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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十八章 聖女と秋
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再会と稲刈り



 晴天に恵まれた翌日、クロたちはエルフェリーンの転移魔法を使いドランが米作りを手伝うゴブリンの村へと向かった。村には顔なじみになったゴブリンたちの方にも数名のドラゴニュートが降りエルフェリーンたちが転移して現れると、深々と頭を下げた姿勢で出迎える。


「ん? あのドラゴニュートはどうして頭を下げているのかな?」


 首を傾げるエルフェリーンにドランは笑い声を上げながら簡単に説明する。


「ガハハハハ、あの者たちは以前に『草原の若葉』を襲いに来た阿呆共。今では深く反省し、今までの態度を改める生活をここで送っております。ドラゴニュートが他種族よりも多少は強いというだけでそれを態度に表しておりましたが、少しは反省の色が見えてきましたな」


「三名とも以前よりも凛々しく見えますね。特にフレシアとプレシアは……」


 二人の娘であるフレシアとプレシアが顔を上げ、その表情を見つめたグワラが久しぶりの再会に感極まり薄っすらと涙を見せる。


「王国にいた時よりもスッキリとした顔になったじゃろう。レルゲンも眉間の皺が取れたからのう」


「はい……あちらにいた時とは違う顔立ちになりましたね……」


 涙を拭うグワラの姿にフレシアとプレシアはゆっくりと足を進め抱き合い再会を喜び、レルゲンは白亜を抱くキャロットの前で片膝を付く。


「白亜さま、それに皆さまにご迷惑を掛け申し訳なかった。私はこの村で学び、自身がどれだけ愚かであったか理解した心算だ」


 高圧的だったレルゲンからの言葉だとは思えぬほどの変わりように驚くクロたち。エルフェリーンだけはあまり記憶に残っていないのか首を逆に傾げるが、ドランはうむうむと満足そうに頷く。


「エルフェリーンさまに皆さま、歓迎いたします」


「今年も手伝いに来ていただき感謝しますぞ」


 ドランの妻であるキャロライナとゴブリン村長が現れ頭を下げ、クロのまわりにはゴブリンの子供たちが集まりキャッキャと飴を受け取りはしゃぐ。


「ここでもクロさまは子供たちに人気なのですね」


「クロ先輩は飴で子供の人気を得ていますからね~やり方が汚いですね~」


「………………なら、アイリーンは甘味がいらないと?」


「うふふ、でしたら私が頂きますねぇ。昨日の甘芋を使った焼き芋やスイートポテトが楽しみです」


「ちょっ!? そんな事はいってませんよ! 私も子供なのでクロ先輩は人気者です! 大好きですから甘味は食べたいです!」


 そんなやり取りに笑いを上げる一同。ゴブリンたちも笑い合い皆で首を垂れる稲穂の下へと向かう。





「まずは女神さまから賜った田んぼから収穫作業を始めるとしようかの」


 場所を田んぼ近くに移動させたたクロたちは黄金に染まる田んぼを前に思わず見惚れ、鎌を構えたドランの言葉にゴブリンたちはやる気のある声を上げ、クロたちも気合を入れる。


「大変な作業とは聞いていましたが……」


「刈ってもすぐに生えてくるとか無限米とでも名付けましょうか……」


「うふふ、ご飯のおかわりも自由にできますねぇ」


 初めて参加する聖女は慣れない鎌を使い根元から刈り取るがすぐさま青い葉が芽を出し成長する姿に驚く。この現象は去年もあり同じ稲穂から三度収穫するという珍事を体験したのである。


「相変わらず自然の法則を無視した成長速度だね。いっぱい刈って美味しいお酒を造ってくれよ~」


「米のできは酒のできですからな。酒の仕込みが楽しみですな」


「うむ、我らが潰したワインのできも気になるが、米から作った酒も楽しみなのじゃ」


 エルフェリーンやドランにロザリアも額に汗をしながら稲刈りを続け、ゴブリンたちと共に人海戦術で収穫作業を続ける。


「今年は五度も復活するとは……」


「田んぼから栄養がなくならないか心配になるわね……」


「栄養がもうないのだ……」


「キュウキュウ……」


 太陽が真上に来る頃には女神ベステルが作り上げた田んぼとその周辺が刈り取られ、他にもまだ数反残っているが腹を猛獣の呻き声のように鳴らすキャロット。白亜も空腹なようでお腹を抱えて蹲っている。


「そろそろ休憩に致しましょうか。クロ殿へのリベンジではありませんが米を使った料理を用意しておりますよ」


 キャロライナの声にキャロットと白亜が喜び、白亜はキャロライナへと走り優しく抱き上げられクゥクゥと腹を鳴らす。


「それなら収穫祭用に用意してあるモツ煮込みもありますから出しますね。みんなが手伝ってくれたので余るほど作ったので振舞いますよ」


 連日、大鍋に作りアイテムボックスに収納してあるモツ煮込みを取り出すと歓声が上がり、こちらへと向かって来るゴブリン主婦たちの姿も視界に捉えたクロはアイテムボックスからブルーシートを取り出しアイリーンたちと広げると子供たちがテンションを上げてブルーシートの上に乗りはしゃぎ、アイリーンは浄化魔法を使い子供たちごと綺麗にする。


「ふぅ……流石に疲れたね~」


「まだ残っておりますが腹が減っては作業効率も下がるでしょうし、食事に致しましょう」


「これ程疲れるとは思いませんでした……」


「ずっと中腰というは疲れるわね」


「うふふ、ですが、よいトレーニングにもなりそうですねぇ。汗をかけばそれだけ食事が美味しく感じられます」


「小雪にフィロフィロもお手伝いご苦労様です」


「わふぅ」


「ピィー」


 皆でブルーシートに腰を下ろすとクロとメルフェルンからモツ煮込みが配られ、ゴブリン主婦とキャロライナからはおにぎりと漬物が振舞われる。


「こ、これはカニを使ったおにぎりですよ!?」


「はい、マーマンたちの集落で育てております。まだ小さな個体が多いですが順調に育てておりますのでお土産にお持ち下さいね」


 キャロライナが優しく微笑み蟹の身を入れ炊き込み握ったおにぎりを口にするアイリーン。


「とても美味しいです。ものすごく贅沢をしている気分になりますね~」


「あっちだとカニは高いからな。炊き込みご飯にしてみんなに振舞うとか贅沢だよな」


「マーマンさんたちの所にも顔を出したいですね~」


 以前、ギガアリゲーターという恐竜サイズのワニを退治し仲良くなったアイリーン。その事を思い出しながらカニのおにぎりを食べ終える。目の前で尻尾を振りお座りの体勢を取る小雪に食事を与えるべくカニのおにぎりに齧りついているクロへ声を掛ける。


「自分ばっかり食べていないで小雪とフィロフィロちゃんにもお願いしますね~」


「ああ、悪いな。すぐに用意するからな」


 アイテムボックスから小雪とフィロフィロの食事を取り出し専用の木皿に入れるとフィロフィロは軟らかく煮た豆や肉を啄み、小雪は骨付き肉を豪快に齧りつく。


「このおにぎりが収穫していた米なのですね。とても美味しいです」


「米は小麦とは違い硬さがあるので粉にせず、炊き上げて料理することが多いですね~」


 聖女タトーラが収穫している米の味に感心しアイリーンが簡単に説明しながら食事を取り、その様子に聖女さまとも仲良くやってくれていると安心するクロ。クロに追従するという形で『草原の若葉』へやって来た事もあってか多少なり心配になっていたが、アイリーンが中心となり聖女タトーラを誘う事が多く皆とも仲良くできているのだろう。


「残りは半分弱というところかの」


「夕刻までには終わりそうなのじゃ」


「そうなると夕食も何か考えないとですかね?」


「でしたら、また料理を互いに作るのもいいですね」


 ギラリとクロへ視線を向けるキャロライナ。


「婆さまとクロの料理対決なのだ!」


「キュウキュウ~」


 キャロットが叫び白亜も叫ぶと歓声が上がり拒否できぬ雰囲気に顔を引き攣らせるクロ。


「米の収穫ということもあるからね~料理対決は米をメインにしての三本勝負だぜ~」


「うむうむ、楽しみだのう。去年は妻が負けたが、あれから腕を磨いておるからのう」


 エルフェリーンがお題を決め更に盛り上がりを見せ、クロは顔を引き攣らせながらも料理を思案するのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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