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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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屋台の場所



 マーマンの村から戻り数日が経過し、屋台の準備に向けた打ち合わせなどを王都の商業ギルドで終えたエルフェリーンとロザリアが戻るとメリリが温かい紅茶を用意する。


「うふふ、今日は冷えますので温かい紅茶をご用意致しました」


 湯気を上げるカップがテーブルに置かれるとお礼を言って口にする二人。錬金工房草原の若葉は秋らしい日から冬に向け気温がぐっと下がり朝方には息が白くなるほどである。


「王都はまだ温かいけど収穫祭が終わる頃には寒くなるからね~もしかしたら収穫祭の日も冷えるかもしれないぜ~」


「うふふ、そうなると体を温めてくれるモツ煮込みはたくさん売れそうですねぇ」


「うむ、こっちの気温なら間違いなく長蛇の列ができるのじゃ。待つ間に冷えた体を温めてくれるじゃろう」


「商業ギルドでは話し合いの方はどうでしたか?」


 クロがクッキーやチョコを乗せた皿をテーブルに置くとキャロットや白亜、別のソファーで話をしていたシャロンにキュアーゼやメルフェルンも現れる。


「クッキーなのだ!」


「キュウキュウ~」


 クッキーを前に両手を上げて喜ぶキャロットと白亜。キュアーゼも妖艶に微笑みシャロンも表情を崩しメルフェルンはお茶を入れに動く。


「チョコもあるわねぇ」


「キュア姉さんはチョコに目がないですね」


「あら、チョコは美味しいもの。シャロンもチョコが大好きでしょ?」


「そうですね。母さんもそうですがキョルシーにも食べさせてあげたいですね」


「キョルシーが喜ぶ姿が目に浮かぶわね。新年前には一度戻った方が良いかしら?」


「それなら送って行くぜ~フィロフィロの報告もまだしていないのだろ?」


「前に冒険者ギルドにお願いして商人を紹介してもらい手紙を任せましたが、まだ着いてはいないかもしれませんね。グリフォンに乗っても一週間以上掛かりましたし、天候によってはもっと掛かりますから……」


 グリフォンに乗り一人旅でここを目指したシャロンは大変な旅だったけど途中でメルフェルンが加わり助かったなと思いながらキッチンでお茶を用意するメルフェルンへ移す。すると、視線の先ではお茶を用意しながらもクロが夕食に用意しているカラアゲをこっそりと口に入れる姿があり、笑いそうになるのを堪え視線をテーブルのお菓子へと移す。


「このクッキーもクロから教わって城で作っていたけど、これほどの味が出せたものはないわね。特にチョコが入っているものは別格に美味しいわ」


「うふふ、バタークッキーも美味しいですねぇ。チョコチップ入りも美味しいのですがシンプルにバターの香りが食欲を刺激します」


「バターと言えばマーマンさんたちも喜んでいましたね~バターを使うのは最早正義かもしれません!」


 天井から糸を使い現れたアイリーンはバタークッキーを口に入れ表情を溶かす。


「あの魚を炒めた料理も美味しかったわね。バターの香りで魚臭さは皆無だったし、身がシットリとしながらもホロホロと崩れるのは癖になる味だったわ」


 ビスチェと聖女タトーラも現れクッキーを口に入れ、メリリが名残惜しそうに立ち上がりお茶を追加しに動く。


「マーマンたちも喜んでいたね~クロの料理はみんなを笑顔にする魔法の料理だよ~」


 エルフェリーンの言葉にクロが照れながらリビングを退出し、キッチンでつまみ食いをするメリリと視線が合い顔色を青く変えすぐに頭を下げる姿に苦笑いを浮かべ、すれ違うメルフェルンの唇にも油が付いていたが味見をしてくれたと自分を納得させる。


「味はどうでしたか?」


「も、申し訳ありません……つい出来心で……」


「味見をしてくれたのだと思っていますから。それよりも味はどうでしたか? 少し薄めにして炒め物にしようかと思っていたのですが」


「はい、そのままでも美味しかったのですが味は薄く感じました。別物と炒め味を付けるのなら丁度良いと思います。うふふ、私はお茶を届けて参りますね」


 クロのフォローで笑顔を取り戻したメリリはリビングに向かい、クロは皆が揃った事もありオヤツの量を増やし皿に追加のクッキーやポテチを入れると帰って来たメルフェルンが回収しリビングへと向かう。


「クロ~君も関係ある話だからこっちに来てくれ~」


 エルフェリーンの叫びにクロは屋台の関係の事かと思い足を向けると椅子を引き出してパンパンと叩き、そこへ腰を下ろすクロ。


「収穫祭で出す屋台の事だけど、商業ギルドの要望と王家からの圧力があってね~」


「圧力ですか?」


「うむ、王家からの圧力というほどじゃないのじゃが、商業ギルドからは前回の屋台で長蛇の列を作り通行が一時麻痺した事もあったじゃろ。もっと広い場所で屋台を開いて欲しいとお願いされたのじゃ」


「春の新年祭の時も長い列ができたからね~それで、場所は王城の入口付近にある場所に設置する事になったぜ~」


「王城の前とか防犯の問題がある気がしますが……」


「そこは大丈夫だよ。王さまから直々に頼まれたからね~警備兵も増やしアリルとハミルも参加するからね~」


「ハミル王女とアリル王女がですか!?」


「うむ、もちろん変装はするのじゃが、社会勉強になるだろうと王妃さま方が引かぬのじゃ」


「安全面に問題がないよう僕がエンチャントを施した防御魔法が瞬時に展開するネックスレスを作るといったら王さまが折れてね~」


 エルフェリーンの言葉にジト目を送るクロ。だが、他の者たちの表情は明るくビスチェにアイリーンは特に嬉しそうに微笑みを浮かべる。


「ハミルがくるのならマヨを入れたメニューを作らないとね!」


「アリルちゃんもマヨは喜びますね~クロ先輩はアイディアマンなので大丈夫ですよね~」


 急に話を振られ腕を組み屋台で出すマヨ料理を思案するクロ。


「そうなるとマヨを量産して、屋台で出すには大鍋の横だろ……う~ん、焼いたり煮たりはできてもオーブンを使うのは難しいよな……マヨも焦がすと美味しくなるが……」


「それならコンロの上に大きく被せるような蓋を作れば簡単なオーブンになると思います」


 鍛冶場へ続く通路から現れたルビーが汗だくで助言をすると顔を上げるクロ。アイリーンが浄化魔法を掛けると汗だくだったシャツが一瞬で浄化されるが汗は引かず、その場で冷たいスポーツ飲料のペットボトルとおしぼりをアイテムボックスから取り出して渡す。


「それなら………………よしっ! 作ってみるか!」


 そう言葉を残してキッチンへ向かうクロ。エルフェリーンたちはそんなクロを見送り、興味があるのかビスチェとシャロンにアイリーンはキッチンカウンターへと移動する。


「アレはジャガイモですね~」


「芋とマヨは相性が良いからの楽しみね!」


「ポテトサラダも美味しいです」


 アイテムボックスから大量のジャガイモを取り出したクロは目が出ていないことを確認すると、二美を手招きして浄化魔法を掛けて貰い大きな鍋で茹で始める。


「茹でましたね~」


「じゃがバターみたいにマヨを使うのかしら?」


「ポテトサラダかもしれませんよ」


 ギャラリーからの声を聞き流しながら玉ねぎとベーコンにカットし、大量のチーズを魔力創造する。


「後は茹で上がってからだな。七味たちも完成したら食べるだろ?」


 キッチンの上空で糸にぶら下がり作業を見ていた七味たちに声を掛けると片手を上げて頭を上下させ、その反動で糸が絡み合いワチャワチャとした感じになりアイリーンが手を貸してキッチンの床へと下ろすのを手伝う。


「気を付けないとダメですよ~キッチンは火を使うので危険ですからもっと距離を保ってぶら下がるようにして下さいね~」


 アイリーンからの指導に頭を下げ反省する七味たちであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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