可哀想な純魔族とクロの過去
「この辺りでいいかな。では、亜空間結界を開けてくれるかい」
「まだ生きているか先に確認させて下さい。師匠に何かあったらビスチェが悲しみますからね」
「ははは、嬉しい事をいってくれるけど、生きていた方が僕には都合がいいんだ。ドロップ品とは違い好きな部位をもぎ取れるからね」
二人は先ほどの草原へと戻り閉じ込めた純悪魔の確認へとやって来ていた。
「さらっと恐ろしい事いいますね。それなら聖属性のシールドを付与しますから」
「うんうん、そうやって妥協してくれるところは好きだよ。もう感謝だね」
クロがエルフェリーンへと手を翳し聖属性のシールドを付与すると体のまわりから薄らと白い光が溢れ出す。続いてアイテムボックスである亜空間に干渉し小さな穴を開けると弱々しい声が漏れ聞こえてくる。
「殺してくれ……殺してくれ……」
漏れ聞こえてくる声を耳に入れ顔を歪めるクロに対して、エルフェリーンは頬笑みを浮かべ手で押し広げる様にして内部へと足を進めた。
数秒後には中から漏れ聞こえてきた悲鳴に耳を塞ぐクロはエルフェリーンの方が悪魔的だと思いながら十五分ほど警戒しながら待ち続け、笑顔で出てきたエルフェリーンに数歩後ずさる。
「見てくれよ! 魔石に爪に心臓と目に牙だ! これだけあれば色々と楽しい物が作れるぜ! 王家には呪い返しの指輪を作るとして、防犯に使える悪魔の目や呪いに特化した結界も複数作れるぜ! ああ、楽しい日々がまた始まるね!」
クロはドン引きである……
紫色の体液が滴る心臓だと思われる赤黒いそれからは薄らと瘴気が昇り、手にした皮の袋からも見えてはいけない黒い渦の様なものが視認できたのだ。それらを笑顔で掲げるエルフェリーンにクロが引くのも無理はないだろう。
「えっと、おめでとうございます?」
「ああ、これもクロのお陰だぜ。暇な時にでも呪いのやり方を伝授しようじゃないか!」
「遠慮します……俺はもっと普通のポーションとかで十分ですから、それを持って近づかないでくれませんか? って、走るな! 寄るな! あっち行けーーーーーーー!!」
草原に響く拒絶の声にエルフェリーンが少しだけ凹んだのは仕方のない事だろう。
一方、留守番をするビスチェは第二王子たちとお茶をしながら話をしていた。人見知りなところがあるビスチェだったが、一緒に食事をしたこともあり人見知りを発動する事もなく、錬金の話からはじまり師匠であるエルフェリーンやクロの話に盛り上がる。
「それでね、クロを師匠が拾ってきたの。最初は凄く挙動不審だったけど今では挨拶もするようになったし、食事の支度や掃除に錬金の真似後ともしているのよ」
「聖王国の勇者召喚に巻き込まれたのか……」
「何やら壮大な人生を送られているのですね……」
「しかし、勇者さま方は魔王を倒し帰還したと耳にしたのですが……」
「勇者たちは帰ったの。でもね、クロは残ったのよ……こっちの生活の方が楽しいって笑顔で師匠と話している声を聞いたのは嬉しかったな……」
頬笑みながら話すビスチェにその場にいた誰もがこれは恋心ではないかと思うが、次に口を開いたビスチェに全員が引く事となる。
「クロが残ってくれて本当に良かったわ。薬草を何時間もゴリゴリするのは本当に疲れるのよ。どんなに頑張っても小さな粒が残ったり、一定方向に回し続けていると目が回ったり、何よりも炊事洗濯をしてくれる事が嬉しいわね! あれはクロの天職だと思うわ!」
恋心というよりは便利な小間使いを手に入れたのだと誰しもが思い、この場にいないクロに多少なり同情の心が生まれる一同。
「最初は何の魔法や魔術も使えなかったけど、死の物狂いで大変だったらしいわよ。聖王国の不死のダンジョンで何とか生き残ってシールド魔法を覚って。誰しも一つぐらい特技があるものね。あのシールド魔法は今までのシールド魔法とは根本から違う気がするの。だって師匠ですら再現できない部分があるのよ!
シールドに色付けしたり、絵を施したり、自由に形を変えたりするのは本当に凄いを通り越して異常だわ! シールドを何枚も重ねて強度を増したり、それで魔物に突撃したり、背中に風を受けて飛ぼうとするなんて無謀だわ! 私の精霊魔法でも破壊できなかった時は驚いたけど、」
「おいおい、人の秘密を王族にばらすとかやめてくれよ……」
夢中で話すビスチェの言葉を遮る様に帰ってきたクロは声をかけ、その後ろにはほくほくとした笑顔を浮かべるエルフェリーン。
「よかった! 無事だったのね!」
「ああ、純魔族は生きていたけど師匠がとどめを刺して……怖かった……」
「欲しい素材が手に入ったからね! これで色々と作れるよ!」
心底疲れた顔で椅子に腰かけるクロとは対照的にスキップしながら錬金室へと入るエルフェリーン。
「本当に純魔族を倒したのか……これは歴史的に見ても凄い事では……」
第二王子の発言にビスチェは腰に手を当てドヤ顔を向ける。
「私の師匠は凄いのよ!」
「凄いのは知っていたが……」
「それよりもどうしてお前がドヤ顔するんだよ……するならついて行った俺だろうに……」
「いいのよ! 私の師匠なんだからね! あんたは弱った純魔族を捕獲しただけでしょ!」
「お前は遠くから見ていただけだろ……はぁ……何か疲れた……」
深くため息を吐くクロにメイドの一人がお茶を入れ前に置くとお礼をいって口にする。
「純魔族を捕獲と聞いたが、やはりあの時のアイテムボックスの様なスキルで捕獲したのか」
「ああ、アイテムボックスとはちょっとだけ違うが、シールドで作った空間に聖属性を施せる女神の肖像画を描いてそこに純魔族を入れた……もう死んでるかと思って中を確認したら弱々しい声で殺してくれって……それに純魔族は死んでも魔界で復活するらしくて、師匠とは八度も対峙して退治されてるって……」
「もしかしたらだけど、あの純魔族は復活する度に王位継承に巻き込まれているんじゃないかしら? 純魔族の復活は数十年から数百年を必要とするらしいわ。復活の度に王族の王位の争いに巻き込まれているとしたら少し可愛そうね……」
「その度に師匠が退治してるってのかよ……」
「そうすると王都の誰かが、あの純魔族と契約できる方法を残しているという事か……」
「調べてみた方がいいかもしれませんね」
ビスチェの憶測から第二王子とメイドが眉間にしわを寄せ、王国に純魔族を使い呪いを付与する者がいると決定付ける。
「それにしても純魔族を八度も倒しているという事実が凄過ぎて実感が湧きませんね」
「もしもエルフェリーンさまがいなければ王家の試練など諦めていたところだからな」
「歴史に何度か登場し、いくつもの国が滅ぼされた純魔族を……」
「その純魔族が命乞いじゃなく殺してくれって弱々しい声で話すのは精神に悪過ぎる……」
そう声を漏らすクロにビスチェが口角をニヤリと上げる。
「それってあんたの作った女神さま模様のシールド効果で強力な聖属性が付与されたって事じゃない! それだけ後悔したら次に復活した時は契約も結ばないかもしれないわね!」
「復活したら魔界で農業でもしてて欲しいな……」
その言葉に笑いはじめるビスチェと第二王子ダリル。メイドや女騎士も笑い出しクロも少しだけ気がまぎれるのだった。
本日はあと二話投稿予定です。
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