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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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料理勝負



 キャロライナの一品目は殻付きのカニの身を玉ねぎやニンニクなどの数種の香草を使い炒めた料理で香り高くスパイシーに仕上げており、その味に歓声を上げるゴブリンたち。


「口の中でカニが弾けるぞ!」


「複雑な味の中にカニの甘味が感じられる!」


「これは酒が進むのじゃ」


「うんうん、辛さもそれ程でもないから食べやすいし、複雑な香りがお酒とも良く合うよ」


「ケイジャンクラブですね! 美味っ!? こっちの世界でも味わえるとは思ってもみませんでした。殻があると食べづらいですが家族旅行で行ったハワイのお高いお店を思い出します……」


 アイリーンは似ている味に気が付き家族旅行のハワイで食べたケイジャンクラブというカニの炒め物を思い出し薄っすら涙を浮かべる。


「クロの料理はサラダかな? あむあむ、うん! シャキシャキとした野菜にカニの甘さとマヨが合うね~こっちもお酒に合うし口直しに最高だよ!」


「マヨを使うのはズルイ気もするけどカニの味が引き出されているわね!」


「食感のある野菜を使っているのがポイント高いのですが、これってカニカマの代用に本物で使うという暴挙では……」


 クロが用意したカニ料理はカニと水菜に大根の細切りを使ったサラダをマヨと崩した茹で卵で和えたものである。アイリーンが指摘するように本来ならカニカマを使って作るところを本物の茹でたカニを使い、少々もったいないと感じるのは転生者だからかもしれない。


「ん……どっちも美味しい……」


「キャロライナさんは香りに重点を置いて、クロ師匠は食感とマヨを使い子供の票を取りに行ったな」


「うふふ、どっちもカニ料理なのに見た目と味が全く違うのには驚きですねぇ」


「お酒が進むのはキャロライナさんの料理ですが、クロさんの料理は一口食べると次が食べたくなります。どっちが上とか関係なく美味しくて悩みますね……」


 フランとクランは分析しながら口に入れ、メリリは一口食べるごとに微笑み食欲が加速し、シャロンはどちらが上か考えながら口に入れ悩みながら次の料理の登場まで腕組みをして首を傾げている。


「次の料理をどうぞ!」


 ゴブリン主婦の言葉に一斉にテーブルに群がるゴブリンたち。エルフェリーンたちにはゴブリン主婦が二種類の料理を届けるとすぐにその場を去り料理を盛る手伝いへと戻る。


「キャロライナのクジラ料理はから揚げに多くの野菜が使われているソースが掛かっているね~見た目が綺麗だよ~」


「小さく切った赤や緑に黄色のソースが綺麗なのじゃ。香りも柑橘系の爽やかな感じがするのじゃ」


「どれ、あむあむ……うむうむ、揚げ物なのにサッパリと食べられ日本酒が進むのう」


「うふふ、これは揚げ物を食べていますが野菜を食べているという気にもなれ、ダイエットになりそうです!」


「ダイエットは無理だと思いますが……」


「油っぽさがないのは食べやすくていいわね!爽やかな香りと酸味のあるソースは疲れた体が求めているようで美味しいわ!」


「対してクロ師匠の料理も柔らかくて美味いな。クジラ肉を使ったハンバーグはガツンと来る美味さと肉汁の溢れ方がヤバイ」


「クロ師匠の料理も美味い……」


「ひき肉だけじゃなく様々な部位が細かくカットされて入っているのじゃ。コリコリとした食感もあって飽きずに食べられるのじゃな」


「先ほどは子供向け、今回は歯が弱いご老人向けの料理とか、クロ先輩は勝ちにきていますよね~」


「うふふ、これはお酒も欲しくなりますが白米を求めてしまいますねぇ」


「ハンバーグは最強なのだ!」


「キュウキュウ~」


 クロの作ったクジラ肉を使ったハンバーグに表情を溶かしながらも更に悩むシャロン。エルフェリーンや子供たちはハンバーグが気に入ったのかモリモリ口に入れ笑顔を浮かべ、ゴブリンの老人たちもこの肉料理なら食べられると皺くちゃな笑顔を咲かせる。


「ん? 香ばしい匂いが……」


 広場には何とも香ばしい匂いが広がり視線を向けるがゴブリンたちが密集している事もあり座ったままでは分からず立ち上がるアイリーン。


「クロ先輩が本気で勝ちに行っていますね……」


 ぽつりと呟くアイリーンに料理や酒を口にしていた草原の若葉の皆が立ち上がる。


「アレは絶対に美味しいやつだよ!」


「最後の料理は米を使った料理だったのう……早く食べたくなるのう……」


「うふふ、この香りだけでもご飯が進みそうですねぇ」


 皆で手と止め運ばれてくる料理を見つめる一同。キャロットだけはおかわりに走りクロを困らせるが、帰りに人数分の米を使った料理を持ち現われ皆から歓迎される。


「クロからなのだ!」


「こちらはキャロラナイさまの料理です。お熱いのでお気を付け下さい」


 エルフェリーンの目の前には二種類の米を使った料理が運ばれ、キャロライナの作った料理はパエリアに似たカニやイカに色とりどりの野菜を炊き込んだ料理で見た目が美しく香りもスパイシーに仕上げている。

 対してクロが作った料理は焼きおにぎりである。


「焼きおにぎりはまだ熱々だから注意が必要だね」


「ハフハフハフハフ、これは間違いないですね。ただの焼きおにぎりではなくカニの風味を感じますし、中にはクジラを使った大和煮が入っていますよ~」


「ハフハフ……味はもちろんじゃが、米の焦げた食感とこの香りが癖になるのじゃ」


「うむ、前にも食したが焼きおにぎりは美味いのう……」


「うふふ、焼きおにぎりは本当に美味しいですねぇ。キャロライナさまの料理も美味しいのですが焼きおにぎりの香りと食感、それに米を食べている感は圧倒的ですねぇ」


「ん……これはヤバイ……依存性がある……」


「焼きそばの時も思ったけど、クロ師匠が焦がす料理は香りがヤバイな」


「カニを茹でた残りを使って米を炊いたのでしょうか? それにまわりに塗ってある醤油も脂感が少しあってクジラの油を使っている?」


 シャロンの言葉にハッとするアイリーン。既に焼きおにぎりを完食しており確かめることができず立ち上がるとクロの下へと走り、先を走るキャロットに追いつきおかわりを宣言する二人。


「そんなに美味しかったか?」


「美味しいのだ! ハンバーグの次に美味しいのだ!」


「確かに美味しかったのですが、カニの風味は茹でた残りを使ってですよね? まわりの醤油もハンバーグを焼いたフランパンに醤油を入れて作ったソースですか?」


 シャロンが分析していた事を口にするアイリーン。


「よくわかったな。カニの出汁が出ているだろうと思ってな。醤油はハンバーグの脂だとしつこいと思ってクジラで作ったベーコンを入れた醤油を塗ったよ。炭で焼いたから燻製感はないがほんのりクジラの脂の旨味が出ていて美味しいだろ」


「今まで数々の焼きおにぎりを食べてきましたが、間違いなく一番美味しい焼きおにぎりでしたね~クロ先輩が本気で作り勝ちにいったのがわかりましたよ~」


 その言葉に隣でパエリアを盛っていたキャロライナが目を見開きクロを見つめ、クロは気まずさを感じながらもトングで焼き上がった焼きおにぎりを皿に乗せキャロライナへと渡す。


「本当に熱々なので注意して下さい」


 湯気を上げる焼きおにぎりを前に香りを確かめたキャロライナは箸を使い口へ運び、熱さを感じながらも味を確かめゆっくりと手にしていた箸と焼きおにぎりの乗った皿を置く。


「私の完敗ですね……料理のテーマが米でしたがカニとクジラの良い味を生かした焼きおにぎり……私が作った料理もお題に沿ってはいましたが、ふぅ……目の前の光景を見れば結果は明らかですね……」


 視線を上げクロの下へと焼きおにぎりのおかわりに来た多くの者たちを前に敗北宣言をするキャロライナ。


「これって、焼きおにぎりの量産をしないとだよな……」


 勝利よりも目の前でおかわりと叫ぶゴブリンたちに、七味たちやフランとクランを呼び焼きおにぎりの量産に追われるクロなのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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