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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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ベイクドポテトと厚切の肉



 茹で上がった芋にナイフを入れる十字にカットし指で四方に圧力を加えてジャガイモを開き、カットしたベーコンと玉ねぎを乗せチーズを振りかけマヨを格子状に垂らしてオーブンに入れる。


「ベイクドポテトですね~皮付きのベイクドポテトはまわりがカリカリして美味しいですよね~」


「マヨが掛かっていたからこんがりと焼けて美味しいはずよ!」


「ポテトサラダではなかったですが楽しみです」


 キッチンカウンターで様子を見守るビスチェとシャロン。アイリーンは糸を解きえ七味たちを壁に送りクロの傍で作業を見守っている。


「モツ煮込みとベイクドポテトだと買いに来た人の手が塞がるから串にするか迷ったが、マヨを使うとなるとやっぱりオーブンで少し焦がしたいよな」


「先日の焦がし醬油からクロ先輩に焦がしブームが来ていますね~」


「そういう訳ではないが……ダンジョン産のマヨの使い方の例として焦がしたマヨも美味しいと知ってもらえればと思っただけだがな」


 オーブンに入れ十分ほど強火で加熱し焼き上がりを確認するとチーズは溶けマヨには適度な焦げ色が付き取り出しキッチンテーブルに移動させる。


「ふわぁ~美味しそうですね~今口に入れたら確実に火傷する熱さですよ~」


「そうなんだよな。祭り当日は軽くオーブンで温めるぐらいにしないと口の中が大変な事になる奴が多そうだよな」


「完成品は冷ましてからアイテムボックスに収納ですね~」


 屋台での段取りを考えながら皿に移しアイリーンがリビングへ運ぶと歓声が上がり、クロはキッチンテーブルで待つビスチェとシャロンに届け、七味たち用に皿に移すと壁から飛び降り両手を上げてお尻を振る感謝の踊りを披露する七味たち。


「熱いから注意してな。どれ俺も味見をするか」


 湯気を上げるベイクドポテトをフォークで軽く崩して口に運ぶと濃厚なチーズの旨味と焦げたマヨの香ばしい匂いにジャガイモのホクホクとした感じに加え、皮がパリパリのパリパリとした食感がアクセントになり予定よりも美味しくなったと心の中で自画自賛するクロ。


「クロさま、神託です!」


 キッチンへ走りやって来た聖女タトーラの手には熱々のベイクドポテトが揺れ、クロはそれを察して次を作り始める。


「熱っ!? 美味っ! これヤバイですよ! じゃがバターよりもこっちの方が美味しいです!」


「皮がパリパリするのが良いわね!」


「ベーコンの塩気と玉ねぎの甘みも芋と合って美味しいです」


 キッチンカウンターで試食をするアイリーンとビスチェにシャロンからの賛辞を背にジャガイモを茹でるクロは屋台料理が決まったなと心の中で喜びながらも、あと数日に迫った収穫祭に向けどれだけの食材が必要になるか思案する。


「うふふ、クロさまとても美味しゅうございました。欲を言えば少しだけ量が少なく感じました」


 拳大のベイクドポテトを平らげたメリリが戻り感想を口にする。


「おかわりなのだ!」


 キャロットもからの皿を天高く上げ叫びおかわりを要求するが人数分しか用意がなく、次はまだ茹でている最中である。


「まだ次は時間が掛かるが、そんなに食べると夕食が食べられなくなるぞ」


 クロの言葉にハッとするメリリとキャロット。


「おやつだったのですね……」


「食べ始めたらお腹が空いたのだ……」


 キッチンの入口でヘナヘナと力なく膝から崩れるキャロット。メリリは皿を寂しそうに見つめる。


「おやつというよりは試作の味見だな。夕食はキャロットの好きな肉をメインに使うが待てるか?」


 その言葉を受け顔を上げ目を輝かせたキャロットは「待つのだ! 絶対に肉なのだ!」と元気に叫び立ち上がると皿をキッチンテーブルに置き、尻尾を振りながらリビングでふぅふぅと息を掛けベイクドポテトを食べる白亜の横へと戻る。


「メリリさんにはお願いしたい事があって」


「お願いですか?」


 皿からクロへと視線を向けるメリリ。


「屋台で使う薪の量を増やした方が良さそうなのでお願いできますか?」


「はい、それぐらいならお任せ下さい。それで、あの、ですね……」


「終わった頃には新しいのが焼けていると思いますよ」


 メリリの性格を知るクロが先を読んで口にするとメリリはパッと表情を咲かせキッチンから外へ向かいスコーンと気持ちの良い音がキッチン内へ届き、クロは屋台で使用する薪問題が解決したと喜びながら玉ねぎとベーコンをカットする。


「美味しかったですよ~私も手伝いますね~」


「僕も玉ねぎを切るぐらいならできますので手伝わせて下さい」


 アイリーンがクロの横に並び魔力創造で創り出した大量のベーコンのカットをはじめ、シャロンもナイフを持つと玉ねぎをカットする。


「焼き上がったぞ~」


 クロがリビングに叫ぶと真っ先に飛んでくる聖女タトーラと白亜を肩車したキャロット。


「女神さま方にはこの皿のをお願いします」


 湯気を上げるベイクドポテトが五つ乗った皿を聖女タトーラに伝え、涎を垂らしてお腹を鳴らすキャロットには「熱いから注して食べろよ」と比較的小さなベイクドポテトを皿に乗せ渡す。


「わかったのだ!」


「キュウキュウ~」


「もうすぐ夕食になるからな。それを食べたらお風呂の掃除を頼むな」


「わかったのだ!」


「キュウキュウ~」


 リビングに向かう一人と一匹を見送り大量に刻んだ玉ねぎとベーコンをアイテムボックスに収納すると、夕食に使おうと用意していた肉を厚めにカットするクロ。


「随分と厚く切るのですね」


 玉ねぎを切り終えたアイリーンとベーコンを切り終えたシャロンが五センチほどの厚さに切ったイノシシ肉の肩ロースを見つめる。


「猪でも肩ロースの部分は柔らかく食べられるからさ。前に食べた時も思ったが脂身には甘さがあって最高だったな」


 以前は猪の肉をとんかつにして食しロースの脂部分の甘味に豚以上の旨味を感じ、厚く切っても美味しく食べられるだろうと肩ロースを切り大量の玉ねぎと一緒にボウルに入れる。


「玉ねぎと一緒に炒めるのですね~」


「その心算だが今は玉ねぎの酵素の力を使って肉を軟らかくしているからな。肉は両面をしっかり焼いてオーブンに入れ、玉ねぎは炒めてソースにするからな」


 肉を玉ねぎと一緒にボウルに入れ柔らかくしている間にキャベツの千切りや茹でてあったジャガイモを潰してキュウリやニンジンを入れたポテトサラダにし、ワカメと豆腐のお味噌汁と白菜の漬物を用意して米を炊く。


 米が炊きあがると自然とリビングに集まり肉を焼き始めるとその香りに鼻をスンスンと動かし、エルフェリーンやルビーはウイスキーを片手に晩酌をはじめ、キュロットとビスチェにフランとクランは白ワインを開け口にする。


「この香りだけでもお酒が飲めるぜ~」


 リビングに漂う甘辛い香りには生姜の匂いが合わさりキャロットと白亜の意を刺激し、グワラや聖女タトーラも顔を赤くしてお腹を押さえる。


「うふふ、今夜は厚切の生姜焼き定食です~」


 エルフェリーンの前にトレーごと生姜焼き定食が届き歓声を上げる一同。メルフェルンやアイリーンも手伝い次々に運び込まれ、分厚い生姜焼きを前に目を輝かせる乙女たち。


「冷めると固くなるのでお熱いうちにご賞味下さい。ささ、シャロンさまも席に着いてお食べ下さい」


 皆に生姜焼きが行き渡りシャロンやアイリーンが席に着き、「いただきます」の声が重なり一斉に食べ始める。キッチンのでは七味たちが夢中で生姜焼きを食べ、リビングの隅では小雪もクロが焼いた肩ロースを口にしながら尻尾を振る。


「ふぅ……ベイクドポテトの仕込みはあと三日以内に終わらせないとだな……よしっ! 俺も食べたら頑張るか!」


 キッチンでベイクドポテトを何食分用意するか考えながら分厚くも柔らかく焼いた生姜焼きに満足するクロなのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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