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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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稲刈りの終わり



 鎌を持って稲を刈りながら汗を流す聖女タトーラは初めて体験する稲刈りという重労働をしながら、亜人種であるゴブリンたちも人族と大して変わらない事に驚く。


 中腰のまま稲を掴み鎌で刈り取る作業は腰に披露が溜まりますね。それなのにゴブリンのスピードには驚かされます。子供たちも遊びの一環として刈った稲を集め干す場所へと運び……人族と変わらない笑顔を浮かべ、腰を労り、一団になって労働をするのですね……


「聖女ちゃんも疲れたでしょ。稲刈りは地味にきついですね~」


「そうですね。中腰をキープするのは大変ですね」


 隣で稲を刈るアイリーンから話し掛けられ腰を伸ばしていた聖女タトーラは稲を束ね後ろへと置こうとする。すると、ゴブリンの子供たちが手を出し受け取り微笑みながら渡すとキャッキャと笑顔で受け取り走り出す。その姿に本当に人間と何ら変わらないなと優しい笑みで見送り中腰になり稲刈りを再開する。


「ゴブリンの子供たちは元気ですよね~あのぐらいの年代の子供たちはみんな元気なのでしょうかね~」


「教会でもそうですが子供たちが元気に遊び笑顔を浮かべることができる街は良い国だと思います。この村も良い村なのでしょう」


「そうですね~この村やオーガの村の子供たちはみんな笑顔ですよね~良い村なのだと思いますよ~それに豊作ですし、この後はクロ先輩とキャロライナさんの料理勝負もありますからね~」


「うふふ、料理が楽しみですねぇ」


「料理も楽しみなのじゃが酒も楽しみなのじゃ。こちらの村で作っている日本酒も前に飲ませてもらったが中々の味じゃったのじゃ」


「クロの教わりこの村でもどぶろくを作っておるから飲むといい。アレはアレで飲みやすく美味いからのう」


 稲刈りをしながら会話を弾ませる一同。

 そんな中、ひとり優しい笑みを浮かべながらも涙するグワラ。彼女の視線の先にはフレシアとプレシアの二人が稲刈りをしながら汗を流す姿があり、この村に反省の意味を込め連れてこられ米作りを手伝っているのだが表情は明るく一生懸命に作業を行っているのだ。


「ドランさま、あの二人も立派な戦力として活躍しているようでホッとしました」


「うむ、その通りだよ。最初の一週間ほどは村になじめなかったが今では種族を越えて仲良くなっておるのう。この村では野菜は自分たちで作っているが肉は猟師が取りに行き成果がない日もあるが、レルゲンを中心に二人が槍を持ち猟師として活躍しているのう。今では肉が出ない日はないと皆が喜んでおる。村の男たちや子供たちの体格も良くなったからのう」


「それは、それは……この村に来たのは三人に取って正解だったのですね」


「うむ、レルゲンもプライドばかり高かったが、ゴブリンたちを相手にするうちに思う所があったのか変わったのう。ドラゴニュートという種族は生まれ持っての潜在能力に頼る者が多く自信を高めようとするものが少ない……我もそうであったが、努力をすれば変われると知る事ができれば世界の見方も変わる。レルゲンや二人のように世界が広い事を知り心の中で何かしら変わったのやもしれんのう」


 傲り高ぶった態度で草原の若葉を強襲した三名だったが、稲刈りに汗を流す三名の顔は真剣でありながらもあの時とは違う余裕があり、稲を回収に来たゴブリンの子供たちに「転ぶなよ」と微笑み声を掛けるほどである。


「ふぅ、これで終わりですかね~」


 最後の稲を聖女タトーラが刈り取ると歓声が上がりゴブリンの子供がそれを受け取り走り稲刈りが終了する。誰もが達成感を味わっていると鼻腔を擽る香りに気が付き走り出すキャロット。それを追う小雪とフィロフィロ。シャロンとメルフェルンが追い掛けアイリーンも糸を飛ばして小雪を追い掛ける。

 その姿を皆で笑いながら稲刈りに使った鎌などを片付け、最後に刈り終わった田んぼへ一礼するゴブリンやドラゴニュートたち。


「来年も良き米をお願い致します」


 手を合わせ聖女タトーラも拝むとキラキラと光が舞いビスチェが声を上げる。


「水と土の精霊が躍っているわ。きっと来年も豊作ね!」


 その言葉に拝んでいたゴブリンたち顔を上げ歓声を上げるのであった。






 広場に辿り着いたキャロットは大きくお腹を鳴らし思わず吹き出すクロ。キャロライナは大きなため息を吐きつつも孫が可愛いのか微笑みを浮かべる。


「美味しそうな匂いがするのだ!」


「わふっ!」


「ピィー」


 キャロット共にやってきた小雪とフィロフィロが叫び後を追って現れたシャロンに抱え上げられるフィロフィロ。アイリーンは小雪にリードを付け優しく頭を撫でながら広場に広がる香りにお腹が動き出すのを感じる。


「キャロライナさんの料理は平らなお鍋? クロ先輩はお肉を焼く香りがしますね~七味たちもお手伝いご苦労様です」


「ギギギギギ」


 片手を上げて挨拶を交わす七味たち。ゴブリンたちとは何度か会っており、女神の小部屋で待機していた七味たちにクロとキャロライナの料理対決の補佐役として登場したのである。


「味見をするのだ!」


「わふっ!」


「それなら私も役に立てますね~」


 お腹を鳴らしながら叫ぶキャロットたちにクロは顔を横に振り、キャロラナイが口を開く。


「味見はもう主婦たちにお願いしました。料理ができるまで大人しくいていなさい」


 優しくたしなめられたキャロットがウルウルとクロへ視線を向けるがクロは首を横に振る。


「折角だからもう少し待とうな。料理の方はほぼ完成しているから皆が来たら一緒に食べような」


「ううう、お腹が減って力が出ないのだ……」


「後は食べる体力だけ残して置けよ。それにアイリーンに浄化魔法を掛けてもらおうな」


 キャロットの衣服には稲刈りでついた汚れが目立ちアイリーンは浄化魔法を唱え小雪やフィロフィロにシャロンが浄化され、自身も衣服に付いた藁の欠片が浄化される。


「今はまだみんながあっちに集まっているでしょうし、急いで浄化に向かいますよ!」


「わふっ!」


 稲刈りを終えた田んぼへ向かい走るアイリーンと小雪。それを見送りフライパン開けて確認するクロ。


「ふわぁぁぁぁ、食欲を刺激される香りですね」


「まったくなのだ! それなのに食べられないのは拷問なのだ!」


 シャロンが香りだけで表情を崩し、眉を吊り上げるキャロット。フィロフィロも香りに食欲を刺激されたのか鳴き声を上げ、赤ちゃんたちもキャッキャと笑う。


「こちらは完成ですね。これはメイン料理なので最後にお出しするのでアイテムボックスにお願い致します」


 キャロライナからの要請に応えアイテムボックスへと収納するとキャロットが情けない声を上げながら収納される様子を見送り、アイリーンが戻ってくるとゴブリンの子供たちとキュアーゼにロザリアや、疲れ果てているフランにクランなどが戻り、次第に広場には多くの人が集まりドランと村長が中央へと向かう。


「皆、今日はご苦労! これからキャロライナとクロの料理勝負を行う。酒も多く出すが酔い潰れて審査ができなくなるでないぞ。三品ずつ食べ終えたものから広場を左右に別れ審査してほしい」


 ドランの言葉に今日一の歓声が上がりクロはアイテムボックスに収納してある一品目の料理をテーブルに置き、二人は手慣れた手つきで料理を広げる。


「酒は村で作った日本酒とクロ殿が提供してくれた様々な酒がある! ドランさまがいうように飲み過ぎる前に審査するように!」


 若き村長の言葉に歓声で応えるゴブリンの男たち。女性たちはキャロライアンとクロの下へと向かい盛り付けを手伝っている。


「どんな料理が出るか楽しみだね~」


「お酒にも合う料理が良いのじゃ」


「うふふ、食べ過ぎないように注意しないとですねぇ」


 これから始める料理対決という名の宴会に皆の心が躍るのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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