赤ちゃんとクロ
「では、クロ殿の料理を楽しみにしておるからのう」
「僕もお酒に合う料理が楽しみだよ~」
「我も楽しみにしておるのじゃ」
ドランを中心に殆どの者たちが稲刈りの続きに向かい、クロとキャロライナに数名のゴブリン主婦と赤ちゃんゴブリンを残すだけとなり竈に向かい足を進める。
「ここの竈を使っても大丈夫ですよね?」
「ああ、好きに使っておくれ。クロの料理は前にも食べたけど皆が楽しみにしているからね。食材が足りない時はいっておくれ」
赤ちゃんを背中におんぶし前にも二人抱えたゴブリン主婦の逞しい姿に魔力創造を使いベビーベッド数台とおんぶ紐を創造するクロ。
「あの、良かったら使ってみませんか? こっちは赤ちゃん用のベッドでタイヤが付いているので押して移動できますし、こっちの紐は赤ちゃんをここに入れれば安全におんぶと抱っこができますよ」
ゴブリン主婦たちがわらわらと集まり、ああだこうだ言いながら一人の主婦が装着しおんぶ紐を使用する。
「これは便利だね。お尻を確りと包み込んでいるから落ちる心配もなさそうだ」
「前にも使えるから授乳もしやすそうだよ」
「もっと必要なら出しますのでいって下さいね」
そう口にしながらおんぶ紐を量産するクロ。
「こっちのベッドも移動できるのが便利だわ」
「やんちゃな子だと柵を越え落ちるかもしれないねぇ」
手押しできるベビーベッドも確認しながら数台を村に寄付すると赤ちゃんが泣き出し、それの声は連鎖するのか一斉に鳴き出すゴブリン赤ちゃんたち。
「赤ちゃんが一斉に泣きだしましたが、どうしたら!?」
慌てふためくクロにキャロライナやゴブリン主婦たちは笑い、キャロライナが口を開く。
「クロ殿がまず落ち着いて下さい。赤ちゃんたちは泣き声で自分の意思を伝えているのです。お腹が空いた時、おむつを替えて欲しい時、他にも扱ったり寒かったり、痛みやかゆみがあったり、眠くても泣きます。今だとお腹が空いているのかもしれませんね」
キャロライナの言葉にクロは後ろを向きゴブリン主婦たちは赤ちゃんをあやしながら授乳を開始し、クロは目を閉じながら自身が取り乱した事を軽く反省しながら母親とは偉大だなと感心する。
「食材といえば凍らせたカニがまだ沢山ありますので使いますか?」
「カニですか……そうですね。エルフェリーンさまからはお酒に合う料理というリクエストもあったのでお願いします。こちらからも鹿や猪に蛇の肉やクジラも多くありますので良かったら使って下さい」
海竜たちから送られたクジラ肉はまだまだ在庫が多く、他にもアイリーンが狩りをして取って来た肉もアイテムボックスに眠っておりテーブルを魔力創造で創造し肉を並べる。
「クジラ肉とは珍しいですね。前の料理対決では空鴨やギガアリゲーターの肉を使いましたが、クジラ肉……美味だとは聞きましたが肉質はどうでしたか?」
テーブルに積み上げられた肉に近づきそれらを見つめるキャロライナ。
「先ほど提供したモツ煮込みはクジラの腸を使い味噌で味を付けた料理です。クジラは脂肪が多く甘く柔らかいですね。赤身の部分には旨味が多く塩で焼いただけでも十分美味しいです。この霜降り部分は蕩けるような味わいで、皮も湯引きして余分な脂を落として食べると独特の食感があって美味しいですよ」
「少し頂いても宜しいでしょうか」
「はい、好きなだけお持ち下さい。島クジラと呼ばれる肉を半分ほど頂いて家が数件建つほどの量がありますから……」
アイテムボックスに眠るクジラ肉は軽く見積もっても数千トンを超えており、生涯クジラ肉だけで生活しても使い切ることは不可能であろう。
「アイテムボックスにクジラ料理がいくつかありますので出しますね」
クジラ肉の皮を湯引きしてポン酢を掛けたものやクジラ肉のから揚げにクジラ肉のシンプルステーキに大和煮などを並べるとキャロライナは躊躇うことなく口に入れ、授乳を終えたゴブリン主婦も集まり味見をする。
「クニクニとした食感が面白いですし、酸味のあるタレでサッパリと食べられますね」
「から揚げも肉汁が溢れて美味しいねえ」
「これを食べさせたら旦那たちの舌が肥えちまうよ」
「塩だけでもこれほど美味しいとは驚きだね」
先ほど昼食を取ったゴブリン主婦たちだがその味に満足しているのかクジラ料理を褒めちぎり、キャロライナもクジラ肉のポテンシャルに驚きながら次々に口にする。
「あぁうぅ」
ベッドからクロへ視線を送り話し掛けるように声を発するゴブリンの赤ちゃんの姿に優しく手を振るとキャッキャと喜び、クロはまだ夢中で味見をする一行から赤ちゃんの方へと向かうと片手を上げて「あぅあぅ」と声を上げ、その手に人差し指を向け握手をすると思っていたよりも強い握力に生命力の強さなのだと感じていると後ろからの会話が耳に入る。
「あの様子だと子守りをしてくれる旦那になりそうね~」
「ゴブリンの男どもは子供に興味がないのか、家庭の事は手伝おうとはしないからね~」
「ドラゴニュートも似たようなものです。私はドランを調……教育して子育てにも積極的に手伝わせましたが、国では乳母たちが煩かったわ。陛下におむつを替えさせると何度も小言を……」
拳を握り締め顔を歪ませ不機嫌ですというオーラを放つキャロライナに、ゴブリン主婦たちは困った事になったと顔を引き攣らせる。
「おむつの交換とか大変そうですよね。ああ、こういった物を持っていますが使ってみますか?」
アイテムボックスからポンニルの出産祝いに送った紙おむつを取り出すクロ。それを視界に入れると真っ先にゴブリン主婦たちが動き出し、不機嫌なオーラを放っていたキャロライナもパッケージに描かれている赤ちゃんが目に入り微笑みを浮かべ参加する。
「紙で作られているのでそのまま捨てることができますね。ウエストの所も伸びますし、蒸れないので付けている赤ちゃんも快適だと思いますよ」
紙おむつを開封し説明するクロに目を輝かせるゴブリン主婦たち。キャロライナも感心しながらそれを眺める。
「このくっ付く素材が便利でいいわね」
「本来なら暴れる赤ちゃんに強引に履かせたり横を紐で結んだりだからね」
「当て布が薄くて心配だが絵を見ると吸収力が強そうだね。これならいくら漏らしても大丈夫そうさね」
笑い合いながら紙おむつを手に取り、キャロライナも当時を思い出したのか、それとも赤ちゃんの前だからか微笑みを浮かべながら紙おむつを手にする。
「クロ殿のいた世界は料理もそうですが日用品も洗練されていますね。こんなにも便利なものがあれば子育ても楽しくできましょう」
「それでも一人で子育てするのは大変だと思いますよ。ここは多くの主婦の方がいて協力し合えますし、先輩のお母さんも多くいますから子育てには最高の環境かもしれませんね」
「人数だけは多くいるからね」
「口を出したいだけの老人も多くいるさね」
「あははは、それでも助かっているのは確かだね」
互いに笑い合うゴブリン主婦たちとキャロライナにクロ。笑い声に誘われたのか赤ちゃんゴブリンが声を上げて笑い和やかな空気の中で平和な時間を過ごすのであった。
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