増える人と戦力補充
近衛兵に手伝ってもらい行列対策の三角ポールを設置していると公務を終えたダリル王子が現れ、クロに手を振りエルフェリーンへ頭を下げる。
「おいおい、次期王さまが錬金術師に頭を下げるのはまずいと思うぜ~」
腕を組み少し意地悪そうな表情を浮かべ口を開くエルフェリーン。しかし、ダリル王子は顔を上げ晴れやかな表情を浮かべている。
「エルフェリーンさま方には多くの御力をお借りしている自覚はあります。流行り病に加え、ダンジョンからの産出物や、レーシングカートに、事業にドワナプラの一件もそうです」
「マヨの事もそうですわね」
「チョコもです!」
ダリル王子の横にはハミル王女とアリル王女が並び二人の好物を口にするが、そうじゃないだろうと思うクロ。
「マヨの件もそうですね。養鶏の事業は思いのほか上手く行っております。卵を使った料理や卵を産まなくなった鳥を安価で売り出すことで民たちも喜んでおりますから」
ハミル王女が企画し軌道になった養鶏事業を口にするダリル王子。ハミル王女はドヤ顔を浮かべ「全てはマヨの副産物です!」と言い切る。
「あはははは、そうだね~そう考えると、僕とクロのお陰だね~まあ、皆が手伝ってくれている事でもあるよ~」
「薬草採取や流行り病の特効薬はみんなでしたし、レーシングカートに使う魔道駆動はルビーと鍛冶ギルドが手伝ったものね。ダンジョンから新たな食材や調味料はクロが掛け合ったし、この国に対しての功績は計り知れないわね!」
ドヤ顔を浮かべ口にするビスチェ。他の草原の若葉たちもうんうんと頷きクロは設置を兵士たちに任せダリル王子の下へ向かう。
「先ほど国王陛下さま方へ屋台の料理の味見をしていただいたのですが、ダリル王子も如何ですか?」
「願ってもないですね。リュシュの分も頂けますか?」
ダリル王子の専属メイドであるリュシュは継承の儀の際に洗脳を受けダリル王子にナイフを向けたが、それでも信用に値する人物であるとダリル王子自らが雇用し専属メイドとして今でも仕えている。
「もちろんです。すぐに用意しますのであちらの控室の方でお待ち下さい」
「ああ、宜しく頼む」
二人をメリリが案内し、クロはベイクドポテトをオーブンで温めメルフェルンがモツ煮込みを容器へと入れ、メイド長がそれを持ち控室へと運ぶ。
「一度に三十個ほど温め回転は速いと思うが……」
「あの人だかりですからね~」
「予め提供できる状態にした物も用意した方が良さそうですね……」
クロとアイリーンにメルフェルンの視線はロータリーの外で列を作る群衆に向けられ、祭り開始まであと一時間はあるのだが減るどころか増える人々に苦笑いを浮かべる。
「うふふ、用意してきた大鍋とベイクドポテトが初日に完売したら明日はゆっくりと収穫祭が楽しめますねぇ」
一人前向きなメリリ。しかし、それを聞いたエルフェリーンとロザリアは顔色を青く変える。
「そ、それは困るぜ~だって僕が色々な所でクロの料理の美味しさをいっぱい自慢したから……」
「我もエルフェリーンさまと一緒になって自慢したのじゃ……それなのに初日で完売してしまったら自慢された者たちに恨まれるのじゃ……」
「何で自慢したんですか……」
「だってクロが屋台を出したら絶対に美味しいし、現に美味しかったぜ~薬師ギルドや冒険者ギルドに教会でも自慢したぜ~」
「錬金ギルドや商業ギルドでもモツ煮込みの味を感情を込めて教えたのじゃ……あれだけ大きな鍋に作れば足りると思ったのじゃが……」
エルフェリーンは何故かドヤ顔で話し、ロザリアは俯き話す。そんな二人の期待に応えるべくクロはアイリーンを手招きして控室へと足を向ける。
「とても美味しいですよ!」
クロが控室に入るなりダリル王子からの声に驚くが片手を頬に当て表情を溶かしベイクドポテトを口にする姿に微笑み、クロは口を開く。
「すみません。一つお願いがありまして……」
クロの言葉に表情を溶かしていたダリル王子はフォークを置き、国王や王妃たちも視線を向ける。
「願いとな?」
「はい、人が予想以上に集まっているので用意してきた料理が足りなくなる可能性があり、中庭の一角を借りてその場で調理する許可を頂きたく……」
「うむ、構わん。好きに使うがいい。食材や薪などが足りない時は近衛に声を掛けよ」
ビックリするほどアッサリと許可が下り、目をぱちくりと数回動かすクロ。アイリーンはついでに戦力を増やそうと更に口を開く。
「七味たちの手を借りたいのですが、それも構いませんか?」
「クモさんたちですね!」
物怖じせず七味たちと仲良くなったアリル王女からの言葉に若干顔を引き攣らせる国王だが、「人に害を与えないのなら許可しよう」と声にする。
「やりましたね! これなら量産スピードが数倍に上がりますよ!」
「私も手伝います!」
「手伝います!」
作業の手が増え喜ぶアイリーン。加えてハミル王女が手伝うと宣言し、アリル王女が両手を上げてこちらも手伝いたいと声にする。
「二人は手伝う予定であったが、クロ殿の邪魔にならないかしら?」
「大鍋をゆっくりと混ぜる係なら大歓迎ですよ」
心配する王妃リゼザベールにクロが答えると二人は喜び、アイリーンが補足すべく口を開く。
「大鍋を混ぜる時は秘密の呪文を唱えなければなりません。美味しくな~れ、美味しくな~れ、とちゃんと言って混ぜられますか?」
「はい、がんばります!」
元気に返事を変えるアリル王女。ハミル王女もコクリと頷きややプニッとした腕に力を込めて構える。
「私も今日は予定がないから手伝わせていただくわね」
「明日はレーシングカートのお披露目会がありますから火傷などは注意して下さいね。私はミミルの所へ戻りますわ。クロさま、安全だとは思いますが無理をするタイプなので注意してやって下さい」
第一王妃であるリゼザベールも手伝うと宣言し、それを心配するカミュール第二王妃は自身が生んだ赤ちゃんのミミルの下へと控室を後にし、クロたちも時間が惜しいとお礼を言って退出し付いてくる王妃リゼザベールとハミル王女とアリル王女。
「クロさま、ヨシムナさまとライナーさまが面会したいとこちらにきているのですが、邪魔なようでしたら殴って追い返しますが……」
控室から出ると大人しくしていた聖女タトーラからの報告を受け、顔を引き攣らせるクロと傍にいるヨシムナとライナー。アイリーンは肩を揺らして笑いながらも貴重な戦力が増えたと喜ぶ。
「ライナーさんとヨシムナさんには手伝ってもらいましょう! 野菜の皮を剥くだけでも貴重な戦力です!」
笑いを堪えながら二人を手伝わせ隙を付いてライナーと話そうと画策する。
「そうですね。ヨシムナもピーラーなら使えるだろうし、親友の頼みを断るほど酷い奴じゃないだろ?」
「そりゃ、手伝いぐらいするが……」
「私も料理は得意じゃないが、手伝えるのなら手伝うわ。大司教さまからはその為に行って来なさいと言われたしね」
「あの大司教様がですか?」
聖女タトーラが訝し気な視線をライナーに向ける。
「ええ、聖女タトーラさまがクロさまに迷惑を掛けていたら連れ戻すようにとの命令もされていますから」
「そ、その様な事はありません! 私はクロさまに追従して……」
そう言葉にしながらも内心では何の役にも立たずにクロの料理を口にし、毎日美味しいものを食べているだけだなと反省する聖女タトーラなのであった。
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