屋台料理の増産
城の中庭へと移動したクロたちは芝生の一角に焚火シートを敷き急いでレンガを積み上げて竈を作る。ちなみに焚火シートとはキャンプ用品で焚火台の下に敷き火の粉から芝生などを守る役割があり、アイテムボックスからレンガを取り出し目隠しにし、その陰で魔力創造した物である。
「大鍋が安定して乗る形になれば問題ないので、この形を参考にレンガを組み上げて下さい」
クロとアイリーンが竈を立てながら手伝いに参加するヨシムナとライナーに説明しながら組み立て、その横ではルビーやシャロンにキュアーゼにグワラにキャロットが手伝い既に三基の竈を作り上げている。
「クロ先輩、どのぐらい作る心算ですか?」
「最低でも二十基は欲しいかな。モツ煮込みとジャガイモを下茹でする窯に、オーブンとして使える窯もいるからな」
「そうなるとあっちのベイクドポテトの窯で使っているような蓋がいるのかしら?」
「そこは問題ないです。あの蓋できるオーブン以外にも折り畳み式のオーブンがありますから」
そう口にしながら竈の影に隠れるようにして魔力創造を使い、雑誌で見た事のあるステンレス製の折り畳み式オーブンを創造する。
「組み立て方も簡単ですから一つ作ってみますね」
テキパキと手を動かし完成させるとまわりからは歓声が上がりクロが用意した竈の上に乗せる。内部は二層の網がセットできベイクドポテトも焼くことができるだろう。
「折り畳み式とは便利ですね~」
「これなら旅先やダンジョンでも美味しい料理が食べられますね」
竈を作る手を止めステンレス製の折り畳みオーブンに感心するアイリーンとシャロン。だが、それを見たヨシムナとライナーは唖然とした表情を浮かべ、手伝っていたメイドや近衛騎士たちも同じ気持ちなのかレンガを作る手が止まる。
「なあ、クロたちはダンジョンに潜った時でも料理をするのか?」
「ダンジョン探索中に料理とか魔物を呼ぶわよ」
ダンジョンの罠でクロとはぐれたヨシムナと聖騎士として死者の迷宮に潜ることがある聖騎士のライナーからの言葉に、目を数度ぱちくりさせたルビーは腕を組みドヤ顔を浮かべる。
「そこはクロ先輩ですから料理してくれます。魔物が出現しないセーフエリアで料理してくれましたし、美味しいお酒も振舞ってくれました!」
「ルビーさんを助けた時ですね~ドワーフの皆さんやロザリアさんと出会ったのもその時ですね~楽しい宴会の後は朝風呂も用意してくれましたね~」
「うむ、あの時は楽しかったのじゃ。それにクロの料理や酒も美味しかったのじゃ」
「そうだね~ラルフも驚いていたね~僕はそれが嬉しかったよ~」
ロザリアとエルフェリーンが屋台からこちらへ足を運び耳にした会話に混ざる。
「私もクロと一緒にダンジョンに行きたいです!」
「それは楽しそうです! マヨを使った料理も出してくれると期待できますね」
「流石にそれは許可できないわ。二人には悪いけど王女として最低限の安全が保てない場所へは許可はだせないわね」
レンガを一生懸命組み上げていたアリル王女とハミル王女を止めようと口を開くリゼザベール王妃。
「ええ~ママもパパに止められているのにレーシングカートに乗っているのです!」
「それはそれ、これはこれよ! 私は二人が危険なダンジョンに潜ると心配だもの! アリルは私がカートに乗って走るのは嫌いなの?」
「カッコイイです! ビューって走るママはカッコイイです!」
「レースに出ている姿は確かに凛々しいですね……」
レンガを置き両手を上げて叫ぶアリル王女。ハミル王女はぷっくりした顎に手を当て呟き、二人を抱き締めるリゼザベール王妃。
「そうでしょう、そうでしょう。だからダンジョンはダメよ。パパも心配してお仕事が手につかなくなっちゃうわ。今日のようにクロ殿がいる時はダンジョンのお話を聞いて我慢してね」
「はい! クロにお願いします!」
「そうですね。クロさまにお願いすればダンジョンよりも楽しい冒険をしているでしょうし、マヨの新たな可能性を知る事もできると思います」
抱き付きながら首をクロに向ける王家三名にクロは話題を反らすべく声を上げる。
「フランとクランは竈に鍋を置いてお湯を沸かしてくれ。薪は大量に用意してあるからすぐに火をつけて、七味たちをそろそろ呼ぶか」
「そうですね~女神の小部屋で待ち焦がれていると思うので早く出してあげて下さい」
クロが女神の小部屋の入口を出現させ中へ覗き込み「悪いが料理を手伝ってくれ」と声を掛けると片手を上げて了承する七味たち。わらわらと姿を現すとメイドたちから悲鳴が上がり剣を手に掛ける警備兵。だが、アリル王女が飛び出して両手を上げる。
「この子たちは良い子です! 剣を向けちゃダメです!」
≪この子たちは人を襲わないように言いつけています。悪い蜘蛛じゃないよ≫
アイリーンが大きな文字を浮かせ両手を上げ叫んだアリル王女の横に付くと抜きかけた剣を渋々鞘に戻す警備兵。手伝っていたメイドたちは顔を青くしたままだが片手を上げて挨拶をする七味たちの姿に一人のメイドが吹き出し、他のメイドたちも思っていたよりも怖い存在ではないと認識したのか表情が崩れはじめる。
「この子たちは七味と呼ばれる蜘蛛たちでアイリーンさまのご友人です。とても料理上手なのですよ」
ハミル王女もアリル王女の横に付き一美の頭を優しく撫でるとまわりからは完全に恐怖心が和らぎ、アイリーンと共にクロがアイテムボックスから取り出したテーブルに集まり野菜のカットを始める。
「なあ、本当に人を襲わない魔物なんているのか?」
「ん? さあ、それはわからないが七味たちは大丈夫だと思うぞ。もちろん襲われたら反撃するだろうが、ちょっかいを出さなければ七味たちから手を出すことはないな」
「へぇ~魔物をテイムして戦力にすると聞いたことがあるが、料理をさせるのはどうなの?」
疑問をぶつけるヨシムナと呆れた表情を向けるライナー。クロはその料理を教わりに草原の若葉へとやってきたとどう説明したものかと思案するが、アイリーンからピーラーを求められアイテムボックスから取り出し届ける。
「ヨシムナとライナーさんもこっちで野菜の皮むきを手伝って下さい」
「おお、わかった!」
「よし、前に天界で会った時も誰かに噛みついたりしなかったよな。大丈夫、大丈夫なはず」
ヨシムナは特に問題なくアイリーンの下へ向かい、七味たちは大丈夫と自分に言い聞かせながら震える足を進めるライナー。アイリーンの横に並ぶとピーラーの使い方をアリル王女と共に教わり大根の皮を剥き始めると夢中になり手を動かす。
「ん……ジャガイモを茹でる」
「ベイクドポテトの作り方も教わったし頑張らないとな!」
「ん……来年は里でも芋を育てる……」
「そりゃいいな! ポテトフライにしても美味いし、ポテトサラダにしても美味いからな!」
『草原の若葉』に訪れていたフランとクランも以前、成樹祭という祭の料理をクロに考案してもらい助けられ、この度の収穫祭を手伝うと名乗り出て大鍋を前に大量のジャガイモを茹でている。ちなみに一緒にきていたキュロットはビスチェと共に屋台に残りモツ煮込みやベイクドポテトの提供の仕方などを教わり、わらわら集まる人々に睨みを利かせ用心棒のような態度でビスチェと共に屋台の前で仁王立ち中であった。
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