マーマンたちのカニの養殖
夜は広場にテントを張り一泊し、翌日にはマーマンたちの集落を訪れていた。
「立派な養殖施設ですね~カニがいっぱいですよ」
ゴブリンたちが海水から塩を作る小屋の近くにはカニの養殖場があり、ドランが運び入れキャロライナが岩くり抜き二人で海岸に埋めマーマンがカニたちの世話をしている。
「カニが食べ放題なのだ!」
「キュウキュウ~」
キャロットと白亜が歓声を上げるとカニたちが両手を上げて威嚇をする。その様子に新鮮さは折り紙付きだろうとカニを使ったメニューを思い浮かべるクロ。
「神託では魚料理を所望されておりましたので……カニはどうなのでしょうか?」
「ああ、そういえば魚料理が食べたいと注文を受けていたっけ」
「神託です!」
「そうそう、神託だったな。カニ料理でも喜ぶと思うが、」
「それなら我らが取ってこよう!」
「アイリーンも食べるのなら喜んで力を貸すぞ!」
「海の事なら任せておけ!」
マーマンの男たちが槍を持ち恩人であるアイリーンの為に海へと走り潜る。以前、ギガアリゲーターにこの海域を支配され多くの仲間を失ったがアイリーンが討伐し、その恩返しがしたいマーマンたちはカニの養殖場もキャロライナへ相談しアイリーンの為にと管理しているのである。
「アイリーンはマーマンたちの英雄だね~僕も鼻が高いよ~」
「英雄だなんて……でも、皆さんお元気そうで良かったです。それにカニ食べ放題も嬉しいですね~」
エルフェリーンが微笑み、アイリーンも久しぶりに会うマーマンたちの健やかな様子に微笑みを浮かべる。
「最近ではゴブリンさんたちと食事を共にする事も多いのですよ」
「塩作りをするゴブリンさんたちに火を分けてもらい魚を料理しています」
「キャロライナさまから料理を教わり生食以外の料理が良いと子供たちに我儘を言われることも多くなっているのよ」
マーマンの主婦たちが笑いながら話す姿にアイリーンはクロを肘で軽く突き口を開く。
「それならクロ先輩の料理も食べてもらったらどうですか? 昨日キャロライナさんとの料理勝負で卑怯な手を使い勝った実力者ですからね~」
「卑怯とかいうなよ……焦がし醤油は確かに卑怯かもしれないが、ハンバーグとカニのサラダは普通の料理だったろ」
焦がし醤油の香りは卑怯だったと認めるクロ。マーマンの主婦たちはアイリーンの言葉に驚きが隠せないのか落ち着きがなくなりざわざわとした空気へと変わる。
「キャロライナさまよりも料理の腕があるのですか!?」
「この前頂いた猪を使った料理も美味しかったけど、アレを越える味とか想像もできないよ」
「米を使った料理も美味しかったけど……前にクロが来た時は魚や貝を焼いてもらったが……」
ざわつくマーマン主婦たちにクロはアイテムボックスを起動し収穫祭用に用意していた大鍋を取り出す。
「ターベスト王国の祭り用に作った料理ですが、皆さんで試食してみませんか?」
大鍋の蓋を取ると味噌の香りが広がり鼻をスンスンと動かすマーマン主婦たち。近くにいた子供たちもクロのまわりに集まりお腹を一斉に鳴らす。
「食べるのだ!」
「キュウキュウ~」
真っ先に両手を上げて喜ぶキャロットと白亜。クロはテーブルを用意すると紙製の容器に入れ、メルフェルンやメリリが手伝いモツ煮込みを配り始める。
「熱いので注意して下さい」
「うふふ、美味しいですよぉ」
うずうずしていた子供たちに配ると近くにいる母親の下へと走り丁寧に頭を下げ、スプーンで口に入れ味を確かめ子供たち食べさせる。
「うめぇ~初めて食べる味だ!」
子供たちのリーダーなのかマーマンの少年が叫ぶと他の子供たちも口にして表情を溶かす。母親たちも配られたモツ煮込みを口に入れクニクニとしたモツの食感に抵抗がないのか自然と微笑みを浮かべ口にする。
「これも美味しいわね。変わった肉を使っているのかプルプルしてるよ」
「味も美味しいわね。体の芯から温まるようだわ」
「色も変わっているわよ。茶色いのよ」
マーマンたちの食文化は基本的に生食である。最近はゴブリンたちに火を分けてもらい魚や貝を串焼きにしたり海水で魚を茹でたりするがあまり凝った料理を作ることはなく、キャロライナから教わった料理も殆どが魚の焼き方であったり下拵えのやり方でスープにして食べることはなかったのかモツ煮込みの汁を飲み喜ぶマーマンたち。
「クロ先輩、あんなに喜んでいるのですからクジラ肉を使った料理も振舞いたいです。ダメですか?」
「いや、良いと思うぞ。肉も腐ることはないが大量にあるからな。前にも海産物を頂いたお礼をしたいと思っていたからな」
そう口にしながら養殖場から少し離れるとアイテムボックスからBBQ用のコンロを取り出して火を起こすクロ。会話を聞いていた主婦たちがモツ煮込みを片手に集まりクジラ肉の下拵えを見つめる。
「クロ殿、どの様に料理するのですか?」
マーマン主婦たちが聞きたかったであろう質問をキャロラナイが口にする。
「ひとつはシンプルにステーキにしようかと思います。食べやすい大きさにした方が良いですかね?」
「マーマンたちは全身を鱗に覆われているが火に弱く乾燥にもあまり強くはないのでコンロの近くに付いている事ができません。できればそこを配慮して作りやすい料理を教えていただければ……」
マーマンは半水生の亜人種であり全身を鱗に覆われ顔も魚という種族である。乾燥や火に弱いのは魚の特性を持っているからだろう。
「そうなると火から離れて料理ができる串焼き……ああ、トングを使えば問題ないのかな?」
魔力創造で数種類のトングを創造し、柄の長いトングをキャロラナイに手渡すと使い心地を確かめ数度頷きマーマンの主婦たちの下へと向かう。
「これを使えば今からクロ殿が料理する際にも火から乾燥を防ぐことができます。長い箸を使うよりも扱いやすいでしょう」
一人の主婦がトングを持ちカチカチと動かすとまわりのマーマン主婦たちから歓声が上がり子供たちも目を輝かせる。
「カニみたい! カニみたい!」
一人の子供が声を上げそこからは一斉にカニコールが巻き上がり笑みを浮かべるマーマン主婦たち。ドランも「確かにカニみたいだな」と笑い和やかな雰囲気に包まれ、そこへ戻って来たマーマンの男たちが加わり手には多くの魚や貝を入れた網を持ち上げ成果を見せる。
「獲りたてだ!」
「ん? クロ殿が料理をしているのか?」
「前に見た猪の肉とは違うようだな」
メリリがまだ生きている魚を受け取りアイリーンは「それも焼きましょう!」と提案し捌き始め、メルフェルンやビスチェにルビーも下処理を手伝いながらワイワイと盛り上がる養殖場。捌いた際に出る内臓や頭などは養殖場でこちらを見上げているカニたちに送り無駄なく処理され、鯛に似た魚やブリに似た魚を三枚に下ろす。
「魚は網焼きだけじゃなくソテーにしても美味しいよな……BBQ用のコンロじゃなくて竈にすればまわりに熱が逃げずに肌の感想も防げるよな……ルビー手伝ってくれ」
クジラ肉の串焼きをアイリーンに任せルビーを呼ぶと石を積み上げ隙間を泥で塞ぎ即席の竈を作り上げる。薪を入れる場所と竈の上部以外からは熱が漏れない様に石を何重も置いて竈を製作するルビーとクロ。
その後ろでは焼き上がったクジラ肉の串焼きを口にして喜ぶマーマンたちの声が耳に入るが二人は集中しているのか、それとも物作りが楽しいのか休むことなく続ける。
「魚焼きますね~」
「ちょっと待ってくれ、こっちでフライパンを使ってバターで炒めるからさ」
まだ乾燥まではしていないが完成した竈に薪を入れ火を起こすとフライパンを上部にセットするクロ。
「グラグラしないな。これならフライパンや鍋を使って料理できるな」
満足気に頷くクロにマーマン主婦たちが興味深げに見つめるなか調理は進み、鯛やブリに似た魚のバター炒めが振舞われるのであった。
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