメイドたちと共に声を上げる七味たち。七味たちは普段から料理をしておりそれを披露する場ができ嬉しいのか、ご機嫌に声を上げ両手も上げお尻を振り、七味が皿に料理を盛ると掲げるようにして運びクロの下に届ける。


「こちらの席へどうぞ」


 影のメイドに案内され開いているテーブルに腰かけると四美が更に料理を追加で運びお腹の音を盛大に鳴らす聖女タトーラ。


「冷めないうちにいただきましょうか。影の皆さんも食事がまだなら如何ですか?」


「お気遣いありがとうございます。では遠慮なく」


 そういって腰を下ろす影の二人。クロも料理に手を出そうとすると一斉に手が出て驚き、見れば五人掛けのテーブルには囲むように八名のメイドの姿があり、いずれも影と呼ばれる隠密集団なのか素早くカラアゲを口に入れ串焼きを手に持ち咀嚼している。


「一瞬にして料理が……消えました……」


「ギギギギギ」


 一部始終を見ていた四美が急ぎ屋台へと戻り追加の料理を五美や六美と運びテーブルが賑やかになり、クロはアイテムボックスから比較的アルコール度が低そうなワインや缶入りの焼酎を取り出して影たちに進める。


「このお酒ならそれほど明日に残さないと思うので良ければ如何ですか? どれも甘く飲みやすい物ですよ」


「これはこれは、お酒までありがとうございます。我々は影であり名乗ることは禁止されておりますが、影を代表して感謝いたします。って、それは私が狙っていたお酒ですよ!」


 素早く手が伸び缶の焼酎が消え、執事はビスチェが普段から飲んでいる白ワインを開けグラスに注ぎ入れ、クロは追加の焼酎缶を置くとメイドたちは目を輝かせる。


「このスープは雲が浮いているようですね」


「ワンタンスープですね。白く浮いているワンタンは小麦で作り、中には肉や魚を入れた具が入っているので火傷に注意して下さい」


「はふはふ、エビが入っていました。とても美味しいです」


 聖女タトーラが表情を溶かしたのを確認した影たちが一斉にワンタンスープを口に入れ同じように表情を溶かし、熱くなった口内を甘めな焼酎で冷ます。


「私はてっきり蜘蛛の糸を使った料理なのかと思いました」


「色々な具を入れても楽しめそうです」


「中身は食べるまで分からないのが面白いです」


「ツルンとした食感は癖になりますね~」


「串焼きも色々な種類のお肉を使っているのか、この皮がパリパリとする串がとても美味しいですな」


「それはアイリーンがよく狩りで獲ってくる鳥ですね。ダークスワローとかだったかな?」


 執事の疑問に答えるクロだったが影たちの動きがシンクロしたようにピタリと止まり、何か不味いのかと思い再度口を開く。


「あ、あの、宗教的に食べてはダメとか、毒があるとかじゃないですよね?」


「いえ、その様な事はありません。ありませんが……ダークスワローは素早い動きで狩るのが難しく、更に森の深い所でしか生息していないので……」


「ダークスワローの羽は光沢があり美しく金貨よりも価値のある……」


「どこぞの王族がその羽を求め、派遣された軍が壊滅したとか聞いたことが……」


 口々に驚きの声を聞かせる影たち。その羽は解体作業でお手軽に毟って燃やし、畑の肥料にしている事を思い出し、余計な事は口にしない方が良いだろうとワンタンと一緒に飲み込むのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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