漆黒のバスで王都へ
ベイクドポテトを作り続け数日が経過し、アイテムボックスには収穫祭に向け用意したモツ煮込みとベイクドポテトが予定数収納できエルフェリーンの転移魔法でターベスト王国の王都へと転移する草原の若葉たち。
メリリはいつもの様に猫耳を付け変装し、七味たちは女神の小部屋で待機している。
「今年も多くの人が並んでいるね~」
街に入る城門近くには近隣の村から足を運ぶ者たちが列を作り、なかには数台の馬車を引き攣れた商人なども並び、その横を改造した大型の馬なし馬車で進み目を見開く人々。このバスに似た車はエルフェリーンとルビーが巨大なムカデの甲殻を贅沢に使い漆黒に仕上げた八輪駆動で、内部もサロンバスのように贅沢な仕様になっている。
「凄く目立っていますね~」
「うふふ、馬が引かないだけでも目立ちますが、この大きさも目立つ要因ですねぇ」
「うむ、八頭引きの馬車よりも大きいのじゃ。見慣れぬものが見れば魔物と勘違いされるのじゃ」
「それで上に旗を付けたのですね~」
バスの上部には錬金ギルドのエンブレムであるフラスコと薬草を模した葉が描かれ、更には王家の紋章であるユリの花に三本の剣が描かれている国旗が掲げられている。それに気が付いた者たちは道を開けるのはもちろんだが、頭を下げ平伏するものも現れる始末である。
「やっぱり態々これで来なくとも転移魔法で直接、城の中庭とかに転移した方が良かったのでは?」
窓から顔を出して並ぶ人々へ手を振るエルフェリーンに提案するクロ。エルフェリーンは笑顔のままでクロへ向き直り口を開く。
「頑張って作ったからね~みんなにお披露目したいよね~」
「そうです! このカートは巨大ムカデの甲殻を贅沢に使い漆黒の光沢が美しく仕上げました! 内装だって特別な素材をいくつも使い下手したら城が立つレベルの材料費です! ちょっと自慢してもバチは当たらないと思います! なによりもこの揺れの少なさを体験したら普通の馬車に乗りたいと思わないはずです!」
ルビーがいうように使っている素材に加え、クロが魔力創造した車の雑誌から本格的なサスペンションなどを再現してこのバスに活用している。タイヤもクロが魔力創造で創った最高のものを使い、ナンバープレートには『草原の若葉』と文字が記載されている。
「凄いカートに乗っているのですね……」
「外装だけでも金貨数百枚はするぜ~」
「巨大ムカデの甲殻は軽くて丈夫だから便利です! このシートに使っている革もレッドブルの良いものを使い手触りと重厚感があって素晴らしいできだと私は思います!」
シャロンが顔を引き攣らせ驚きエルフェリーンとルビーはドヤ顔である。
「カートというよりも高級サロンバスですね~クロ先輩、サロンバスにはシャンパンだと思いますよ~」
アイリーンがイメージするセレブな乗り物のイメージに合う飲み物を口にするとエルフェリーンとルビーにビスチェやロザリアにキュアーゼなどの酒飲みたちが目を輝かせる。が、クロは首を横に振り口を開く。
「収穫祭は午後からだからな。それに屋台の確認や挨拶回りもあるし、国王陛下に合う前に酔っぱらっていたら師匠のイメージや威厳に……師匠、そんな顔をしてもダメですよ」
目を潤ませ両手を合わせるエルフェリーン。ルビーも同じように手を合わせ頭まで下げるがクロは首を横に振る。
「祭りが始まればすぐに飲むでしょう。始まるまでは我慢して下さい。あと、キャロットはポテチの油をソファーで拭くな! ほら、おしぼり!」
「わかったのだ!」
キャロットには金銭感覚というものがほぼないのか、先ほどの説明を聞きながらも白亜とポテチを食べ高級ソファーにボロボロと食べカスを落とすが気にする様子もなく、アイリーンが浄化魔法を使い内部を浄化すると白亜から抗議の鳴声が上がる。
「キュウキュウ!!」
「最後に指を舐めるのが一番美味しいのだ! それを奪うのはダメなのだ!」
キャロットが白亜の鳴声を訳し「それは理解できます……ごめんなさい」と素直に謝罪するアイリーンであった。
「運転というのは大きくても楽しいのじゃな。馬車と違い会話ができるのも良いものじゃな」
運転席から降りたロザリアは街中を進み満足げな表情を浮かべ、国王に王妃たちが出迎える城の前では兵士たちが物珍しそうに大型のバスを見つめる。
「これほど大きな物を作るとは恐れ入るな……」
「こ、これもカートなのですね……」
「中が広ければゆったりと寛げますね。馬車を大きくしようとしてもこれ程のサイズは引く馬の連携も難しくなるでしょうから……羨ましい限りです」
国王に王妃たちは驚きが隠せずあんぐりと口を開けたまま放心して視線を向け、ハミル王女とアリル王女はアイリーンに手を引かれ中へ入り窓から顔を出し固まっている国王たちに手を振る。
「中も凄いです! サロンのように広く綺麗です!」
「ふわぁ~高いです! それに良い匂いがします!」
子供らしく喜ぶ二人にアイリーンは窓から落ちないように体を支え、白亜とキャロットも王女たちと一緒に手を振り和やかな時間を楽しむクロたち。
「ほら見てごらん。ここに屋台を二つ設置するからね~その後ろには休憩スペースの小屋を設置するから休憩もばっちりできるぜ~」
王城の前には広いロータリーがあり普段なら中央には手入れされた花壇があるのだが、花壇は撤去され剥き出しの土が見える。
「城の入口は塞げないから少しずれて屋台を置きましょうか。小屋はその後ろに出しますね」
「出しますね」というクロの言葉に近衛兵たちは口を傾げるがクロがアイテムボックスを起動し魔力創造で事前に想像して置いたログハウスがゆっくりと姿を見せ、こちらもあんぐりと口を開け固まる。
元から石畳でほぼ水平な事もあってか傾くことなく姿を現したログハウスに、バスから降りたハミルと王女とアリル王女が走りアイリーンと共に中へ入り今度はこちらから手を振る二人。
「家を一軒収納できるアイテムボックスのスキルとは恐れ入るな……」
「あれだけの収納があれば商人としても引く手あまたでしょうね……」
「商家の生まれなので少しは理解できますが……クロさんは規格外という言葉がぴったりですね……」
バスからログハウスに視線を向け固まる国王と王妃たち。クロは耳に入った驚きの声を聞かなかった事にしながら用意してきた屋台もアイテムボックスから取り出して設置し、クロの後ろで腕を組みドヤ顔をするエルフェリーンとビスチェ。
「クロさまのアイテムボックスのサイズに限界はあるのですか?」
上着をクイクイと引っ張り口にする聖女タトーラ。クロは顎に手を当て考え東京○ワーやギガアリゲーターに島クジラの半分が入るスペースのあるアイテムボックスの容量に制限があるのか疑問に思ったのだ。
「まだ容量を満たしたことがないのでわかりませんね……」
クロの素直な感想に目を見開く聖女タトーラ。先日も大量のカニや魚介類をゴブリンたちから受け取った事を思い出し尊敬の眼差しを向け、ドヤ顔から上体を反らしやや上を向いてドヤ顔を披露するエルフェリーンとビスチェ。
「うふふ、屋台の設置が終わりましたし、今日から三日間、収穫祭を頑張りましょうねぇ」
「はい! がんばります!」
「ええ、頑張りましょう!」
メリリの声にハミル王女とアリル王女が控室代わりのログハウスから身を乗り出して叫ぶのであった。
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