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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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サワディルとスレイン



「あらあら、今年の収穫祭は人手が少ないのねぇ」


 錬金工房草原の若葉支店を出たスレインは大通りの両側にひしめくように設置された屋台の割に人の気配が少なく普段よりも人がいない現状に首を傾げる。


「うん? もしかしたら皆でお城の前に言ったのかな? そうなのかな?」


 サワディルは数日前に錬金工房を訪れたエルフェリーンの自慢話を思い出し、首を傾げた頭をぶんぶんと横に振る。


「クロちゃんの料理が美味しいのは知っているけど、収穫祭の人々がいなくなるほどの人気なのかしら?」


「クロの料理は美味しいからかな? 行ってみるかな?」


「う~ん、もし、そうだとしたらお城の前は人で溢れていると思うわ。そうなるとずっと待つことになるだろうから、今はこっちの屋台を軽く見て昼食にしましょう。午後は魔道駆動用の魔石の錬成もまだまだ残っているでしょう」


「うへぇ~、魔石の錬成は苦手なのに大量の仕事を受注しちゃったかな~貴族の依頼は報酬がいいけど魔石の錬成は苦手かな~」


 愚痴りながら足を進めるサワディル。スレインは微笑みながら近くの屋台を一望して足を進める。


「お客さんが十人ぐらいしかいないかな~あの串焼きの屋台とかいつもは大行列を作るかな~」


「あっちのから揚げの屋台も大人気なのにねぇ。ふふふ、あの屋台は店主もいないわね」


 見れば無人の屋台もありほぼ人気のない収穫祭の屋台群に驚きながらも微笑むサワルディーとスレイン。


「スレインさま、たまにはうちの屋台はどうです?」


 大通りで昼食に何を食べようか悩みながら歩くスレインに声を掛けたのは果実をその場で剥きカットする屋台の男。近くの村で採れた果実を持ち込み出稼ぎに収穫祭へ参加した男である。


「あら、うふふ、懐かしい顔ね。前に採取をお願いしたわね~」


「はい、その節は怪我の治療までお世話になり助かりました」


「師匠の知り合いかな~私はスレイン師匠の弟子のサワディルかな~ん? 美味しそうな果物がいっぱいかな~」


 屋台には多くの果物が並びナイフをきらりと乱反射させ、リンゴをひとつ手に取るとあっという間に皮を剥き木皿にカットされたリンゴが並び木製のフォークを添える。


「味見にどうです? あの時の礼ってことで」


「あら、いいのかしら」


「もちろんです。あの時は腕を失う可能性だってあったんだ。今、こうして果実が剥けるのはスレインさまのお陰だ。腹いっぱい食ってくれても……それは困るが、味は保証する」


 ニッカリと笑いながら皿を差し出す男にサワディルは笑顔で受け取り、スレインへ差し出しながら自身の口へカットされたリンゴを入れる。


「おうひぃモグモグかな~」


「もう、喋るか食べるかどっちかにしなさい。私も頂くわね」


 シャキシャキとした歯応えと適度な甘さに酸味と香りが口内を駆け抜け表情を溶かすスレイン。サワディルは次のリンゴを口に入れる。


「とても美味しいわ。クロちゃんたちのお土産に皮を剥かない果実をいくつか買って行こうかしら」


「ならお勧めがある。これとこれに、この変わった形の梨も香り高くて甘いです。」


「本当に変わった形ね」


「梨というよりもこん棒かな~」


 こん棒のような形をしているが上部にはヘタがあり独特の手触りに鼻を近づけると甘い香りが確認でき微笑みを浮かべながらアイテムバッグに入れるスレイン。


「銅貨十七枚になります」


「あら、そんなに安くていいのかしら?」


「割り引いていますが、この人出を考えると腐らせるよりも売って帰りの荷物は減らしたいですから」


 苦笑いを浮かべる屋台の男。


「すぐにとは言わないけど、もしかしたら人出は戻るかもしれないわよ」


「そうそう、たぶんだけど皆はお城の前の屋台に行っているかな~エルフェリーンさまが宣伝して皆で行っているのかな~」


「なるほど、この人の少なさには理由があるのですね……」


 腕を組み納得したのかひとり頷く屋台の男。


「ほら、戻って来たかな~」


 数名の団体がお城へと続く道を歩きこちらへ向かって来る姿が見えホッと胸を撫で下ろす男。戻って来る人々はこの辺りの屋台を手伝っている家族が多いのか、手にしたモツ煮込みとベイクドポテトを店番していた者たちと口に入れ表情を溶かす。


「こりゃ美味いな! 特別に屋台を王城の前に設置許可が下りるのも頷ける!」


「でしょ~お城の前には新年祭ぐらいの人だかりだったもの」


「あの様子だと今日中に売り切れになるかもね。朝一から並んだ甲斐があったわ」


「エルフェリーンさまが商業ギルドで宣伝していたのをたまたま聞いたが、クロという男は本当に凄い料理を考えたものだな……」


「お芋がこんなに美味しくなるのもビックリね。最近では揚げ物という料理が流行っているけど、それもクロが流行らせたらしいわよ」


「カラアゲの屋台も今は空いているだろうから買って来る!」


 自然に耳に入る屋台を経営する家族たちの声にスレインは微笑みを浮かべ、サワディルはドヤ顔を披露する。


「そのクロの姉弟子が私かな~クロの料理は見たことがないものが多くて、どれも味が最高かな~なかでもとんかつという料理が最強かな~」


「へぇーそりゃ食べて見たいが、屋台の事もあるし、明日以降に売れ残っている事を願うよ」


 少し悲しそうな表情を浮かべる屋台の男。スレインもまだ仕事が残っている現状で時間をかけ行列に並ぶ事ができないと思案していると、サワディルが走り出す。


「私が買って来るかな~」


 宣言して走り出すサワディルにスレインは呆気に取られるもその優しさに微笑みを浮かべ、もしかしたら苦手な魔石の錬成から逃げたのでは? という、疑念も浮かび口に手をあて肩を揺らす。


「元気のあるお弟子さんで羨ましいですね」


「ええ、元気だけは人一倍ありますね。ふふふ、転ばないといいけど……」


 小さくなってゆくサワディルを見つめ屋台の男と笑い合うのだった。







「うへぇ~こりゃ凄い行列かな~」


 サワディルの視界には数百人規模の群衆が目に入り顔を引き攣らせ、最後尾と書かれたプレートを持つ兵士と目が合い手招きされ素直にそちらへと足を向ける。


「ここが最後尾だ。この様子だと列はまだまだ長くなりそうだぞ」


「ですよね~実は私、錬金工房草原の若葉支部の物でして、手伝いに来たかな~」


 そう口にしながら錬金ギルドのカードを見せる。


「ん? 屋台の料理を買いに来たのではないのか。どれ……ああ、どこかで見た顔だと思ったんだよ。サワディルさんか、ポーションを兵舎に届けたのを覚えているよ。ほら、こっちから入るといい」


 三角コーンを繋ぐコーンバーを外し広場へと続く道へ手を添える兵士。


「おっちゃんありがと!」


「おう、いつもポーションをありがとな! 気を付けて行けよ!」


 手を振りお礼を言うと行列の間を走り抜けるサワディル。時折止められたが錬金ギルドのカードを見せると兵士たちは笑顔で道を開け、行列が途切れ屋台が目に入り手を振りビスチェやエルフェリーンと再会する。


「エルフェリーンさまにビスチェ~来たよ~」


「サワディルじゃないか。相手をする時間はないけど、もしかして手伝ってくれるのかい?」


「それなら中でベイクドポテトを手伝って! 予備がそろそろ終わりそうなの! 中庭で作業するクロに伝えて!」


 必至に手を動かすビスチェと仁王立ちで行列に睨みを笑顔で利かせるエルフェリーン。


 あれ? 私は屋台を手伝いに来たっけ? 錬金ギルドのコネを使って行列をすっ飛ばして買いに……まあいいか! 魔石の錬成は苦手だし、エルフェリーンさまたちを手伝えばスレインさまに怒られないかな~


 ビスチェからのお願いに「任せるかな~」と了承し、中庭へと足を進めるサワディルであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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