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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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注文の多い神託



 焼きおにぎりを量産するクロたちを見つめ聖女タトーラは初めて食べる焼きおにぎりの美味しさに表情を溶かしていたが、脳内に響く声に気が付き意識を向けて目を閉じる。


(聖女タトーラよ、焼きおにぎりを奉納なさい……ああ、それとキャロライナの作った料理やクロの料理にドランが作ったどぶろくやテーブルに並ぶお酒も適当に奉納なさい。それと手にしている焼きおにぎりが崩れそうだから気を付けなさい……)


 女神ベステルからの神託というか注文と注意を受け崩れそうになっている焼きおにぎりを口に入れる聖女タトーラ。


「また注文ですか?」


「もぐもぐもぐもぐ………………いえ、神託です……女神ベステル様からのお言葉なのですから注文ではなく神託です!」


 確りと咀嚼してから飲み込んだ聖女タトーラはアイリーンからの言葉を否定しクロの下へと向かう。

 クロは七味やフランとクランに協力してもらい焼きおにぎりを量産しており、出先でも炊き立ての米が食べられるよう予め炊いてあるご飯にカニの風味を付けるため茹でたカニを解して散らし、中にクジラの大和煮を入れて握り網の上に乗せて焼き色が付いたところで醤油を塗り更に香ばしく焼き上げる。


「クロさま、ご注文、ではなく、神託が降りました。焼きおにぎりとキャロライナさまの料理をご希望とのことです」


 アイリーンに指摘されていた事もあり注文と言い間違えるがすぐに訂正する聖女タトーラ。事実、注文だと思っているクロは笑い出しそうになるが聖女タトーラが信仰する神を笑っては不敬だろうと必死に堪え変化顔になり、ゴブリンの子供たちから爆笑をかっさらう。


「クロの顔が膨らんだ!」


「クロ変な顔~」


「キャハハハハ」


「クロが壊れた~」


 子供たちの笑いに大人たちも混じり何とも言えない表情へ変わるがその手は動かし続け、女神ベステルへ送る焼きおにぎりを完成させると竹で編んだ籠に入れ、他の料理も詰め聖女タトーラへ渡す。


「祭壇はゴブリンシャーマンさんの所にもありますが、自分がいつも使っている物を出しますね」


 そう言いながらアイテムボックスを開き大き目な段ボールとアイリーンと七味たちで作った真白なシールを手渡され、微笑みながら受け取とろうとするが料理を持っている事もありひとりのゴブリンの子供が手伝いを申し出る。


「姉ちゃん俺が手伝うよ。この箱を運べばいいんだろ」


「ありがとうございます。では広場の中央に運んで頂いても宜しいですか」


「ああ、任せてよ! みんな行くぞ!」


 子供たちのリーダーなのか皆を先導して歩き出すゴブリンの子供の後に続き聖女タトーラも足を進める。


 やはり種族は違いますがゴブリンも教会で預かる子供たちと同じですね。リーダーを中心として子供たちをまとめ、小さな社会を作っていますね。ふふふ、私も聖女になる前はリーダーの後に続き一緒に怒られて……


「姉ちゃん、ここでいいか?」


 広場の中央に辿り着き段ボールを置きその上にシーツを置くとニッカリと微笑む子供たちのリーダー。聖女タトーラも微笑みを浮かべお礼を口にすると頬を軽く赤く染め、料理の入ったバスケットを置いて膝を付き祈りの姿勢を取ろうとする。が、膝を折る前に料理か消え失せ急ぎ祈りの姿勢を取る。


(タトーラよ、料理は届きましたがお酒がないわ。急いで日本酒にワインと、何? 梅酒サワーもなの? カシスオレンジとスクリュードライバーも欲しいの? 今やり取りをしているから大声で抗議をしない! えっと、梅酒サワーにカシスオレンジとスクリュードライバーをクロにお願いして奉納なさい。日本酒とワインにウイスキーも忘れぬようにお願いね)


 女神ベステルからの神託という名の注文を受け立ち上がり走り出す聖女タトーラ。子供のゴブリンたちは料理が一瞬で消えた事に驚きキャーキャーとはしゃぎ、聖女タトーラが走り出したこともあり一緒になって走り追う。


「ん? 戻って来たが……ああ、お酒を持たせるのを忘れたな」


 炭火の前で焼きおにぎりを量産するクロはアイテムボックスを起動させ求められているだろう酒を取り出して丈夫な布の袋に入れ、聖女タトーラが到着し神託の内容を伝えるとアイテムボックスから更に段ボール箱を三つ創造する。


「これは重いから子供たちに任せるのはアレだよな」


「なら俺が運ぶぞ」


「俺も手伝うぞ! クロには色々とお世話になっているからな!」


 ゴブリンの男たちが魔力創造した梅酒サワーの段ボールを担ぎお礼を言う聖女タトーラの後に続く。


「ゆっくりと慎重に置いて下さい。すぐに奉納された酒は消えると思われますので消えたらまた慎重に置いて下さい」


 空の段ボールを祭壇に見立てていることもあり慎重に置くよう指示を出す聖女タトーラ。ゴブリンの男は祭壇に奉納するという重大な使命に手が震えながらも静かに置き瞬時に消えた事に驚き、次の段ボールを置くとこれも瞬時に消え失せ神さまに自分が置いたものが届いたのだと感動しながら目を閉じ自然と祈りの姿勢を取り、その姿に子供たちも手を合わせ、聖女タトーラは膝を付き祈りの姿勢を取って目を閉じる。


 その姿を見たゴブリンたちも手を合わせ祈り、アイリーンは指差してクロに告げる。


「ああやって宗教は広まったのかもしれませんね~聖女ちゃんが中心としてゴブリンの皆さんが拝み、新たな宗教が生まれるかもしれませんよ~」


「新たな宗教とか……ここは元々女神ベステルさまを崇めているぞ。米作りを示唆して日本酒を作らせようと田んぼをこの地に誕生させたしさ」


「そういえばそうですね~BL神とか居ればいいのに……」


 小さく呟くアイリーンの願望を聞き流したクロはまだ続くゴブリンたちの列を見ながら焼きおにぎりを裏返し醤油を塗る。


「この香りが溜まらんのう」


「うんうん、醤油が焦げる香りは食欲をそそるね~うぷ」


「お腹がいっぱいでもまた食べたくなるのじゃ」


 流れてくる焼きおにぎりの香りに鼻をスンスンとさせるドランとエルフェリーンにロザリア。手にはウイスキーやブランデーを持ち残った料理をつまみに酒を交わす。


「うふふ、私もそろそろおかわりの列に並びますねぇ」


「また並ぶのですか?」


 メルフェルンが顔を引き攣らせるがスキップしながら長い列に並ぶメリリ。その姿にダイエットは遠いと思うシャロンやキュアーゼ。


(聖女タトーラよ、貴女の働きに感謝するわ。クロとキャロライナには美味しかったと伝えなさい。ああ、それと、最近は肉が続いているわね。明日は魚が食べたいと後で伝えてもらえるかしら)


 神託を受けながら聖女タトーラはアイリーンが口にしていた注文という言葉が頭を過るが目を閉じたまま横に何度か振りその考えを消す。


「はい、女神ベステルさま……」


 新たな注文を受けた聖女タトーラは立ち上がりクロの下へと走り、ゴブリンの子供たちも一緒になって走りクロの下へと向かう。その光景に大人たちは微笑みを浮かべながら酒を交わし合うのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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